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「「流石カイン様!」」

「ねえカイン様。あたしにやらせてもらえない?」

「ちょっと、抜け駆けする気? 私の方が適任じゃない」


 カインの両肩に媚びを売るようにしなだれかかる二人の女性。カインについてきた二人は、決して仲がいいわけではない。むしろ蹴落とそうとする仲でもあった。

 バレット家は国防騎士でもかなり高い地位を持つ家督で、カインはその三男坊ではあるが四元騎士エレメンタル・ナイトというレアリティの高いジョブだ。英雄候補ともいえるカインに媚びを売れば、自分もいい目が見られる。

 そしてカインもそれを分かっていて二人を侍らせていた。有能で自分のいう事を聞いてくれる都合のいい女。この二人以外にもそういう女は何人かいる。


「あーら? この調香師(パフューマー)に勝てると思うのかしら? あたしの香を知らないわけじゃないでしょう」


 愛用の香炉を手にしてカーラ・マクガフィンが微笑む。複数の香草を混ぜ合わせ、魔力を込めた香りで相手を無力化する魔法使い系ジョブ。気づかぬうちに相手を眠らせることなど精神を狂わせることも、彼女には造作もないことだ。


「怖い怖い。香りが届くよりも私の拳の方が早いわよ。龍使い(ロン・マスター)の速度と戦闘技術。しっかり見てなさい」


 拳を握ったアリサ・リーゼンが挑発するように告げる。体内に巡るロンと呼ばれる気を扱い、身体を強化する格闘系ジョブ。自分の強化にしか使えない分、その費用対効果は高く戦闘系ジョブでも有用と言われていた。


「おいおい、いがみ合うなよ。だったら誰が先に決着をつけるか競争すればいいじゃないか。最初にあの二人を倒したヤツが言う事を一つ聞いてもらえる、ってことでどうだ?」


 愛用の剣を手にしてカインは提案する。四元素の精霊を纏わせ、エーテルを断つ騎士。魔法と剣技の両方を兼ね備えた剣魔融合職ハイブリット。そんな自分が蟲使いと糸使い如きに負けるはずがない。


「やだぁ。カイン様が参加されるのなら、勝ち目はないわ」

「でも提案自体は流すのは惜しいです。ハンデを頂けませんか?」

「しょうがないなぁ、俺は五分ほどここで待ってやる」

「五分もですか!? それだけあればおつりがきますわ。カイン様の優しさが伝わってきます!」

「ええ! お覚悟してくださいね、カイン様。今夜は寝かせませんわ」

「おいおい忘れるなよ。今夜のメインはあの女なんだからな。まあ、あんな小娘一人、余裕で堕としてやるけどな!」

「「流石カイン様!」」


 そして笑う三人。新しい玩具でどう遊ぼうか。そんな笑いであった。

 そしてカインは砂時計を逆さにして岩に座り、カーラとアリサは別れてエリックとクーに迫る。風上に移動するカーラと、香りに巻き込まれないような場所に潜むアリサ。


「ムシと小娘如きこれを使うのは業腹だけど」


 先に動いたのはカーラだった。香炉に複数の葉を入れ、魔力を込める。生まれたのは眠りを誘う甘い香り。同時に神経を鋭くし、受ける刺激を倍増させるものだ。


「ムシは朝まで拷問して、あの娘はカイン様の気のすむまで遊ばれて。嗚呼、可哀想可哀想。ふふ、どんな声で啼くのかしら?」


 サディスティックな笑みを浮かべるカーラ。可哀想と言いながら、愉悦を感じてる表情だった。唇を乾かすために、舌で唇をぬめらせる。

 そこに――


「ひゃぁ! なになに! 今服の中に何か入った!?」


 突然足元から《《何か》》が這い上がり、カーラの服の中に侵入する。ぬめりとした感覚が太ももから背中をはいずり回り、刺すような痛みが走る。不意を打たれたことと生理的に受け入れられない感覚がカーラを襲う。

 調香師パフューマーの弱点は、自分自身が襲われた時に何もできない事だ。魔力で香りの流れをコントロールできるが、自分自身に触れている対象をどうにかするには香りを自分自身の近くに飛ばさなければならない。

 そして今飛ばしている香りを自分に向ければ、眠りと感度増加を受けることになる。そうなれば今感じているこのぬめりと痛みも倍増されることになるのだ。


「いやいやいや! 何、何なの!? いやああああああああ!」


 パニックに陥り、走り出すカーラ。舗装されていない森の獣道は凹凸が激しい。突き出た木の根に足を引っかけ、そのまま転んで気を失ってしまう。

 その背中から、大きさ10cmほどのヒルが這い出てきた。


「…………カーラ?」


 いつまでも香が飛んでこない事を怪訝に思ったアリサは首をひねる。そして遠くから聞こえるカーラの悲鳴。

 悲鳴に意識が向いた隙をつくように、一匹の虫がアリサの肩に止まる。茶色い小型の虫だ。反射的に潰そうとして、鼻腔に刺激臭を感じた。


「げっ、カメムシ!?」


 カメムシ。テントウムシほど小さな虫だが防御反応で強いにおいを発する液体を出す。服や皮膚などに就けばその匂いは簡単には取れることはない。


「あのムシ! ふざけたマネを……って、うわああああ!」


 怒りでエリックの方に視線を向けるアリサ。虫による被害だからエリックの仕業に違いないと憤って立ち上がるが、その視線の先に多くのカメムシが飛んできているのを捕らえて悲鳴を上げる。

 カメムシすべてを拳で薙ぎ払う事はアリサにとって難しいことではない。だがそれをすれば、カメムシの匂いが体中につくことになるだろう。その匂いを残したままカインの元に戻れば? 嫌われるのは必至だ。

 カメムシを回避してエリックを狙うか? いや、それも無理だろう。何せ相手は飛んでいる。山道を走って飛ぶ相手を回避し、エリックの元にたどり着くのは不可能だ。こちらは足場が悪く、相手はその影響を受けずに迫ってくるのだから。


「………くっ、ムシ如きに……いいや、カーラが心配だ、仕方ない!」


 エリックを倒すという些事の為に、カメムシの匂いまみれになるのは御免だ。悲鳴を上げたカーラを回収するという名目を思いつき、プライドを保って逃げ出した。


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