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あ、お前の推し、死んでるから  作者: まつり


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5/9

モーさん、心霊現象に遭う

「次の配信はさー、なにやろうかなーって。」


マシュマロで質問された疑惑を解消してくれるなら僕はなんでも良いよ。


幽霊って設定なんだから、それに関連したのをやった方がいいんじゃない?

怖い話とか。


「怖い話か。

いやさ、幽霊が幽霊の話をすんのって怖い話か?」


詳しく。

よく分からんかった。


「タケやんがさ、友達の話をするじゃん?

それって怖い話にはならんじゃん?」


内容によるけどね。

友達にストーカーが居る話とかなら怖い話にもなるんじゃない?


「普通に遊んだ話とか、今日何話したってのは?」


ならんわな。


「そうでしょ?

あのさ、駅前のスーパーの角におばちゃんの霊がいるんよ。

俺がその辺フラフラしてる時によく話しかけてくるのね、そのおばちゃん。」


うん。

僕で言うと、モーさんのお母さんはいまだにこの辺に住んでるから、モー母に話しかけられる感じかな?


「そんな感じ。


まぁ、ちょっと目玉は落ちてるけど、スーパーの安売りに固執した人生だったみたいで、店頭のチラシを読み込んでてね、俺に教えてくれるわけよ。


豆腐が安いとか卵が安いとか。」


あ、だからデルタ、僕が買い物行こうとしたら着いて来て、何が安いとか言うのか。

あれ怖いんだけど。


普通に心霊現象だから。


電子機器通さないと話せないからって、呼び込みくんから話しかけてくるのやめてくんない?

まぁ、最近はイヤホン着けて行くようにしてるから、周りへの被害は無くなったけど。


「そうそう。

いや、教えてやりたくなるじゃん、安売り。


で、今の話怖かったか?」


いやぁ…怖くはないね。

なんか…普通の話だった。


目玉が落ちてるとか、未練がチラシとか、引っかかるワードはあったけど。


「だろ?幽霊が幽霊の話をしても怖くはないんだよ、多分…。


あ。」


ん?どした?


デルタが声を止めて数秒。

つられて僕も声を上げるのをやめた。


静まり返る居間に、チャイムの音が響く。


びっくりした…。


幽霊の話をするっていうもんで、怖い話を聞く心構えだけはしてたから、普段よりびっくりした。

怖い話じゃなかったけどさ。


「モーさんじゃね?」


多分ね。

呼んでくるわ。



「ご無沙汰してます、ちくりん先生。」


やめてよモーさん。

プライベートだよ。


「はは、せやんな。

ひっさしぶりに来たわ、タケのばーちゃんち。

半年前ぐらいだっけ、こっちに越して来たの。


前はようここで遊んだけど、タケ両親が家建ててここを出てってからは来なくなってもうたもんなぁ。」


そっか、デルタ名無しの幽霊だった頃は、謎の怪奇現象起きるから打ち合わせも外でやってたっけか。

モーさんは相変わらず変な関西弁と、胡散臭い笑顔だね。

絶対物語中盤で裏切るじゃん。


「裏切らへんわ。


タケ、冷蔵庫借りるで。

色々買って来てん、ほら、ボクがサボる時に立ち寄った用のビールとか。


会社には内緒な。

賄賂はレッドブル6缶パック。


えーと、なんや、自炊すんのかい。

結構野菜なんかも入ってるやんけ。


お、冷蔵庫の下の引き出しは部分ほぼ空っぽみたいやから、飲み物はそっちにまとめて入れとくわ。


ささ、カレー食べよ。

そこらのCoCo壱で買って来たからまだ温かいで。


どれにする?

ほうれん草と…豚しゃぶと…イカカレー。

サラダも3種類買うて来たわ。


選んで選んで。」


めっちゃ腹減ってんのモーさん。

僕はねぇ…イカカレーとイカサラダにしようかな。


「はは、相変わらずイカ好きやな。

そうやと思ったわ。


…おいおい、3人前やって。

二つボクんとこに置かんといてや。

食べきれへん。


あれ、デルタ君は?

デルタ君、どれ好きかな。

イカはタケが食うと思ったから、無難なのにしたんやけど、若いから肉か、やっぱ。


若いよな?

声の感じ若かったもん。


しっかし、良い声やったな。

Vtuberやるんなら、ボイスとかも需要あるんとちゃうの。


いっただきまーす。

タケも食え食え。


んー、やっぱ、カレー如きになんでこんな金払わないといかんのって思う所もあるけど、CoCo壱でしか味わえないものってあるよなぁ。


あ、辛味足す粉も貰って来てん。

ちょっと掛ける?


え、あれ、デルタ君は?

帰ってしまった?」


めっちゃ忘れてた。

そうだよね。


モーさんからしたら僕にかけた電話に出て、楽しく通話した相手なんだから、僕と一緒にこの家にいると思うじゃんね。


いや、いるんだけどさ、どっかには。


あ、モーさんの死角にあるモニターに、文字が打ち込まれてる。


『黙ってた方がいい?話した方がいい?』


迷う。


そもそもモーさん、幽霊とかって信じてくれんのかな。

編集者っていう、ファンタジーヘッドな人種を相手にする仕事をしているんだから、頭ごなしに否定はしないだろうけども。


『ちょいまち、探り入れるから。』


手元のスマホにそう入力して、机に置く。

これでデルタには伝わるだろう。


おほん。


あー、モーさん。

この家、直したとはいえ結構古いじゃん?

不気味じゃない?


「お?そう?小さい頃めっちゃお邪魔してたし、今更気にならんわ。

塗り直した色もモダンやし、古民家カフェみたいで落ち着くくらいやけどな。」


色は結構こだわったんだよね。

キッチンをあえてタイルにしたりとか。


…じゃなくて、お化けとか出そうじゃない?


「お化け?一人暮らし始めて、夜一人になるとそんな事も考えるか。

意外とお子ちゃまやなぁ、タケ。

さびしいんか、もっと遊びに来てやろか?」


は?そんなんじゃなくて…。

えーと、そうだな。


「あ、あれか。

見たで、デルタ君のアーカイブ。

なんやお化けやなんて変な設定つけてたやろ?

それで出てこないんか?


律儀なんかなそれは。

ボクを驚かせようとしてるんやろ。


怖い話をして、うしろからワッと。

ほんならいるのはこっちかな?


窓の外のベランダにでも潜んでるんやろ。

この窓。


あー!ごめんな!

ドッキリとサプライズは受ける主義なんやけど、あかんねん。

分かってまうねん。


編集の仕事なんて、作者の意図をハイパー汲み取りせんとあかんから。

分かってまうんよなー。


……なんやこれ。」


なにそのマウント。


この窓、とカッコつけ、親指で指し示しながら振り向いたモーさんの目に映ったのは、バグり散らかしながらも、はっきりとモニターに映る文字。


僕らの会話を聞きながら僕にしか伝わらないように、一応参加していたデルタ。

モーさんの背後にあるモニターに映るのは愚にもつかないゆるい会話文なのだが、実はデルタが電子機器を操作すると、映像も音像もおどろおどろしくバグる。


Vtuberを選んだのはそういう事情もあるのだ。

デルタが操作している機器はバグるが、電波を通して別の機器へ送信したものは普通に映る。


僕?僕は慣れたから、画面がバグろうが、呼び込みくんがバグろうが気にならないけど、慣れないとほら、モーさんみたいになっちゃう。


「なんやなんや、これ…。

手が込んでんな、タケ…お前、ボクを驚かせるためだけにここまでするか…?」


ほらほら、挨拶しとけしとけ。

はじめましては自己紹介から、なんだろ。


画面一杯に映し出される、数多の化野デルタという文字を見たモーさんの表情は、完全に引き攣っていた。

探りを入れるのは失敗したけれど、この本能的に不快な映像を見せた後なら説明もしやすそうだ。


あはは。


ワッて言ってやろうかな。

ご期待通りに。

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