第19話 つなぐ順番
「二つになった?」
トーマが木剣を持ち上げた。
「うん。今までは同じ動きだけだったけど、順番に違うことができる」
レオンは荷車小屋の真ん中へ立った。
光の板に文字を浮かべる。素振りを一度。そのあと、木剣を斜めに構え、正面へ戻す。
動かすと、二つの動作が交互に続いた。
トーマは入口から、それを眺めていた。
「剣を振ってから、受ける形か」
「昨日は、そうしたんだ」
レオンは文字を消した。
「打ったあとも見ていられるように、構えを戻す練習がしたくて」
「だったら、俺も普通にやってみる」
トーマが小屋の外を指した。
「寝てるお前には打てないし。起きてる方で、合わせよう」
レオンはうなずき、二本とも空白になっていることを確かめた。
*
最初は、トーマがゆっくり受けてくれた。
レオンが振る。相手の木剣へ触れる。腕を戻し、次に来る一振りへ斜めに合わせる。
木と木が、小さく鳴った。
「そうだな。今のなら、間に合ってる」
トーマの言葉に、レオンは息を吐いた。
昨日、自分だけで確かめた動きが、相手の前でもできた。
「じゃあ、今度はそっちから来てもらっていい?」
「いいぞ」
トーマが足を出す。
レオンは下がりながら、木剣を合わせた。
相手の剣先が外へ流れる。今なら、袖へ届くかもしれない。
だが、自分の腕は一度、胸の前へ戻った。
振り上げたときには、トーマも構え直している。
レオンは剣を下ろした。
「戻しすぎた」
トーマがうなずく。
「俺も、少し空いたなと思った。けど、来ないから待てた」
*
レオンは木剣を下ろしたまま、さっきの腕の通り道を思い出した。
受けてから、いったん正面へ戻す。それから、もう一度上げて振る。
その間に、相手の袖が遠ざかっていた。
戻す練習は無駄だったのだろうか。
そう考えかけたとき、トーマが木剣を動かした。
「ここで受けたら、そのままこっちへ振れないか」
斜めに上げた位置から、剣先を前へ下ろす。
レオンも真似をした。
一度、胸の前へ戻さなければ、剣はずっと短い道を通った。
「でも、ずっとそこに置いておくと、次に間に合わない」
「だから、打つならここから打つ。打てないなら、戻すんじゃないか」
トーマは言ってから、首をかしげた。
「……たぶん。俺も、先生に聞けるなら聞きたいけど」
レオンはもう一度、剣先を動かした。
いつでも戻せばいいわけではない。いつでも振ればいいわけでもない。
同じ受け方のあとに、違う動きがある。
だったら、両方を確かめたい。
*
その日の昼寝では、レオンは文字を選ぶのに時間をかけた。
これまで使っていた、斜めに構えて元へ戻す動きは、今日は使わない。
受ける形を作り、そこで腕を止める。
そこから、木剣を振り下ろす。
まず自分で動かし、肩と肘の位置を確かめた。剣先が横へぶれたので、もう一度。
トーマにも見てもらい、ようやく二つの動きを残した。
『木剣を斜めに構える』
『構えた位置から木剣を振り下ろす』
上の文字の端が光る。
腕が上がり、受ける形ができた。
次に下の文字が光り、そこから木剣が下りる。
最初の行へ戻ると、また腕が上がった。
空振りだけの、小さな往復だった。
だが、昨日とは違うところで、動きがつながっている。
レオンはしばらく見てから、目を閉じた。
*
何日か、二人で試す日が続いた。
ゆっくり受けてもらうときは、うまく振れる。だが、普通に打ち合うと、相手の袖を見つける前に腕が出てしまうことがあった。
トーマが離れたあとを振り、木剣だけが空を切る。
「今のは、俺、いなかったぞ」
「うん……見えたのに、振っちゃった」
レオンは息を整えた。
眠っている間、受けたら振る形を何度も繰り返した。その動きが、今は先に出ようとしている。
昨日まで戻すのが早すぎた腕が、今日は振るのを急いでいた。
足元を直し、もう一度構える。
トーマの木剣に合わせる。
相手が遠い。
振らずに、正面へ戻した。
次の一振りを受けたときは、袖がまだ近くにあった。レオンはそこから木剣を下ろした。
トーマが剣を戻し、受ける。
一本は取れなかった。
けれど、二人の木剣は、最初の一度だけで終わらずに続いた。
「止め。休もう」
トーマが言った。
レオンは木剣を下ろし、ようやく息を吐いた。
*
「前より、やりにくい」
井戸のそばで、トーマが言った。
レオンは顔を上げた。
「僕が?」
「ああ。受けたら戻ると思って行くと、振ってくる。来ると思って待つと、戻る」
「まだ、うまく決められないけど」
「それは俺も同じだ」
トーマは水を飲み、器を置いた。
レオンは自分の手を見た。
二本の線は、代わりに相手を見てくれるわけではない。
それでも、昼に選べる動きは増えていた。
どちらを選ぶかに迷っている間も、腕は、教わった場所まで戻せる。振ると決めたときには、途中からでも下ろせる。
レオンは指を開いてから、木剣を握り直した。
指に痛みはなかった。少し汗で湿った柄を布で拭き、帰る前に一度だけ、自分で受ける形を作った。そこから振る道も、戻す道も、確かに覚えていた。
次に眠るとき、どの二つを繰り返すか。
前よりも、それを考えるのが楽しみになっていた。




