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「あいつ『蟲使い』なんだって!」

「あいつ『蟲使い』なんだって!」


 故郷に居場所はなかった。いつもそう言われ、そして逃げ出した。

 オータムの街に流れ着いたエリックは、毎日地面を見ていた。

 理由はない。強いて言えば上を見るだけの元気がない。それだけだ。

 ゴミをあさって何とか日々の食料を手に入れる。『蟲使い』のスキルで食べ物の匂いを感知し、それを漁る。それを食べることで何とか飢えをしのいでいた。

 調理をする事なんてできやしない。

 動物を狩る事なんてできやしない。

 金を稼ぐことなんてできやしない。

 盗みをする事なんてできやしない。

 エリックに出来る事は、ただ蟲の感覚を利用して生き延びるだけ。


「あいつ『蟲使い』なんだって!」


 そんな生活さえも、長くは続かない。

『蟲使い』で食料を得ているエリックに、暴力の手が伸びる。

 曰く、蟲が日の元に出てくるな。

 曰く、蟲の匂いが臭すぎる。

 曰く、蟲風情が。

 曰く――

 理由は様々だ。それは建前で、単にゴミ漁りに暴力を振るいたかっただけなのかもしれない。結局のところ、理由はどうあれ結果は変わらない。

『蟲使い』と言うジョブを理由に、殴られる。蹴られる。罵られる。水をかけられ、泥をぶつけられ、酷い時には武器や魔法が飛んでくることもあった。


「あいつ『蟲使い』なんだって!」


 人から指をさされるのが怖かった。

 人から目を向けられるのが怖かった。

 人から何かを言われるのが怖かった。

 人間は怖い。『下』と思った相手に何をしてもいい。どんなことをしても自分が『上』だから許される。『上』の者がが『下』の者に制裁を加えるのは、『正しい』ことなのだ。誰もがそう思い、自分を苛む。

 そしてエリック自身もそれを納得していた。『蟲使い』というジョブは最も『下』なのだから、攻められて当然なのだと。このまま地面を見続けて、虫のように誰かに潰されて死んでいくものなのだと――


「あいつ『蟲使い』なんだって!」


 聞きなれた言葉。聞きなれた罵倒。逃れられないジョブと言う烙印。

 死ぬことでしか解放されないのなら、このまま死ぬのも悪くない。そう思い始めれば自然と力も抜けていく。じわじわと黒い何かが侵食してくる。そんな感覚さえも感じなくなってきた。

 ああ、このまま目をとじて、あの川にとびこめば――


「っと、大丈夫かい? 君」

「身体機能著しく低下しています。空腹と、そして極度の精神疲労が見られます」

「こういう時に君の<鑑定ジャッジ>は便利だね」


 エリックの腕を掴む手。そして会話。

 薄ぼんやりとした視界では、二人の男女だという事しかわからなかった。薄れゆく意識の中、自分を抱きかかえた男とそばを歩く女性の会話が続く。


「どうやらストリートチルドレンのようだな。かといって『キャットサーカス』のように徒党を組んでいるわけでもなさそうだ」

「おそらく有用なジョブではないと勧誘されなかったクチでしょう」

「となると彼らに預けるのも危険か。さてどうしたものか」

「放置でよろしいかと。助けるメリットもデメリットもありません」

「君はそういう所はドライだね」


 エリックが気を失う寸前、男の声が聞こえてきた。


「誰かを助けるのが、冒険者だからね」

 


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