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剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第4章 繰り返す剣、選び取る一歩

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第32話 見たときにはあった布

 右手が上がり始めたところで、ガルドが布を取った。


 レオンの手は、そのまま頭の横まで上がった。


 台の上は、もう空だった。


「今、なくなったんですけど」


 自分の手を見ながら言う。


「上げる途中だったからな」


 ガルドの声に続いて、右手が下りた。


 次には、左手が上がった。


 レオンはフルオートを止め、光の板へ目を向けた。


     *


 『if』の行まで来ると、条件に合うかを確かめ、進む先が分かれる。


 説明を読み直し、レオンは実際の手の動きを思い出した。


 右手を上げる方へ進んだ後で布がなくなっても、左手へ切り替わるわけではない。手を下ろし、最初へ戻ったときに、また台を見る。


「ずっと見て、変えてくれるんじゃないんだ」


 小さく言ってから、ガルドへ布を渡した。


「もう一度、お願いしてもいいですか」


 今度は布のないところから始める。


 左手が動きだした後で、ガルドが布を置いた。


 やはり左手は上がりきり、下りた。次は右手だった。


 レオンはうなずき、止めた。


 相手が動いたら、途中でも何でも合わせ直せるようになったわけではない。


 分かれ道へ来たときに、どちらへ行くかが決まるのだ。


     *


 午前の薪を届けた後、レオンはトーマを庭へ呼んだ。


 布を置いた台と、手を上げるところを見せる。


「順番が変わったのか?」


「布があるときは右だけ。ないときは左だけなんだ」


 トーマは台を見た。レオンに言われた通り、布を置いたり、取り除いたりする。


 両手が違う順番で上がるのを見ると、少し口を開けた。


「それ、俺の剣にも合わせられるんじゃないか」


 レオンも、そのことは考えていた。


 高い剣なら高く受け、低い剣なら低く受ける。


 だが、ガルドが布を取ったときには、動きは途中で変わらなかった。


「たぶん、途中で剣の向きが変わったら、そのまま動いちゃう」


 話すと、トーマは自分の木剣へ手を置いた。


「じゃあ、最初は打たずにやるか」


     *


 いきなり木剣を合わせるのはやめた。


 トーマが身体の前で布を持ち上げる。レオンは、朝の記述を書き換えた。


『if トーマの持つ布が見える:』

『 右手を上げて下ろす』

『else:』

『 一歩下がる』

『 元の位置へ戻る』


 『else:』の下には、二つの動作を同じだけ下げて並べた。布が見えないときは、下がってから戻るところまで進む。


 最後まで進めば、先頭へ戻る。布の見えない間は、下がって戻る動きが続いた。


 見慣れた足運びだったが、自分で次を選んでいる感触はない。


 トーマが布を上げる。


 戻る途中だったレオンは、そのまま元の場所へ戻った。それから、手を上げた。


「今なら、踏み込めたな」


 トーマが言う。


「うん。戻るところには、確かめる場所を置いてないから」


 レオンは動きを止めた。


 確かめるところを増やせば、変化には気づきやすくなるかもしれない。ただ、どの姿勢からでも同じように下がれるわけではない。


 戻る途中で急に別の足を動かせば、足同士を近づけすぎることもある。


 枝を切ったときには、全部を任せようとして、一本ずつ形が違うことに気づいた。今度は、動きの途中にいる自分の姿勢も違っている。


 レオンは文字を直す前に、実際に半歩戻ったところで立ってみた。


 そこから下がると、後ろ足へ体重が残った。


「同じ『下がる』でも、ここからじゃ違う……」


 トーマは布を下ろして待っていた。


「俺も、戻る途中を狙われると弱いな」


 そう言って、トーマも同じ姿勢を取った。二人でゆっくり歩き直す。光の板を見るだけでなく、足元を見る時間も必要だった。


     *


 昼には、分ける動きを変えた。


 足は動かさず、次のように書いた。


『if トーマの持つ布が見える:』

『 両手を構えの位置へ上げる』

『else:』

『 両手を下ろす』


 どちらも終えたところから、もう一度布を確かめる。


 まずはこれで、分かれるところと戻るところを覚えたかった。


 試していると、トーマが布を背中へ隠した。


 レオンの手は下りた。


「なくなってはいないぞ」


「でも、僕からは見えない」


 条件に置いたのは、布が見えているかどうかだった。トーマの後ろを見通して、持っているか調べるものではない。


 レオンは説明を確かめ、光の板の文字を指でなぞろうとして、いつものようにすり抜けた。


 何を確かめるのか。


 見えたら、どこへ進むのか。


 動いた後、どこへ戻るのか。


 書いたつもりになっているところほど、試すと違いが出た。


     *


「今日、眠らないのか」


 裏口から宿屋の主人が声をかけた。


 レオンは顔を上げた。トーマも、食堂の方へ目を向ける。


 昼の片づけまで、ずいぶん時間を使ってしまっていた。


「今日は、前の足の稽古にします」


 レオンはフルオートを止めた。


 新しく分けた動きは、まだ布を持ってもらわないとうまく試せない。眠る間には、場所を変えずに繰り返せる、確かめ済みの動きを使うことにした。


 トーマへ布を返してから、木剣を取る。


「午後、普通に合わせような」


「うん。新しい方も、少しずつ試したいけど」


「俺が布を持ってるだけじゃ、剣の練習にならないしな」


 トーマは笑って、裏口へ戻っていった。


 レオンは荷車置き場に立ち、いつもの動きを並べ直した。


 分かれ道ができたからといって、トーマの次の剣が分かるわけではない。


 けれど、朝には試せなかったことを、今日は二人で試せた。


 木剣を構え、足の位置を確かめる。


 昼寝から覚めたら、もう一度、相手の肩を見ながら剣を合わせるつもりだった。


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