第22話 知らない剣の速さ
訓練場には、もう何人もの子供が集まっていた。
レオンより小さな子も、トーマより背の高い少年もいる。木剣を抱え、連れてきた大人のそばで待つ者もいた。
レオンは入口で足を止めた。
向こうで誰かが素振りをしている。聞こえる音だけで、自分より強く振れると分かった。
「ベルクって人、どこだろう」
トーマが周りを見回した。
ガルドは二人を入口まで送り、昼過ぎに迎えに来ると言って町へ出ていた。
レオンはロルフにもらった紙を開いた。
木剣を配っていた男へ声をかけると、その男が顔を上げた。
「俺がベルクだ。ロルフから聞いてる。名前は?」
トーマが先に名乗った。
レオンは一度息を吸った。
「レオンです。よろしくお願いします」
ベルクはうなずき、二人の名前を紙へ書いた。
「まずは準備運動だ。あっちへ並べ」
*
最初に組んだのは、ノエルという少年だった。
レオンより一つ年上で、剣術スキルを授かってから、町の訓練に通っているという。
「普段は誰と練習してる?」
「村の友達と。あとは、自分で」
「俺はここで。いつも同じ人だから、今日は楽しみなんだ」
ノエルはそう言い、木剣を構えた。
斜めに向けた剣先が、レオンの胸の前にあった。
トーマより少し低い。
レオンはいつもの場所へ剣を上げかけ、相手を見て位置を直した。
「始め」
ベルクの声がした。
ノエルの足が近づく。
レオンは下がり、伸びてきた木剣へ合わせた。思ったより低いところへ来たが、受ける場所を選び直せた。
相手の剣先が脇へ流れる。
だが、すぐに戻ってきた。
レオンも構えを戻す。
二度目は、腕の外側へ来た。木剣で触れ、半歩離れる。
袖が遠い。
振らずに待つと、ノエルがもう一度近づいてきた。
*
最初の一本は、レオンが取られた。
正面へ来ると思っていた剣が、途中で少し横へ動いた。合わせる位置を変えるのが遅れ、上腕を軽く触られた。
「今のは、手だけで追いすぎたな」
ベルクが言った。
「足も使え。お前、さっきまでは下がれてただろう」
レオンはうなずいた。
次は、剣先だけを追わない。
相手の胸を見て、近づいてくる身体に合わせて足を引いた。
木剣が触れ合う。
ノエルの剣が戻る前に、袖が近くへ残った。
レオンはそこへ振った。
布に、小さな手応えがあった。
「止め。今のは、レオン」
剣を下ろすと、ノエルが自分の袖を見た。
「その距離、もう一歩いると思った」
「僕も、届くか少し迷った」
レオンは息を吐いた。
トーマ以外の相手にも、一度は届いた。
腕へ残る感触を確かめながら、次の組み合わせが呼ばれるのを待った。
*
二人目は、ダリオという背の高い少年だった。
構えた木剣は、ノエルとそれほど違って見えなかった。
レオンは相手の胸へ目を向ける。
「始め」
足が動いた。
そう思ったときには、肩へ木剣が触れていた。
レオンは息を止めた。
下がろうとした足が、遅れて動く。
「止め。一度戻れ」
ベルクの声に、レオンは最初の場所へ戻った。
今度は、近づく前からよく見よう。
そう思って構えたが、二度目も剣を合わせられなかった。
胸の前にあったはずの剣先が、気づいたときには腕の横にある。
形は分かる。来るところも、見えた気がする。
だが、身体が間に合わない。
三度目は先に離れようとした。足を引いたところへ追いつかれ、上着の胸を触られた。
「そこまで」
レオンは木剣を下ろせず、相手を見た。
ダリオは息もほとんど乱していなかった。
*
休憩で、トーマと並んで座った。
「俺も、あいつには全然届かなかった」
トーマが言った。
「速いな」
「うん……」
レオンは膝の上で両手を開いた。
眠っている間にも練習してきた。前より腕は戻るし、長く動いていられる。
それなのに、最初の一度すら受けられなかった。
ベルクが二人の前へ来た。
「ダリオとは、今は差がある。動きについていけてないからな」
「練習が、足りませんか」
レオンが聞くと、ベルクはすぐには答えなかった。
「あいつは少し前から、剣の動きがぐっと変わった。前と同じように振ってると言うが、身体の使い方も速さも違う。スキルの伸びもあるんだろう」
レオンは訓練場を見た。
ダリオは別の少年を相手に、同じ構えを作っている。
「今のお前にはできないことを、今すぐ真似しようとするな。ノエルとは、考えながら合わせられただろう。まず、あのやり取りを忘れるな」
レオンはゆっくり、うなずいた。
*
帰り道、レオンはガルドへ稽古会のことを話した。
一本触れられたこと。知らない相手とも、何度か剣を合わせられたこと。
それから、まるで間に合わない相手がいたこと。
ガルドは歩きながら聞いていた。
「行って、よかったか」
レオンは少し考えた。
ダリオの剣を思い出すと、胸の奥が重くなる。もっと練習すれば同じ速さになると、簡単には思えなかった。
だが、村にいたままでは、あの速さを知らなかった。
「はい」
答えると、隣でトーマもうなずいた。
「次、ノエルみたいな低い構えでやってみようぜ。俺たち、いつも同じ高さだった」
レオンは顔を向けた。
「うん。受けるところを、変えてみたい」
できなかったことを、全部いっぺんには直せない。
それでも明日、確かめることはできた。
村の屋根が見えるころには、レオンの足も、いつもの歩幅へ戻っていた。




