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剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第3章 届かない剣の、その先へ

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第22話 知らない剣の速さ

 訓練場には、もう何人もの子供が集まっていた。


 レオンより小さな子も、トーマより背の高い少年もいる。木剣を抱え、連れてきた大人のそばで待つ者もいた。


 レオンは入口で足を止めた。


 向こうで誰かが素振りをしている。聞こえる音だけで、自分より強く振れると分かった。


「ベルクって人、どこだろう」


 トーマが周りを見回した。


 ガルドは二人を入口まで送り、昼過ぎに迎えに来ると言って町へ出ていた。


 レオンはロルフにもらった紙を開いた。


 木剣を配っていた男へ声をかけると、その男が顔を上げた。


「俺がベルクだ。ロルフから聞いてる。名前は?」


 トーマが先に名乗った。


 レオンは一度息を吸った。


「レオンです。よろしくお願いします」


 ベルクはうなずき、二人の名前を紙へ書いた。


「まずは準備運動だ。あっちへ並べ」


     *


 最初に組んだのは、ノエルという少年だった。


 レオンより一つ年上で、剣術スキルを授かってから、町の訓練に通っているという。


「普段は誰と練習してる?」


「村の友達と。あとは、自分で」


「俺はここで。いつも同じ人だから、今日は楽しみなんだ」


 ノエルはそう言い、木剣を構えた。


 斜めに向けた剣先が、レオンの胸の前にあった。


 トーマより少し低い。


 レオンはいつもの場所へ剣を上げかけ、相手を見て位置を直した。


「始め」


 ベルクの声がした。


 ノエルの足が近づく。


 レオンは下がり、伸びてきた木剣へ合わせた。思ったより低いところへ来たが、受ける場所を選び直せた。


 相手の剣先が脇へ流れる。


 だが、すぐに戻ってきた。


 レオンも構えを戻す。


 二度目は、腕の外側へ来た。木剣で触れ、半歩離れる。


 袖が遠い。


 振らずに待つと、ノエルがもう一度近づいてきた。


     *


 最初の一本は、レオンが取られた。


 正面へ来ると思っていた剣が、途中で少し横へ動いた。合わせる位置を変えるのが遅れ、上腕を軽く触られた。


「今のは、手だけで追いすぎたな」


 ベルクが言った。


「足も使え。お前、さっきまでは下がれてただろう」


 レオンはうなずいた。


 次は、剣先だけを追わない。


 相手の胸を見て、近づいてくる身体に合わせて足を引いた。


 木剣が触れ合う。


 ノエルの剣が戻る前に、袖が近くへ残った。


 レオンはそこへ振った。


 布に、小さな手応えがあった。


「止め。今のは、レオン」


 剣を下ろすと、ノエルが自分の袖を見た。


「その距離、もう一歩いると思った」


「僕も、届くか少し迷った」


 レオンは息を吐いた。


 トーマ以外の相手にも、一度は届いた。


 腕へ残る感触を確かめながら、次の組み合わせが呼ばれるのを待った。


     *


 二人目は、ダリオという背の高い少年だった。


 構えた木剣は、ノエルとそれほど違って見えなかった。


 レオンは相手の胸へ目を向ける。


「始め」


 足が動いた。


 そう思ったときには、肩へ木剣が触れていた。


 レオンは息を止めた。


 下がろうとした足が、遅れて動く。


「止め。一度戻れ」


 ベルクの声に、レオンは最初の場所へ戻った。


 今度は、近づく前からよく見よう。


 そう思って構えたが、二度目も剣を合わせられなかった。


 胸の前にあったはずの剣先が、気づいたときには腕の横にある。


 形は分かる。来るところも、見えた気がする。


 だが、身体が間に合わない。


 三度目は先に離れようとした。足を引いたところへ追いつかれ、上着の胸を触られた。


「そこまで」


 レオンは木剣を下ろせず、相手を見た。


 ダリオは息もほとんど乱していなかった。


     *


 休憩で、トーマと並んで座った。


「俺も、あいつには全然届かなかった」


 トーマが言った。


「速いな」


「うん……」


 レオンは膝の上で両手を開いた。


 眠っている間にも練習してきた。前より腕は戻るし、長く動いていられる。


 それなのに、最初の一度すら受けられなかった。


 ベルクが二人の前へ来た。


「ダリオとは、今は差がある。動きについていけてないからな」


「練習が、足りませんか」


 レオンが聞くと、ベルクはすぐには答えなかった。


「あいつは少し前から、剣の動きがぐっと変わった。前と同じように振ってると言うが、身体の使い方も速さも違う。スキルの伸びもあるんだろう」


 レオンは訓練場を見た。


 ダリオは別の少年を相手に、同じ構えを作っている。


「今のお前にはできないことを、今すぐ真似しようとするな。ノエルとは、考えながら合わせられただろう。まず、あのやり取りを忘れるな」


 レオンはゆっくり、うなずいた。


     *


 帰り道、レオンはガルドへ稽古会のことを話した。


 一本触れられたこと。知らない相手とも、何度か剣を合わせられたこと。


 それから、まるで間に合わない相手がいたこと。


 ガルドは歩きながら聞いていた。


「行って、よかったか」


 レオンは少し考えた。


 ダリオの剣を思い出すと、胸の奥が重くなる。もっと練習すれば同じ速さになると、簡単には思えなかった。


 だが、村にいたままでは、あの速さを知らなかった。


「はい」


 答えると、隣でトーマもうなずいた。


「次、ノエルみたいな低い構えでやってみようぜ。俺たち、いつも同じ高さだった」


 レオンは顔を向けた。


「うん。受けるところを、変えてみたい」


 できなかったことを、全部いっぺんには直せない。


 それでも明日、確かめることはできた。


 村の屋根が見えるころには、レオンの足も、いつもの歩幅へ戻っていた。


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