「ここなら、多少騒動を起こしても見とがめられないな」
雲一つない空にさんさんと照る太陽。第一の月と第二の月が白く輝いている。
日差しは強いけどまだ夏には遠いのかそれほど熱くはなく、山から吹いてくる風が少し心地良い。
そんな絶好のピクニック日和ともいえる山の中、エリックとクーは歩いていた。傍目には仲睦まじい男女である。
(まあ、明日明後日食べるキノコ探しっていうのが情けない所なんだけど)
心の中でため息をつくエリック。冒険者の仕事がない以上、食べ物を確保しないと死んでしまうのだ。
(ホント、山が近くて助かった。あの頃はそんなことを考える余裕もなかったもんなぁ)
少し前までは地面だけを見て生きてきた。周りを見る余裕はなく、視野を広げようとすらしなかった。それに気づけたのは、あの日助けてもらったからで――
「ねーねー、エリっち。あのキノコって食べれる?」
「分からないなぁ。でもわからないものには手をつけないのが鉄則だから」
「えー? 美味しいかもしれないよ?」
「絶対ダメ。下手すると死んじゃうから」
サバイバルの基礎はあの日助けてもらった人に教えてもらった。その教えを守っているから、今こうして生きているのだ。
「不便ね、人間て。何か食べないと死んじゃうなんて」
クーの言葉に苦笑するエリック。
クーと一緒に暮らすようになって、生活費が増えたという事はない。部屋はクモになってもらえばスペースを取らないし、彼女は食事をそれほど必要としない。嗜好として甘いものを好むが、趣味以上の意味はないらしい。
「オーガとかゴブリンとかは肉体よりだけど、あーしとかは肉体よりも魂の比率が高いのよ。なもんで、あまり食べなくてもダイジョブよ。
そりゃ、良質の魂とか食べれればおけまるだけど、エリっちが癒してくれれば不要だし」
「そうなんだ。魔物って全部そうなの?」
「よりけりじゃね? ドラゴンなんかのデカニートがガチで食いに走ったらあたり一面荒野よ。あのニートらは大地とか火山とかその辺りからエネルギー貰ってるっぽい」
「ドラゴンをニート呼ばわりとか……」
「あいつら家の中でコレクション見ながらニマニマして過ごしてるのよ。ニート以外の何物でもないじゃん!」
「確かにドラゴンが活発的だと困るよなぁ」
そんな会話があったとか。じゃあクーがどうやって糧を得ているかというと、エリックのスキルである。蟲使い専用の<治療(虫専用)>でエリックからエーテル《エネルギー》を譲渡されているのだ。
依頼が成功するまで癒しは受けない、とは言ったが最低限の糧は得ないといけないので日に一回は<治療(虫専用)>を受けているのだが、
「ひゃん! はぁ……あぁん、エリっち、もっと優しくシてぇ……」
「あの、出来れば喋らないで……!」
「う、ん……くぅ、ふぁ……ンんんんんん……!」
(喋らなくても、エロい……!)
<治療(虫専用)>を受けているクーはそんな声をあげて体を震わせてしまう。本人曰く『だって初めてだし……』とのことで。演技なのか本気なのか、いろいろ経験不足なエリックには追及できないでいた。
大抵はエリックが精神的に耐えきれず、音を上げて止めて治療が終わってしまう。その後、席を立って数分ほどトイレに籠るのだが、色々お察しください。クーもその後は精魂尽きたかのようにぐったりしているので、何をしているか追及されることはなかった。
閑話休題。ともあれ、必要な食料はエリックが食べる分だけで事足りる。そしてそれはこの先にあるキノコを摘めば、二日三日はどうにかなるだろう。
二人の足取りは強く、真っ直ぐに進んでいく。
◇ ◆ ◇
そんな二人を追う影があった。
「ここなら、多少騒動を起こしても見とがめられないな」
「可哀想ねぇ、ムシ。カイン様に逆らわなければよかったのに」
「あの娘も、少し痛い目に合わせてもいいんじゃない?」
カインとその取巻きの女性達である。
クーに誘いを断られたのち、怒りが込み上げてきたのかエリックとクーを追いかけてきたのだ。街から十分に離れたここなら、少しばかり痛い目を見せてもバレやしない。
『痛い! ごめんなさい! 逆らってごめんなさい! だからもう酷いことしないでください……! もう逆らいませんから、あぁ!』
『誓います! あーしの全部を貴方に捧げるって誓います! あーし、一生貴方についていきます! だからもっと、ああああん!』
『あんな蟲使いなんかよりも、四元騎士様の方がずっといいです! もうあーしはカイン様しか見えません! カイン様の為なら何でもしますからぁ!』
『あーしはカイン様の奴隷です! 所有物です! 好きに使ってください! 身も心も全部カイン様のモノにしてください! カイン様の所有物であることを、体に刻んでください!』
あの生意気な娘が首を垂れて許しを請う姿を想像して、悪くないなとカインは笑みを浮かべた。心が折れるまで痛めつけ、快楽と言う飴を与えて従順にし、カインに従う以外は何も考えられなくなるまで攻め立てて。
「そうだな。たっぷり自分の立場というモノを教えてやろう。四元騎士様にしてバレット家の人間に逆らえばどうなるかをな」
下卑な笑みを浮かべるカイン。同調するように薄く笑う取り巻きの女性達。
その様子を――虫が一匹じっと見ていた。




