第26話 剣術を手に入れる方法
宿屋へ届けた薪を下ろしていると、食堂から剣術の話が聞こえた。
「見つかったのは下位のものだが、それでも買い手はつくだろうな」
「使わずに売るのか」
「持ち主は、もう剣術を持ってる。今回は装備を買い替えたいそうだ」
レオンは空の籠を抱えたまま、足を止めた。
剣の売買かと思ったが、続いた言葉は違った。
「剣術を覚えられる品なんて、そうそう市場へ出ないからな」
レオンは、籠を置いた。
*
食堂にいたのは、旅支度の男二人だった。
一人は腰に剣を提げ、もう一人は大きな荷袋を足元へ置いていた。レオンが近づくと、荷袋の男が顔を上げた。
「何か用かい」
「あの、さっきのお話を、少し聞いてもいいですか」
「剣術の品のことか?」
レオンはうなずいた。
男は主人へ目を向けた。主人が薪の仕事は終わっていると答えると、隣の椅子を指した。
「座りな。品物は持ってないが、話くらいならできる」
レオンは礼を言って座った。
「剣術は、十歳のときに授からなくても、手に入るんですか」
「ああ。そういう品がある。剣術だけじゃない。魔法や、ほかのスキルを得られるものもな」
レオンは膝の上で手を握った。
家の授業で、ダンジョンの宝について読んだことはある。だが、それが自分の剣術につながるとは、考えたことがなかった。
「使った人が、覚えるんですか」
「その品に決まっているスキルを覚える。今のスキルは残ったまま、新しく加わる。使えば品はなくなるぞ」
レオンは、食卓の木目を見つめた。
レオンは、続きを聞こうと身を乗り出した。
*
「買えるものなんですか」
聞くと、男はすぐにはうなずかなかった。
「売る者がいて、金があればな。だが、安い買い物じゃない」
「どれくらい……」
「安いものでも、小さな貴族の家が一年で得る収入くらいはする」
レオンは顔を上げた。
男は冗談を言う顔ではなかった。
紐を買ったときの銅貨を思い出す。薪を運び、麻袋へ少しずつ貯めているお金。
それと比べていい額なのかも、分からなかった。
剣を提げた方の男が、器を置いた。
「見つかる場所が深いんだよ。普通に浅いところを歩いて、拾えるものじゃない」
「ダンジョンの、ですか」
「そうだ。奥へ行ける冒険者が、ようやく探せる。その連中だって、必ず持ち帰れるわけじゃない」
男は自分の剣へ目を落とした。
「俺は、そういう品を探して潜るほどの腕はない。話を聞く方だな」
*
レオンはしばらく黙っていた。
銅貨をもう何枚か貯めれば買えるようなものではない。自分で探そうとしても、今の腕では届きそうになかった。
「お前、剣を習ってるのか」
男に聞かれ、レオンはうなずいた。
「はい。でも、剣術スキルはありません」
「それで、気になったのか」
答えると、男はレオンの手を見た。
「それなら、品のことだけ考えなくてもいい。剣術は、訓練を続けて後から身につくこともある」
レオンは顔を上げた。
「十歳で、授からなくても?」
「ああ。ただ、数年かかることが多い。どれだけ続ければ得られるかは、人による。来年には覚えると約束はできんよ」
レオンは手を開いた。
木剣の柄を何度も握ってきた手だった。家にいたころも、追い出されてからも、剣は振っている。
それでも、まだ剣術スキルはない。
だが、今ないことと、これからも得られないことは、同じではなかった。
「後から覚えても、上のスキルに進化するんですか」
父の剣を思い出しながら尋ねた。
「進化するのは、十歳の誕生日に発現したものが多い。後から得たものが進化するのは、滅多にないな」
男は少し考えてから、続けた。
「ただ、そういう者がいないわけでもない。そこも個人差がある。お前がどうなるかまでは、俺には分からん」
レオンはゆっくりうなずいた。
すぐに父と同じ剣を持てる話ではなかった。それでも、木剣を振り続ける先に、スキルを得る道もある。
話を聞かせてくれた二人へ、頭を下げる。
椅子から立つと、壁際の木剣へ手を伸ばした。今朝と同じ柄が、指に収まった。
*
家へ戻ると、ガルドが束ねた薪を軒下へ移していた。
レオンも一束を持ち、隣へ置く。
「今日は、静かだな」
ガルドに言われ、食堂で聞いた話を伝えた。
剣術を得られる品があること。とても高価だが、品を使わなくても、長く訓練を続けて獲得できる場合があること。
ガルドは次の束を置いてから、レオンを見た。
「欲しいか」
「はい」
迷わず答えた。
剣術がなくても、木剣は振れる。トーマとも、ノエルとも合わせられた。
それでも、ダリオの前では、何もできなかった。
あの家で授かるはずだと思っていたものを、今も欲しい。
「いつか、身につけたいです。何年かかるかは、分からないそうですけど」
ガルドはうなずいた。
「そうか。長く続けるなら、まず飯だ。今日は、まだ食ってないだろう」
レオンは驚いて顔を上げた。
確かに、食堂で話を聞いてから、まだ昼食を取っていなかった。
*
午後、レオンは少し遅れて宿屋へ戻った。
トーマが木剣を手に待っていた。
「叔父さんから聞いた。剣術を買う話、してたんだって?」
「うん。でも、すごく高いんだ」
「俺も、そういう品があるのは聞いたことがある。見たことはないけど」
「訓練を続けて、後から覚える人もいるって。数年かかることが多いそうだけど」
言うと、トーマはレオンの木剣へ目を向けた。
「じゃあ、明日からもやることは決まってるな」
「お前が剣術を手に入れたら、俺ももっと練習しないとな」
「まだ、ずっと先だよ」
「今もだよ。この前、一本取っただろ」
レオンは相手の顔を見た。
トーマはもう、庭の真ん中へ歩いていた。
「今日は高い方も混ぜる。昨日みたいには、受けさせないからな」
レオンは木剣を握った。
いつか剣術を身につけたい。
その願いへ、今日の稽古も続いているのかもしれない。木剣を握る手に力が入りすぎていることに気づき、レオンは少し指を緩めた。
「お願いします」
レオンはそう言い、少し膝を緩めた。
その日の昼寝には、高い構えと低い構え、両方へ戻る動きを残すつもりだった。




