↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第2章 眠りながら磨く剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/36

第19話 つなぐ順番

「二つになった?」


 トーマが木剣を持ち上げた。


「うん。今までは同じ動きだけだったけど、順番に違うことができる」


 レオンは荷車小屋の真ん中へ立った。


 光の板に文字を浮かべる。素振りを一度。そのあと、木剣を斜めに構え、正面へ戻す。


 動かすと、二つの動作が交互に続いた。


 トーマは入口から、それを眺めていた。


「剣を振ってから、受ける形か」


「昨日は、そうしたんだ」


 レオンは文字を消した。


「打ったあとも見ていられるように、構えを戻す練習がしたくて」


「だったら、俺も普通にやってみる」


 トーマが小屋の外を指した。


「寝てるお前には打てないし。起きてる方で、合わせよう」


 レオンはうなずき、二本とも空白になっていることを確かめた。


     *


 最初は、トーマがゆっくり受けてくれた。


 レオンが振る。相手の木剣へ触れる。腕を戻し、次に来る一振りへ斜めに合わせる。


 木と木が、小さく鳴った。


「そうだな。今のなら、間に合ってる」


 トーマの言葉に、レオンは息を吐いた。


 昨日、自分だけで確かめた動きが、相手の前でもできた。


「じゃあ、今度はそっちから来てもらっていい?」


「いいぞ」


 トーマが足を出す。


 レオンは下がりながら、木剣を合わせた。


 相手の剣先が外へ流れる。今なら、袖へ届くかもしれない。


 だが、自分の腕は一度、胸の前へ戻った。


 振り上げたときには、トーマも構え直している。


 レオンは剣を下ろした。


「戻しすぎた」


 トーマがうなずく。


「俺も、少し空いたなと思った。けど、来ないから待てた」


     *


 レオンは木剣を下ろしたまま、さっきの腕の通り道を思い出した。


 受けてから、いったん正面へ戻す。それから、もう一度上げて振る。


 その間に、相手の袖が遠ざかっていた。


 戻す練習は無駄だったのだろうか。


 そう考えかけたとき、トーマが木剣を動かした。


「ここで受けたら、そのままこっちへ振れないか」


 斜めに上げた位置から、剣先を前へ下ろす。


 レオンも真似をした。


 一度、胸の前へ戻さなければ、剣はずっと短い道を通った。


「でも、ずっとそこに置いておくと、次に間に合わない」


「だから、打つならここから打つ。打てないなら、戻すんじゃないか」


 トーマは言ってから、首をかしげた。


「……たぶん。俺も、先生に聞けるなら聞きたいけど」


 レオンはもう一度、剣先を動かした。


 いつでも戻せばいいわけではない。いつでも振ればいいわけでもない。


 同じ受け方のあとに、違う動きがある。


 だったら、両方を確かめたい。


     *


 その日の昼寝では、レオンは文字を選ぶのに時間をかけた。


 これまで使っていた、斜めに構えて元へ戻す動きは、今日は使わない。


 受ける形を作り、そこで腕を止める。


 そこから、木剣を振り下ろす。


 まず自分で動かし、肩と肘の位置を確かめた。剣先が横へぶれたので、もう一度。


 トーマにも見てもらい、ようやく二つの動きを残した。


『木剣を斜めに構える』


『構えた位置から木剣を振り下ろす』


 上の文字の端が光る。


 腕が上がり、受ける形ができた。


 次に下の文字が光り、そこから木剣が下りる。


 最初の行へ戻ると、また腕が上がった。


 空振りだけの、小さな往復だった。


 だが、昨日とは違うところで、動きがつながっている。


 レオンはしばらく見てから、目を閉じた。


     *


 何日か、二人で試す日が続いた。


 ゆっくり受けてもらうときは、うまく振れる。だが、普通に打ち合うと、相手の袖を見つける前に腕が出てしまうことがあった。


 トーマが離れたあとを振り、木剣だけが空を切る。


「今のは、俺、いなかったぞ」


「うん……見えたのに、振っちゃった」


 レオンは息を整えた。


 眠っている間、受けたら振る形を何度も繰り返した。その動きが、今は先に出ようとしている。


 昨日まで戻すのが早すぎた腕が、今日は振るのを急いでいた。


 足元を直し、もう一度構える。


 トーマの木剣に合わせる。


 相手が遠い。


 振らずに、正面へ戻した。


 次の一振りを受けたときは、袖がまだ近くにあった。レオンはそこから木剣を下ろした。


 トーマが剣を戻し、受ける。


 一本は取れなかった。


 けれど、二人の木剣は、最初の一度だけで終わらずに続いた。


「止め。休もう」


 トーマが言った。


 レオンは木剣を下ろし、ようやく息を吐いた。


     *


「前より、やりにくい」


 井戸のそばで、トーマが言った。


 レオンは顔を上げた。


「僕が?」


「ああ。受けたら戻ると思って行くと、振ってくる。来ると思って待つと、戻る」


「まだ、うまく決められないけど」


「それは俺も同じだ」


 トーマは水を飲み、器を置いた。


 レオンは自分の手を見た。


 二本の線は、代わりに相手を見てくれるわけではない。


 それでも、昼に選べる動きは増えていた。


 どちらを選ぶかに迷っている間も、腕は、教わった場所まで戻せる。振ると決めたときには、途中からでも下ろせる。


 レオンは指を開いてから、木剣を握り直した。


 指に痛みはなかった。少し汗で湿った柄を布で拭き、帰る前に一度だけ、自分で受ける形を作った。そこから振る道も、戻す道も、確かに覚えていた。


 次に眠るとき、どの二つを繰り返すか。


 前よりも、それを考えるのが楽しみになっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。