墓参り
空気が美味しいね。
「さっきまで山登りで吐きそうな顔をしてたやつが言って良いセリフじゃないな。
…到着か?このまだ先に別の霊園があるのか?」
到着です。
季節外れだし、平日の昼間だから人が少ないね。
少し街から離れてるだけなのにねぇ。
車だと2時間ちょっとの距離でしょ。
「そうな。
歩くと3日だけどな。
それで、俺の墓はどこなんだよ。」
え?デルタが知ってる前提で来てるんだけど。
ご先祖様のお墓だよ?
両親とお墓参りとかで来てないの?
「いいか?両親と仲がいいバンドマンなんていねーんだよ。
仲良くやってたら、素直に就職してんだろうよ。
そんな分の悪いギャンブルしないでさ。」
でたよ、偏見だよ。
「偏見だけどよ、漫画家も同じだろ?
芸術なんてもんは、そいつに欠けた何かの隙間に入り込んだ澱みたいなもんを吐き出す作業なんだから。
両親に愛されて、友人に愛された奴なんかが作るもんは退屈極まりないぜ、多分な。
変な奴が変なことをするから楽しいんだ。」
…ほんじゃあ、今のデルタが何かを本気で作ったら、とんでもない作品になりそうだね。
何かどころか命も身体も失っているんだから。
「そうかもしんねーなぁ。
だけど、そんな奴に誰が共感するんだって話だよな。
すげーものが出来ても、誰も喜べないよ。
だから取り戻しに来させたんだろ?
生きてた頃の、俺の魂を。
死者の戯れなんかじゃなくってさ。」
いや、ただの好奇心だよ。
親友の遺作だし…僕の為に作った作品なんだろ?
「お前と、お前のファンの為な。
よし、行くか、着いてこいよ。」
見えないんだから着いて行くも何もないよ。
声で方向は分かるけどさ。
なに、思い出したの?自分の墓の場所。
「いや、インフォメーションセンターの看板を見つけた。」
そうですか。
◆
…あらら、随分と草が生えてるし、なんというか…。
死んでから…7年ぐらい?
磨く用に水持ってくるわ。
「荒れてるって素直に言えよ。
そんなんで今更傷つかねぇから。
いいよ、磨かなくて、墓石なんて。
そこに私は居ません、眠ってなんかいませんってな。」
…なにそれ。
気になるから磨くよ。
これから開ける墓だしね。
「掃除したら開けた痕跡も目立たなくなりそうだもんな。
悪い男だぜ、タケやんは。
今ちょっと真っ黒な姿に目だけあるデザインに見えたもん。」
まだ犯人じゃないよ。
これから犯人になるんだ、墓荒らしの。
「はは、そうな。
あ、そこ、今拭いてる所、そこが引き出しみたいになってて開くみたいだぜ。」
へぇ…あら、本当だ。
なんで知ってんの?
「インフォメーションセンターのポスターに貼ってあったよ。
まごまごしてると通報されちゃうから、とっとと開けて中を取り出せよ。」
はいはい。
えーと、骨壷の中の…あ。
骨壷の中じゃなくって、包みの袋に入ってた。
ギリギリ罪悪感がわかない良い隠し方だね、青井先輩。
「日本人には中々なぁ…悪いことは出来ても、罰当たりってなるとなぁ。
それが姐御に出来るギリギリのイタズラだったんだろうね。」
青井先輩のこと、姐御って呼んでんだ。
姐御って感じするかな。
優しいおねーちゃんじゃん、青井先輩。
「いやいや、すんげぇ気が強かったんだから。
…そっか、今は優しいのか。
いや、俺らといた時も優しかったんだけど、なんつーか、気を張ってるっていうかさぁ。」
…お母さんでもあるからね。
「そうな。
もう、来年小学生の子供を持つママかぁ。
時の流れってのは早いもんだねぇ。
よし、盗るもん盗ったし、帰るか!」
まだ掃除が終わってないよ。
もう少しだから待っててよ。
「だから磨かなくていいって。
俺は両親と不仲で、両親も俺の死を悼んじゃいねーの。
汚れた墓を見て悲しむ人なんていないんだから。」
…ここ、見て。
始めは汚れと草でみえてなかったけど、三角丈人って墓石に掘ってあるその下に、小さくギターが彫ってあるんだよ。
どうでも良いと思ってたら、こんなアイコンいれないよ。
「…ピカピカには、しなくていいからな。」
ん。
次に来た人が不快にならない程度ね。
「んー。」
そいで、疲れる程はやりすぎなんよ。
「んー?なんで?」
なんでって、そりゃあお前、帰りも徒歩だろ?
歩くんだぞ?また今から3日間。
「旅ってさ。」
うん。
「行きはあんなに楽しいのに、帰りはなんであんなに億劫なんだろうね。」
しらねぇよー。
タケやんだけ電車乗って帰ってもいいんだぜ。
いくら方向音痴ったって、昨日一昨日歩いてきた道ぐらい俺にだって分かるってもんだよ。
「旅ってさ。」
うん。
「家に帰るまでが旅なんだってね。」
はは、そうな。
んじゃ頑張って歩けよ。
運動不足の漫画家さん。
もう付き合ってられるのも、そんな長くねぇだろうし。
「…ん。」




