第12話 原作バレしました
魔王が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。僕はその姿を見ながら、もう誤魔化すのは無理だと判断した。原作どおりに進めるためには、僕が死ぬ必要がある。だけど、そもそも今の状況は原作どおりじゃない。ニカンドロも、リズも、ネッサも、僕を置いていくつもりがない。だったら、もう隠している意味もない。
「……みんな、聞いてほしい」
「レイス?」
僕は三人を振り返った。
「僕は、この世界に転生してきた」
「どういう意味だ?」
「僕は前世で、この世界を舞台にしたWeb小説を読んでいたんだ」
三人が固まる。僕は、この世界が自分の知っている原作と同じ世界であること、ニカンドロが未来の勇者であること、リズやネッサが仲間になること、そして何より、原作では僕がここで魔王と戦って死ぬことを全部話した。
「だから、僕はずっと原作どおりにしようとしてた。ニカンドロを英雄にするために、僕がここで死ぬ。それが僕の役目だと思ってた」
「……お前、本気で言ってるのか?」
「うん。本気だよ」
ニカンドロはしばらく黙っていた。リズもネッサも僕を見つめている。やがて、ネッサが口を開いた。
「だから、今まで私たちを導いていたのね」
「そういうこと」
「自分が死ぬことまで決めて?」
「うん」
「馬鹿じゃない?」
「え?」
ネッサの言葉に、僕は目を丸くした。
「そんな未来、誰が決めたのよ」
リズも僕の腕を掴む。
「私は嫌です。レイスさんが死ぬなんて、絶対に嫌です」
「俺もだ」
ニカンドロが剣を握る。
「俺は、お前に何度も助けてもらった。だから今度は俺がお前を助ける」
「ニカンドロ……」
なんだろう。胸の奥が少しだけ変な感じがする。原作では、こんな場面はなかった。
「……分かった」
僕は笑った。
「じゃあ、もう原作どおりにするのはやめよう」
その瞬間、魔王が動いた。
「くだらん話は終わったか、人間ども!」
巨大な腕が振り下ろされる。そういえば、魔王がいたんだった。僕は一歩前へ出る。
「レイス!」
「大丈夫」
僕は右手を軽く上げた。魔王の腕が、僕の目の前で止まる。
「……なに?」
ニカンドロが呆然とする。僕はそのまま魔王を見上げた。
魔王が魔力を解放する。回廊全体が揺れる。けれど、僕には関係ない。
「もう、原作どおりにする必要もないからね」
僕は一歩踏み込んだ。拳を握る。
「終わりにしよう」
次の瞬間、僕の拳が魔王の腹に入った。
「――ぐっ!?」
巨大な身体が吹き飛び、回廊の奥の壁を何枚も突き破っていく。轟音が響き、魔王はそのまま動かなくなった。
「……」
「……」
「……」
三人とも、完全に固まっていた。僕は拳を振って、首を傾げる。
「あれ? 死んだかな?」
ニカンドロが魔王を見る。そして、僕を見る。
「……レイス」
「うん?」
「お前……、最初から一人で倒せたのか?」
「うん」
「じゃあ、今まで俺たちが苦戦してたのは……?」
「僕が手加減してたから」
「…………」
ニカンドロが頭を抱えた。リズも呆然としている。ネッサだけが、何かを納得したようにため息をついた。
「そこまで強いなら、最初から言いなさいよ」
「いや、僕は脇役だから……」
「もうその言い訳は聞きません」
リズが僕の腕を掴む。
「レイスさんは、私たちの大切な仲間です」
「俺もそう思ってる」
ニカンドロが笑った。
「これからもよろしくな」
三人に囲まれて、僕は困ったように笑った。原作では、僕はここで死ぬはずだった。だけど、僕は生きている。そして今、僕の隣には、原作にはいなかった仲間たちがいる。
「……まあ、これはこれでいいか」
原作どおりにはならなかった。でも、誰かに必要とされるというのも、悪くない。




