第34話 ブナの興味
「ヨウム先生。窓が水を作るのは何という魔法の原理ですか?」
窓ガラスについた結露を見て、ブナが問う。
魔術を教え始めてから、ブナの質問は以前と質が変わった。
「洗濯物を外に干すと乾くのはどういう原理の魔法ですか」
「空の色が時間で変わるのはどんな魔法をつかっていますか」
「カーンと音を立ててしまったお皿を触ると音が止まるのは、知らない間に魔法を使っているからですか」
以前は「青いリンゴと赤いリンゴがあるのはなぜか」「なぜフォークのサイズを変えるのか」「どうして雑巾と布巾を分けるのか」といった単純な質問が多かった。
ブナは今、物の仕組みや原理に興味を持つようになった。
「ブナ。それはすごくいい質問だ」
そう前置きして、ヨウムはいつものように嬉々として質問に答える。
*
あの人は不思議な人だ。
ブナは掃除をしながらヨウムについて考えていた。
あの人はなんでも知っている。
質問をするとやたら褒められる。本心で言っているのが分かるから、こちらも質問しやすい。
心なしか喜んでいるようにも見える。
説明はとても分かりやすく、とても詳しくて、すごく長い。
そしてものすごく楽しそうだ。
洗濯物が乾くのが不思議で質問したときは、夏に発生する入道雲の話にまで発展した。
空の色が変わるのが不思議で尋ねたときは、地平線の空は色が薄いことや、月の色が赤く見える時の話までしてくれた。
皿の音が触ると静まることを尋ねたときは、雷との距離の話まで説明してくれた。
とても物知りだ。
一度だけ彼が知らないことを聞いた時があったが、「その着眼点は素晴らしい」とまた褒められ、すぐに調べてくれた。
とても勉強が好きな人だ。
いつも難しい本を読んでいる。新しい知識を自分が身につけると、喜んで一緒にそのことについて語る。彼が知らないことを自分が知っていると、すごく興味を持って尋ねてくる。
間違っている事に対する指摘は至極細かいが、否定されたことはない。
勉強は楽しい。
知らなかったことが知っていることに変わっていく。とても楽しい。そう自然に思えるのは、彼の姿勢を間近で見続けてきたからだろう。
あの人は不思議な人だ。
とても穏やかな人だ。いつも褒められ、感謝されるが、蔑んだり怒り散らしたりすることがない。
粗相をしたときに鞭打ちされても仕方ないと手を出したとき、「自分を大切にして欲しい」と諭されたが、粗相をしたこと自体については怒られなかった。
迷惑をかけても、失敗しても、役に立てなくても怒られなかった。
逆になぜかいつも代わりに謝られる。
「すまない」と言う。なぜだろう。
あの人はとても笑顔が美しい人だ。
立ち姿や仕草、食べ方、立ち居振る舞いの美しい人だ。
なのに、自分の容姿を気にしている。醜くて奇怪で、悍ましいと思っている。
よく瞼で目を隠し、顔を手で隠す。夏でも厚手の長袖を着て、街へ外出するときはフードも被る。
とても不思議だ。
どんな人なのか、その人の本質的なところをもっと知ってみたい。
ブナはそう思った。




