第27話 同じ形の薪はない
ガルドの家へ、荷車一台分の枝が届いた。
太い薪に混じって、細く曲がった枝が幾重にも重なっている。近くの家で庭木を切ったのだという。
「細かくして、焚きつけにする。今日はこいつを頼む」
ガルドは太い枝をより分けながら言った。
レオンはうなずき、短く折れた枝を拾った。折れないものは、小さな斧で切り分ける。何度も手伝ってきた仕事だった。
枝を台に載せ、刃の落ちるところから手を離す。
一度、斧を下ろした。
乾いた音とともに、枝の端が落ちる。
レオンは斧を持ち上げたまま、目の前へ光の板を出した。
*
以前は、斧を振り下ろすたびにフルオートを止めていた。
今は二十七本の線がある。枝を取るところから書けば、仕事を続けられるかもしれない。
レオンは斧を置き、まず自分で一通り動いた。
右の山から枝を取り、台へ載せる。手を離し、斧で切る。斧を戻してから、切れた枝を左の籠へ入れる。
光の板へ、一つずつ動きを残す。
最初に使うのは、長さの似た枝だった。
「ガルドさん。少し、試してもいいですか」
「剣の稽古に使ってるやつか」
「はい。手を動かす仕事にも使えるかと思って」
ガルドは近づいて、台の上を見た。
「まず斧なしでやってみろ」
レオンは斧を振る行を消し、代わりに右手を台の上へ下ろす動きを入れた。
動かす。
左手が枝を取り、台へ置いた。手が離れ、右手が下りる。置いた枝を籠へ移し、また右の山へ手を伸ばす。
一度目は、思った通りだった。
二度目には、二本の枝が一緒についてきた。
「あっ」
レオンは、動きを止めた。
*
枝の小さな分かれ目に、別の枝が引っかかっていた。
手で外す。持ち上げる角度を変えれば、一本だけ取れた。
レオンは光の板を見直した。
書きつけたのは、山へ手を伸ばし、枝をつかむ動きだ。絡んだ枝を見つけて外す動きは入っていない。
では、それも加えればいいのか。
次の枝を持ち上げる。今度は、何も引っかかっていなかった。
「毎回、外す必要はない……」
小さく言うと、ガルドが足元から曲がった枝を拾った。
「こいつはどう置く」
台へ載せると、片側が浮いた。先ほどの枝と同じ位置へ手を置いても、安定しない。
向きを変え、枝分かれしたところを台の端へ逃がす。ようやく、がたつかなくなった。
さっきと同じ動きでは、こうは置けない。
「一本ずつ、違うんですね」
「木だからな」
ガルドは、それだけ言って別の枝を渡した。
レオンは受け取り、節のあるところを指でなぞった。刃を当てる場所も、少しずらした方がよさそうだった。
行を増やせば、いろいろな動きは並べられる。
けれど、今どの枝を持っているかで、使う動きを選ぶことはできない。光の板の説明にも、今のフルオートが枝を見て選ぶとは書かれていなかった。
*
レオンは、枝を取るところからの文字を消した。
斧を持ち直し、今まで通り一本ずつ台へ置く。
切る場所を確かめてから、斧を振り下ろす動きだけを使い、すぐに止めた。次の枝は、自分で選んで置き直す。
疲れずに斧を下ろせても、同じ速さでは片づかなかった。細い枝は一度で切れ、太い枝には刃が途中までしか入らない。
刃を抜いてから、もう一度。
ガルドに教わり、切りかけのところへ斧を合わせる。
繰り返すうち、右の山が低くなっていった。
「全部、任せたかったんですけど」
「手伝わせるだけでも、役に立ってるだろう」
ガルドは籠を持ち上げた。
レオンは、空いた籠を台の脇へ寄せた。たしかに、斧を振る腕はまだ疲れていない。枝をよく見る余裕もあった。
初めから終わりまで任せられないからといって、使えなくなるわけではなかった。
それからは、曲がった枝を先によけた。まっすぐで切りやすいものを片づけ、難しいものはガルドに置き方を聞いた。
台の上へ無理に押さえつけるより、枝の向きを変えた方が簡単なこともある。力を入れる前に、手元を見直す回数が増えた。
*
最後の枝を切るころには、籠が二ついっぱいになっていた。
ガルドは端材を拾い、焚きつけの上へ重ねた。レオンも台を片づけようとしたが、立てかけた斧が目に入り、先に拾ってしまった。
「そいつから戻すのは、覚えたな」
言われて、レオンはうなずいた。以前、足元へ置いたままにして注意されたことがある。剣の振り方以外にも、繰り返して覚えたことは増えていた。
夕方、仕事を終えて手を洗っていると、トーマが来た。
「今日は稽古、遅いな」
「枝を切ってたんだ。全部同じようには、いかなかった」
トーマは台の周りの木くずを見た。
「薪って、いつも同じ仕事じゃないのか?」
「やることは同じだけど、置き方が違ったり、切れなかったりする」
話しながら、レオンは庭に置いてあった木剣を取った。
トーマが正面に立つ。今日は、いつもより少し遠い。
レオンは踏み出しかけた足を止めた。
「どうした?」
「今の場所からだと、いつもの一歩じゃ届かないと思って」
トーマは足元を見てから、木剣を上げた。
「じゃあ、こっちから行くぞ」
レオンも構えた。
同じトーマと、同じ庭で向き合っている。
それでも、一振り目まで同じとは限らなかった。
近づいてくる肩を見ながら、レオンは自分の足で間合いを測った。




