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剣術名家を追放された少年、謎スキル《フルオート》で眠りながら強くなる  作者: 遠野しじま
第2章 眠りながら磨く剣

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第11話 昼寝の稽古

 翌朝、レオンは物置の入口に立ち、両腕を広げていた。


 木剣を持たなければ、棚に手は届かない。けれど、剣を振るには、やはり狭かった。足元には、ガルドが用意してくれた敷物もある。


「壁は、押しても広くならんぞ」


 背後から声がした。


 振り返ると、ガルドが空の器を重ねていた。レオンは慌てて腕を下ろした。


「すみません」


「謝ることはない。稽古の場所か」


「はい。前にいた家なら、広いんですけど」


 ガルドは少し考え、器を台へ置いた。


「あの空き家へ戻って寝るつもりか」


 レオンは返事に迷った。


 屋根に穴があり、雨が降れば濡れる。だが、木剣を振り続けられる広さはあった。


「毎晩じゃなくても、晴れた日だけなら……」


「眠るのは、夜でなきゃいかんのか」


 レオンは顔を上げた。


「昼に少し休むときも、そのスキルは使えるんだろう」


 試したことがなかった。


 それでも、光の板に昼と夜を選ぶところはない。眠ったから動くのではなく、動かしたまま眠れるだけだ。


「たぶん、できます」


「じゃあ、飯のあとに試してみろ。最初は俺も見てる」


     *


 午前の仕事を終えると、レオンは庭の端を片づけた。


 足元の小石を拾い、積まれた薪から離れる。ガルドが通るところにも、剣先が届かない。


 昼食のあと、木剣を手に、その場所へ立った。


 ガルドは家の前に腰を下ろし、古い籠の取っ手を直している。


「眠くないんじゃないか」


「少しは」


 食事をして、日向に立っていると、まぶたが重い。毎朝早く起きていたから、昼に眠れないわけではなさそうだった。


 レオンは自分で何度か木剣を振った。


 腕の動きが落ち着いたところで、光の板を呼び出す。


『木剣を振る』


 身体が同じ動きを繰り返し始めた。


「じゃあ……目を閉じます」


「ああ」


 まぶたの裏が明るかった。


 剣が空気を切る。籠の取っ手がきしむ。遠くで、誰かが鶏を追っている声がした。


 夜の廃屋とは、聞こえる音が違う。


 レオンはしばらく、その音を聞いていた。


     *


「レオン。そろそろ起きろ」


 名前を呼ばれ、目を開いた。


 木剣が振り下ろされる。


 レオンは文字を消し、腕を止めた。庭に立ったまま、少しの間、辺りを見回す。


 ガルドが立ち上がり、直した籠を持っていた。


「眠ってましたか」


「返事がなくなってから、しばらくたつぞ」


 レオンは手のひらを開いた。


 痛みも、だるさもない。朝まで眠ったときと同じだった。


「昼でも、できるんだ」


 うれしくなって木剣を握り直すと、ガルドがその腕を眺めた。


「寝てるのに、よく落とさないもんだな」


「動かしている間は、手もそのままなんです」


「なるほど。呼べば起きるのは、分かった」


 ガルドは籠を置き、井戸の方へ歩き出した。


 レオンも木剣を片づけ、あとを追った。


 ひと晩ずっと続けることばかり考えていた。だが、昼に少し眠るだけでも、その間は剣を振れる。


 夜は毛布で眠り、昼は庭で稽古をする。


 そんな使い方も、できるのだ。


     *


 翌日は、朝から細い雨が降った。


 庭での稽古は諦め、レオンはガルドと薪を届けに行った。宿屋の裏へ回ると、いつも荷車を置いていた小屋が空になっている。


 ロルフたちと一緒に出ていった荷車が、そこを使っていたのだ。


 屋根は大きく、乾いた地面が奥まで続いていた。


 レオンが見つめていると、宿屋の主人が裏口から顔を出した。


「どうした。何か忘れ物か」


「いえ。あの……」


 ガルドが、隣から小屋をのぞく。


「しばらく、空いてるのか」


「次の客が来るまではな」


「この子に、少し剣を振らせてもらえんか。庭じゃ雨に当たる」


 主人はレオンの木剣を見た。


「ロルフが見てた子か。中に物を置いてない間なら、構わんよ」


 レオンは顔を上げた。


「ありがとうございます!」


「その代わり、終わったら掃いといてくれ。荷車から藁がずいぶん落ちてる」


「はい!」


 ガルドに頼まれていた薪を厨房へ運んでから、レオンは箒を借りた。


     *


 小屋の中は、藁と乾いた土の匂いがした。


 床を掃き、壁際へ箒を立てる。入口から離れたところに立つと、木剣を振り上げても梁には届かなかった。


 木剣を下ろし、小屋の外も確かめる。入口を横切る人には届かない。奥から荷物を取る用事ができたら、先に呼んでもらおう。主人にそう頼むと、豆の籠を抱えたまま、分かったと返事があった。


 主人が入口の脇に腰を下ろし、豆の莢をむき始めた。


「寝ながら振るって、本当か」


 ガルドから聞いたらしい。


 レオンは少し恥ずかしくなった。


「はい。でも、今日はあまり眠くないので、眠れるかは……」


「眠らなきゃ、普通の稽古だろ。好きにやれ」


 主人はそう言い、豆を籠へ落とした。


 レオンは木剣を構えた。


 屋根を雨がたたく。だが、靴は濡れない。腕を伸ばしても、壁に当たらない。


 最初の一振りは、自分で振った。


 昨日より肩に力が入っていたので、息を吐いてやり直す。


 納得できる一振りを確かめてから、光の板へ文字を浮かべた。


 腕が動き始める。


 レオンはすぐには目を閉じず、剣先を見た。


 この動きを、次の稽古へ持っていく。


 そう思っているうちに、屋根を打つ雨音が、少しずつ遠くなっていった。


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