第24話 光の板の答え
荷車小屋が、しばらく使えなくなった。
新しい行商人が泊まり、荷車を二台入れることになったのだ。
「空いたら、また使っていいぞ」
主人に言われ、レオンはうなずいた。
晴れた日は、ガルドの庭で稽古をした。雨の日は、軒下で木剣を持たずに足を動かした。
トーマとの打ち合いも、仕事と天気の合う日だけになった。
それでも、二本の線を使わない日は少なかった。
少しの昼寝でも、繰り返せる。起きてから確かめ、次の日には、また違うところを直す。
そうして半月ほどたち、荷車小屋が空いた。
*
久しぶりに中を掃き終え、レオンは木剣を構えた。
光の板を呼び出す。
思わず、腕を下ろした。
板が、以前よりもずっと大きい。
二本だった線の下に、何本もの線が続いている。下の端まで目を動かし、指を使わずに順番に数えた。
二十七本。
もう一度数えても、同じだった。
「こんなに……?」
前に二本へ増えたときとも違う。何を書けば全部埋まるのか、すぐには思いつかなかった。
そのとき、板の隅にある小さな文字へ気づいた。
『ヘルプ』
レオンは、そこへ意識を向けた。
文字の並んだ、別の光の板が開いた。
*
『ユニークスキル:フルオート』
『現在のレベル:3』
『設定可能行数:27』
レオンは、最初の三行を何度も読んだ。
自分のスキルには、今、三という段階がついている。
誰かに調べてもらったわけではない。光の板そのものが、そう書いてあった。
もっと下へ目を向ける。
『記述された動作を上から順に実行します』
『最後まで実行すると、先頭の動作へ戻ります』
『空白の行は実行しません』
レオンは息を吐いた。
今まで自分で試し、こうだろうと考えてきたことだった。
さらに、その下にも文字が続いていた。
『未習得の動作・技は実行できません』
レオンは、ダリオの剣を思い出した。
「やっぱり、できないんだ」
声にしたあとで、続きを読んだ。
簡単な一続きの動きは一行へ記述できること。複数の動きは別々の行にも分けられること。実行中でも、自分の意思で停止できること。
この画面は、使い方を教えてくれるものらしい。
*
相手が近くにいるときだけ、剣を振れないだろうか。
考えたとたん、知りたくなった。
だが、説明には、今の自分には扱えない書き方があることも記されていた。
『条件による動作の選択:現在は使用できません』
レオンは、その文字を見つめた。
今は、できない。
それなら、いつかはできるのだろうか。
すぐに答えを探そうとしたが、先に、今できることを確かめることにした。
説明の板を閉じる。
二十七本の空白が、目の前へ戻ってきた。
数が増えたからといって、全部を使わなくてもいい。空いた行は飛ばして、書いてある動きだけを繰り返す。
レオンは木剣を握り直した。
*
まず、自分で一歩踏み込んだ。
木剣を振る。
元の場所へ下がり、斜めに構えてから正面へ戻す。
一つずつは、何度も練習している。踏み込んで振る動きも、トーマとの稽古で確かめてきた。
ただ、今までは腕の動きか、足の往復を選ぶことが多かった。
今日は、それを分けて残してみる。
『一歩踏み込む』
『木剣を振る』
『元の位置へ下がる』
『木剣を斜めに構えて正面へ戻す』
四行目にも、文字が浮かんだ。
レオンは足元を確かめ、動かす。
前へ出た足が止まり、木剣が下りる。身体が後ろへ戻り、腕が受ける形を作った。
最初の行へ戻る。
また、足が前へ出た。
レオンは何度か続くのを見てから、意識を向けて止めた。文字を消す前に、腕と足が止まった。
説明に書かれていたことも、一つ確かめられた。
*
「今日は、ずいぶん考え込んでるな」
主人が入口から声をかけた。
「使い方が、読めるようになりました」
レオンは、どこから話すか少し迷った。
「前は二つだけだったのが、もっと書けます。足と腕の動きも、順番に分けて残せるようになって」
「寝る前に、ちゃんと読んだのか」
「はい。まだ、全部は分かりませんけど」
主人は入口へ椅子を置いた。
「なら、少しずつやれ。小屋が空いてる間は、使っていい」
レオンは頭を下げ、四つの動きをもう一度確かめた。
踏み込む場所がずれないか。戻った足が揃いすぎないか。腕だけを動かしていたときと、違うところがないか。
確かめることは、前より増えた。
しばらく動かしたあと、レオンは目を閉じた。
靴底が土をこする音のあとに、短い風切り音が続く。戻る足の感触と、持ち上がる腕の重さが、一巡するたび同じ順番で伝わってきた。
次に名前を呼ばれたときには、小屋の入口から入る光が傾いていた。
レオンは自分の意思で動きを止め、床を見た。前へ出るところと、戻るところに、二つの足跡が残っている。壁へ近づいてはいなかった。
文字は四行とも残っていた。寝る前に考えた稽古を、眠っている間も、身体が順番どおりに続けていたのだ。
それでも、空白の意味が分からなかった最初の夜とは違う。
レオンは、説明の板をもう一度開いた。
フルオート。レベル3。
知らなかった自分のスキルが、少しだけ、手の届くものになった気がした。




