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剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第3章 届かない剣の、その先へ

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第25話 書きすぎた稽古

「今度は、いくつ書けるんだ?」


 トーマが荷車小屋の入口に立った。


「二十七行」


 レオンが答えると、トーマは少し黙った。


「そんなに、練習することがあるか」


「まだ、全部は使ってない。でも、前に消した動きも入れておけると思う」


 レオンは木剣を構えた。


 足を出し、振り、下がる。斜めの構えを作り、正面へ戻す。


 そのあとには、低い構えからの動きも残せる。


 二つの線しかなかったころは、どちらを練習するか、眠る前に選んでいた。今は、その両方を書いておけるのだ。


     *


 レオンは、自分で覚えている動きを並べ始めた。


 素振り。前後の足運び。斜めの構え。低く構えてから振る動き。


 書き足すたびに、光の文字が増えていく。


 トーマは入口の外で、柄の紐を巻き直していた。


「できたか?」


「もう少し」


 レオンは足を見た。


 右へ寄って元に戻る練習も、昨日やった。それも残しておこう。反対側へ寄る動きも忘れたくない。


 書き終えて数えると、十八行になっていた。


 まだ空白はある。


 けれど、今のところ、思いつくのはそれで全部だった。


 レオンは周りを確かめ、動かした。


     *


 最初の素振りは、いつもどおりだった。


 前へ出て下がり、斜めに構える。木剣を下ろすと、今度は足が右へ動いた。


 身体が横へ寄ったとき、剣先が大きく揺れた。


 レオンは止めた。


 板の文字を見る。


 右へ寄る前に、構えを戻す動きを入れていなかった。足の練習をしたときは腕を下ろしていたが、今は木剣を振り終えたところから移っていた。


「今、変だったな」


 トーマが言った。


「うん。足だけなら、できるんだけど」


 レオンは、木剣を構え直す行を加えた。


 もう一度動かす。


 今度は右へ寄っても、剣先が揺れなかった。


 だが、低い構えに移ったとき、片方の足が近すぎた。腕を下げる場所が狭くなり、肘が身体に当たる。


 レオンはまた止めた。


 どの行から直すか、すぐには決められなかった。もう一度だけ動かし、端の光を目で追う。肘が当たる直前、光っていたのは足を戻す行だった。


 低く構える腕ばかり見ていたが、その前から立ち方が違っていたのだ。レオンは止めた足の位置を見下ろした。


 昼寝を始めるまでに、ずいぶん時間がかかっていた。


     *


「一つずつなら、うまくできるのにな」


 トーマが木剣を手に、小屋へ入ってきた。


 レオンは板の文字を見たまま、うなずいた。


「順番が違うと、始めるときの形も変わるんだ」


 低い構えを練習したときは、両足を開いていた。横へ寄る練習では、そこまで広げていなかった。


 どちらも自分でできる。


 けれど、一つ終わったあとに次ができるとは、限らなかった。


「今日は、何を直したかったんだ?」


 トーマに聞かれ、レオンは口を開きかけた。


 足も。低い構えも。受けたあとの一振りも。


 全部を言おうとして、言葉が止まった。


「……低いところへ来た剣に、肩を出さずに合わせたかった」


「じゃあ、それからやろうぜ」


 トーマが低く構えた。


 レオンは板の動きを止めたまま、木剣を合わせた。


     *


 二人で確かめてから、レオンは書いた文字を減らした。


 前へ踏み込む。木剣を振る。元へ下がり、構え直す。


 そのあとで低い構えを作り、そこから振る。正面へ戻し、足を引いて元の位置へ戻る。


 八行だった。


 動かす前に、自分の意思で最初から通してみる。


 足が揃いすぎるところを直し、低い構えに入る前の膝を緩めた。そこまでできてから、光の板を動かした。


 前へ出る。


 木剣が下りる。


 足が戻り、腕が斜めに持ち上がる。そのあと、正面を経て低い構えへ移った。


 今度は肘が身体に当たらない。


「それなら、変じゃない」


 トーマの声に、レオンは少し笑った。


     *


 目を閉じると、足と腕の動きが順番に伝わってきた。


 以前より、一巡するまでが長い。


 素振りの音がしてから、少し間を置き、別の振り方の音がする。


 その合間には、足が地面をこすった。


 レオンは、その繰り返しの中で眠った。


 起きたとき、トーマはもう仕事へ戻っていた。入口の外では、主人が空の袋を畳んでいる。


 レオンは動きを止め、木剣を下ろした。


 自分で低く構えてみる。


 肘の内側に、少し余裕ができていた。


 次に、そこから振る。


 剣先は前へ出て、いつもの位置へ戻った。


     *


 夕方、トーマが少しだけ相手をしてくれた。


 最初の一振りは、低いところへ来た。


 レオンは足を引き、肩を前へ出さずに合わせる。


 次は高い。


 さっきと同じ形を出しかけ、腕の位置を上げ直した。間に合わず、袖を触られた。


「低い方は、よくなったな」


 トーマが言った。


 レオンは袖を見てから、うなずいた。


「高い方まで、低く受けようとした」


「そこは、俺を見てくれよ」


 トーマが笑った。


 レオンも、ようやく肩の力を抜いた。


 二十七行あっても、全部へ文字を埋めれば強くなるわけではない。今日、確かめたかったことを、途中で見失っていた。


 明日は、高いところと低いところを、自分で見分けながら合わせよう。


 眠る前に何を残すかは、それをやってから考えればいい。


 レオンは板を呼び出し、今日使った八行をもう一度眺めた。残りの空白は、そのままにしておいた。


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