↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第3章 届かない剣の、その先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/38

第21話 村を出る一日のために

 その夜、レオンは夕食の器を片づけてから、ガルドの前へ座った。


「来月、町で剣の稽古会があるそうです」


 ガルドが顔を上げた。


「ロルフが言っていたやつか」


「はい。トーマと、行ってみたいです」


 言ってから、膝の上で指を組んだ。


 ガルドの家には、寝る場所がある。毎日の仕事も、昼寝の稽古をする場所もできた。


 それを一日休んで、知らない相手と剣を合わせに行く。


 自分から頼むのは、少し勇気が要った。


「日取りは聞いたか」


「ロルフさんが、明日の朝に教えてくれます」


「なら、薪を届ける日と重ならんようにしよう。宿屋にも先に話しとけ」


 レオンは顔を上げた。


「行っても、いいんですか」


「行きたいから、話したんだろう」


 ガルドは立ち上がり、空の器を重ねた。


「俺も町へ用を作る。帰りに二人を拾えるようにな」


 レオンは、ようやく指をほどいた。


     *


「もう一つ、話しておきたいことがあります」


 ガルドが器を置いた。


 レオンは膝へ目を落としかけ、顔を上げ直した。


「僕の、家の名前です」


 ロルフに話したことを、今度はガルドへ伝えた。


 ヴァルグレイ家に生まれ、剣術スキルが発現しなかったこと。誕生日に家を出るよう言われ、木剣と着替えだけを持って歩いたこと。


 ガルドは途中で口を挟まなかった。


「黙っていて、すみません」


 最後にそう言うと、ガルドは眉を寄せた。


「俺は、家の名前を聞かなかったからな」


「でも……」


「お前が十歳で、ひとりで空き家にいたことは聞いた。だから、寝る場所を空けた。それは変わらん」


 レオンは物置へ続く扉を見た。


 あそこには毛布があり、着替えの袋が置いてある。木剣を立てかける場所も、もう決まっていた。


「……ありがとうございます」


「明日も早いぞ。話が済んだら、寝ろ」


 レオンはうなずき、椅子から立ち上がった。


     *


 翌朝、ロルフは日取りと場所を書いた紙を渡してくれた。


 町の南側にある訓練場。朝から始まり、昼過ぎには終わるという。


「俺が着けるかは分からん。着いたら、ベルクという男を探せ。話は通しておく」


 レオンとトーマは、並んでうなずいた。


「勝った数を競うだけの場所じゃない。できないことがあったら、聞いてこい」


 ロルフはそう言い、馬へ向かった。


 今度の見送りでは、前ほど胸が重くならなかった。


 次にやることが、手の中の紙に書かれていたからだ。


 馬が街道へ出てから、レオンはトーマにも自分の家の話をした。


 トーマは黙って聞き、最後に木剣を見た。


「じゃあ、それは家にいたときから使ってるのか」


「うん」


「なるほど。俺より前から振ってたんだな」


 レオンは少し戸惑った。


「家のこと、驚かないの?」


「驚いたけど、昨日のお前が急に変わるわけじゃないだろ」


 トーマは紙をのぞき込んだ。


「それより、稽古会までに、あの受け方をもう一度見てくれよ」


 レオンは紙を畳み、うなずいた。


     *


 それからの日々は、忙しくなった。


 朝は薪を運び、仕事のあとに打ち合う。昼寝の前には、その日に直した動きを自分で確かめ、二本の線へ残した。


 足の運びが乱れた日は、一歩下がって元へ戻る動き。そのあとに、素振りを一つ。


 受けたあとで腕が止まった日は、斜めに構え、そこから剣を振り下ろす動き。


 いつも同じ二行にはしなかった。


 眠って目を覚ましたら、一度、自分の意思で動かす。トーマと剣を合わせて、相手がいても使えるかを確かめた。


 うまくいく日もあれば、急いで足がもつれる日もあった。


 それでも、以前は途中で下ろしていた薪の籠を、軒下まで持っていけるようになった。


 トーマと打ち合う時間も、少し長くなった。


「最近、休もうって言うの、俺の方が先だな」


 井戸のそばで言われ、レオンは自分の脚を見た。


 見た目には、それほど変わっていない。


 けれど、眠っている間に動かした分も、身体には残っているらしかった。


     *


 稽古会の前夜、レオンは早めに木剣を片づけた。


 柄の紐を確かめ、布で汚れを拭く。角兎の角が触れた小さな傷も、まだ残っている。


 袋へ着替えと銅貨を入れ、ロルフの紙も畳んでしまった。ガルドが用意した明日のパンは、まだ食卓にある。朝、それを受け取れば、もう出発できる。


 忘れ物がないか確かめるたび、町で剣を構える自分の姿が浮かんだ。袋の紐を結び終えてからも、なかなかその場を離れられなかった。


 明日は、知らない人たちの前でこれを握る。


 父の言葉を、ふと思い出した。


 剣術を受け継げない者を、家に置く理由はない。


 あのときは、何も言い返せなかった。家を出てからも、目の前の食事と、次の日の仕事を考えるので精いっぱいだった。


 けれど今は、見てもらいたい剣がある。


 あの人たちにも、いつか見せたい。


 剣術スキルがなくても、ここまで来たのだと。


 レオンは柄を握り、すぐに手を離した。明日の前に、今夜もう一度振り始めてしまいそうだった。


「寝ろよ。早く出るぞ」


 扉の向こうから、ガルドの声がした。


「はい。おやすみなさい」


 レオンは毛布へ横になった。


 明日は村を離れる。夕方には、ここへ帰ってくる。


 戻る場所があることを確かめるように、毛布の端を指でつかんでから、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。