↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第2章 眠りながら磨く剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/38

第13話 繰り返した先の一本

 木と木がぶつかり、レオンの剣先が横へ流れた。


 トーマの木剣が、空いた肩へ触れる。


「今のは、受けたあとが遅いな」


 レオンはうなずき、構え直した。


 宿屋の裏庭へ通い始めて、三日たっていた。初めより相手の剣を受けられるようになったが、そのあとで触られてしまう。


 受け止めた木剣を、いつまでもその場所に置いているからだ。


「もう一度、同じように来てもらっていい?」


「いいぞ」


 トーマが近づく。


 レオンは足を引き、木剣を斜めに合わせた。こつんと音が鳴ったら、相手の剣を押さえつけず、正面へ構え直す。


 今度は、胸の前へ剣先が戻った。


 トーマの二度目の動きが止まる。


「そう。それだと、こっちもすぐには行けない」


 レオンは柄を握り直した。


 ずっと勝てなかった理由が、一つだけ見えた気がした。


     *


 打ち合いを終えると、レオンは荷車小屋へ入った。


 トーマは叔父に呼ばれ、厨房へ薪を運びに行っている。


 レオンはひとりで、さっきの動きを確かめた。


 木剣を斜めに上げ、元の構えへ戻す。


 最初は、剣先を大きく動かしすぎた。腕を下ろしてから持ち上げるので、戻るまでに時間がかかる。


 もう一度。


 肩を上げず、肘を身体から離しすぎない。トーマの木剣に合わせたときの形を思い出し、そこから正面へ戻した。


 光の板を呼び出す。


『木剣を斜めに構えて元に戻す』


 腕が動き始めた。


 上げて、戻す。上げて、戻す。


 レオンは目を開けたまま、何度か確かめた。思っていたところへ剣先が収まる。


「今度は、それを寝ながらやるのか」


 戻ってきたトーマが、入口からのぞいた。


「うん。受けたあと、すぐ戻せるように」


 レオンは文字を消した。


「でも、これだと同じ方にしか動かせない。反対から来たら、自分で動かさないと」


「そりゃそうだろ。俺が同じところばかり狙うわけないし」


 トーマは木剣を脇へ立てかけ、入口の外に座った。


「少し休んだら、叔父さんの手伝いに戻る。起きるときに呼べばいいか?」


「うん。ありがとう」


 レオンはもう一度文字を浮かべ、腕の動きを見届けた。


 昼の暖かい風が、小屋へ入ってくる。


 目を閉じると、トーマが木剣の柄を布で拭く音が聞こえた。


     *


 次の日も、その次の日も、レオンは同じ動きを練習した。


 朝は自分で動かし、午後の短い眠りの間は、フルオートへ任せる。


 打ち合いでは、まだ何度も触られた。


 反対から来る剣に、いつもの構えを出してしまったこともある。トーマに首をかしげられ、レオンは熱くなった頬を押さえた。


 受ける場所は、自分で選ばなければならない。


 ただ、一度合わせたあとに、腕が止まることは減っていった。相手の剣を見るうちに、自分の剣先が胸の前へ戻っている。


 そこでようやく、次の動きを考える余裕ができた。


 トーマが大きく踏み込むとき、後ろの足を寄せるのが少し遅い。


 前にも気づいていた。けれど、自分の木剣を戻している間に、相手の構えも整ってしまっていた。


 今日なら、間に合うだろうか。


 レオンは構えたまま、トーマを見た。


     *


「これで最後にしよう」


 トーマが言った。


 二人とも息が弾んでいる。レオンは井戸の水を飲みたいのを我慢して、もう一度だけと、うなずいた。


 相手が近づく。


 すぐには動かない。木剣が来るのを見てから、足を引いた。


 斜めに合わせた剣が、トーマの一振りを外へ流す。


 次の瞬間には、自分の剣先が正面へ戻っていた。


 トーマの身体は、まだ前へ寄っている。


 袖が近い。


 レオンは木剣を少し持ち上げ、相手の上腕へ向けて下ろした。


 布へ、軽い手応えがあった。


「止め」


 声を出したのは、レオンだった。


 剣を止めたまま、相手の木剣も見る。自分の脇へ戻ろうとしていた剣先が、途中で止まった。


 トーマが、自分の袖を見た。


「……触ったな」


「うん」


 レオンはゆっくり木剣を下ろした。


「今のは、そっちが先だ」


 トーマは肩を回してから、口を曲げた。


「いつも同じように踏み込むから、分かったか?」


「少し。でも、前は間に合わなかった」


 答えると、トーマは自分の後ろ足を見た。


「次は、俺もそこを直す」


     *


 帰り道、レオンは木剣を抱えていた。


 たくさん負けたうちの、たった一本だ。明日は、同じようには届かないかもしれない。


 それでも、腕を戻す稽古が、あの一振りにつながった。


 眠っていた間も、確かに身体は覚えていたのだ。


 家に戻ると、ガルドが斧の柄を見ていた。


「明日、町まで行ってくる。留守の間、薪を――」


 そこまで言いかけ、レオンの顔を見る。


「何かあったか」


「一本、取れました」


 ガルドは斧を置いた。


「そうか」


 声が、少し柔らかくなった。


「今日はよく食え。町の用事も、お前がよければ一緒に来い」


「僕も、ですか」


「新しい斧の柄を買う。ついでに、こまごましたものもある。持つのを手伝ってくれ」


 レオンはうなずいた。


 仕事をして、銅貨をもらってから、集落の外へ買い物に出るのは初めてだった。


 物置へ戻り、着替えの袋から小さな麻袋を出す。


 口を開くと、貯めた銅貨が触れ合って音を立てた。


 レオンはそれを確かめ、木剣の隣へそっと置いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。