↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第2章 眠りながら磨く剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/42

第12話 剣術スキルのある少年

「本当に寝てる」


 聞き慣れない声に、レオンは目を開いた。


 荷車小屋の入口に、少年が立っている。レオンより頭ひとつ高く、片手に布で包んだ長いものを抱えていた。


 レオンは光の板の文字を消した。


「……誰?」


「トーマ。ここの主人は、俺の叔父さんだ」


 少年は、小屋の外へ目を向けた。


 宿屋の主人は、庭で空の籠を重ねていた。


「薪の子が、寝ながら剣を振るって聞いたから。何のスキルなんだ?」


「フルオート」


「知らないな。剣術の種類?」


 レオンは首を横に振った。


 トーマは抱えていた布をほどいた。中から木剣が現れる。レオンのものより少し長く、柄には細い紐が巻かれていた。


「俺は剣術。三年前に授かった」


 その言葉に、レオンの目が止まった。


     *


 トーマが木剣を振ると、短い音がした。


 小屋の外は晴れている。雨が上がってから何日かたち、庭の土も乾いていた。


「一緒にやらないか。普段、相手してくれるやつがいないんだ」


 レオンは木剣の柄を握った。


「僕も、ひとりだけど」


「なら、ちょうどいい」


 トーマは庭の真ん中へ出た。


 レオンはすぐには続かなかった。


 剣術スキル。


 家で何度も聞き、授かるはずだと言われていたものだ。兄たちが剣を構えたときの、迷いのない動きを思い出す。


「どうした?」


「……僕は、剣術スキルを持ってないんだ」


 トーマが振り返った。


「さっき言ってた、フルなんとかだけか」


「うん」


「木剣は振れるんだろ?」


 レオンは手元を見た。


 寝ている間も握り続けた柄に、自分の指が収まっている。


「振れる」


「じゃあ、やってみよう」


 トーマは、もう一度庭の方へ歩き出した。


     *


 主人に声をかけ、庭を使わせてもらった。


 頭と指は狙わない。強く打たない。止めと言ったら、すぐに止める。


 レオンがロルフとの決まりを話すと、トーマはうなずいた。


「分かった。どっちかに触ったら、そこで終わりな」


 少し離れて向かい合う。


 トーマは斜めに木剣を構えた。レオンも構え、相手の胸へ目を向ける。


「行くぞ」


 足が近づいた。


 レオンは下がる。


 相手の木剣が腕へ伸びてきた。自分の剣を合わせようとしたが、先に袖を触られた。


「一本」


 トーマが木剣を下ろした。


 速かった。


 けれど、何が起きたかは見えた。受けようとした腕が、間に合わなかったのだ。


「もう一度、いい?」


「ああ」


 今度は、相手が来たところで少し大きく下がった。


 剣先が届かない。


 トーマがもう一歩寄る。レオンも下がり、足を止めずに距離を取った。


「逃げるなよ」


 そう言われ、レオンは踏みとどまりかけた。


 その肩を、木剣が軽くたたいた。


「……今のは、止まっちゃった」


「止まったな」


 トーマがうなずく。


 レオンは構え直しながら、後ろを確かめた。井戸までは、まだ遠い。


 声に気を取られて足を止めない。次は、そこを気をつけよう。


     *


 何度やっても、先に触られるのはレオンだった。


 自分から振れば、受けられる。待っていれば、相手の剣先が伸びてくる。


 ただ、ロルフとの稽古とは違った。


 トーマは、ときどき大きく踏み込んでくる。そのあと、後ろの足を寄せる間に、動きが少し止まった。


 そこへ木剣を出そうとして、二度、間に合わなかった。


 三度目は、振り上げるのをやめた。


 トーマの木剣が近づく。


 レオンは下がりながら、自分の剣を斜めに合わせた。こつん、と木が鳴る。


 押し合わず、もう少し下がる。


 トーマの剣先が、脇を通った。


 レオンは前へ出かけ、その場に踏みとどまった。


 相手の木剣は、まだ胸の前へ戻ってくる。


 無理に飛び込まず、もう一度構え直す。


「……よく見てるな」


 トーマが言った。


 そのあと腕を触られ、やはり負けた。


 けれど、レオンはさっきほど悔しくなかった。


 初めて、来た木剣を合わせて外せた。そのあとも、相手を見るのを忘れなかった。


     *


「そろそろ休め。井戸を塞ぐなよ」


 主人に言われ、二人は庭の端へ座った。


 トーマが木剣を膝へ置く。


「ああいうの、どこで習った?」


「護衛の人に、少しだけ。もう出発したけど」


「剣術を持ってないのに、ちゃんと受けるんだな」


 レオンは顔を上げた。


 トーマは、悪気なく言ったらしい。自分の木剣の紐を巻き直している。


「俺、初めて剣を持ったとき、構え方が何となく分かったんだ。お前も、そういう感じなのかと思った」


「僕は……何度も振って、教えてもらってる」


「寝ながらも?」


「うん」


 トーマは、さっきレオンが立っていた小屋を見た。


「それで、何回くらい振る?」


「長く眠ったら、一万回くらい。でも、ここでは少し昼寝するだけだから、もっと少ないよ」


 紐を巻く手が止まった。


「一万?」


「たぶん。眠ってる間は数えられないから」


 トーマはレオンの顔を見たあと、木剣の柄を見た。


「……そりゃ、構えるのに迷わないわけだ」


     *


 ガルドが迎えに来たころには、日が傾き始めていた。


 レオンは木剣を袋へくくりつけた。


「また来るか?」


 トーマに聞かれ、手を止める。


「仕事が終わったら。小屋を使わせてもらってるから」


「俺も、しばらく叔父さんの手伝いに来る。空いてたら、またやろう」


「……いいの?」


「俺だって、相手がいる方がいい」


 トーマは木剣を布で包み直した。


 帰り道、ガルドが尋ねた。


「勝てたか」


「一度も」


 レオンは答えてから、少し笑った。


「でも、次もやろうって」


「そうか」


 剣術スキルを持つ相手には、まだ届かなかった。


 それでも、目をそらさずに構えられた。受けられた一度を思い出すと、次に試したいことが浮かんでくる。


 レオンは、袋の木剣が揺れないよう、手で押さえた。


 明日も、仕事を終えたらあの庭へ行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。