旅路
「嘘だろ、すげぇ峠じゃん。
マジで歩くの?足取れるよ?」
歩くしかないだろ、こんな山の中には駅なんてないし、バス停もないよ。
「なんで俺を連れてくかなー。
そんな寂しがり屋だっけ、タケやん。」
お前の墓を暴きにいくんだから、本人ぐらいいないとマズいだろ。
ただでさえ法律的には真っ黒なんだから。
心の言い訳ぐらい用意させておくれ。
「墓暴きって…この平和な世の中で聞くことあんだな、そんなセリフ。
って、え?俺の墓?
え、え、え、俺の正体…分かったの?」
分かったよ。
…お前だって思い出してんだろ、実は。
なんとなく気がついてたよ。
「…まー、確信はなかったけどね。
でもなんとなくはさ、タケやんの漫画を読んだ時に思い出したよ。
未練も。」
人の漫画を勝手にキーアイテムにすんなよ。
なんで言わなかったんだよ。
僕には言ってくれたって良かったろ。
別にそれで仲良くやってたことが変わる訳じゃないんだから。
「いやぁさぁ、ほら…。」
なんだよ。
言い淀むほど隠すような間柄ではないじゃないか。
「名前、被ってるから、恥ずかしくて。
タケやん、俺、デルタだからな。
三角タケトは死んでんだ。
気にせずデルタって呼んでくれた方が嬉しいよ。」
うん。
もーさんにも、青井先輩にも言われたよ。
あの人も気がついてたんだよ、デルタが三角タケトだって事に。
僕の先輩だけど、デルタの先輩でもあるんだろ?
「うん、そうだね。
ドラマーも死んじゃったんだって、なんかでみた。
1人残しちゃったのは申し訳ないなぁ。」
そのドラマーさんとの子供がいるらしいよ。
それに事故が道路の不良だったから、慰謝料たんまり貰えて助かったってさ。
デルタにも分けようかってさ。
「マジで?付き合ってたん?
知らんかったわ…はは、独りぼっちにならなかったなら、本当に良かった。
先輩に伝えといてよ、俺にはお金なんて必要ないって。
お子さんに使ったらいいさ。」
そう言うと思ったよ。
だから、要らないんじゃない?って答えておいた。
……あぁ…厳しい。
「うん?
…おいおい、立ち止まんなって、自分で歩くって言い出したんだろ?」
いやいや、キツイって。
足がもげて死にそう。
「はいはい。
死んだら幽霊の先輩として面倒みてやるから。
だから、好きに生きて、好きに死ね。」
うん。
◆
「結構いい旅館じゃないの。
奮発したねぇ。」
まぁね。
本来2人分の料金がかかることを考えたら、なんか高めの所でもお得かなって考えちゃってさ。
「俺は宿泊料金掛からないからな。
…今日の晩飯、なに?」
季節の懐石御前。
カニが入ってるらしいよ。
「…それはちょっと許せないかも。
お供えしてくれよ。」
良いけど…。
そういえばさ、お供えって意味あるの?
実際食べられたりする?
「わかんねー。
方法はあるのかもしれないけど、俺にはなんの意味もないね。」
じゃあ1人で食べるよ。
ごめんねぇ、生きてるばかりにねぇ、美味しいものが食べられてねぇ。
「かー!
…まぁ、俺にしか出来ないこととかあるしな。
ほら、女湯だって入り放題だぜ?」
…そう。
入ってきたら良いじゃん。
何にもない時期だけど、僕らの他にも別に団体客が居るみたいだよ。
ほら、入り口の歓迎欄に書いてあったから。
どっかの敬老会だって。
良かったね。
「部屋で大人しくしてるわ。
ばーちゃんの中には、俺が見える人が紛れてるかもしれないし。
大体の霊媒師やらイタコってばーちゃんだろ?
なんか、多分。
見られたら困っちゃうもん。
死んでまで悪評立てたら、ご先祖様に申し訳たたねぇって。
うん。」
◆
ああ…苦しい…。
脇腹が痛くなってきた。
「今日も歩くってのに、たらふく朝飯を食うからだよ。」
分かっちゃいるけどさ…なんで朝バイキングってあんなに食べちゃうんだろうね。
ご飯おかわりしちゃったよ。
二杯も。
「あれだな。
時間があるのと、明太子が取り放題なのが良くないよな。
普段一房で我慢してる所を、なんぼ取っても構わないってんなら、もりもり食べてしまうよな。」
いや、僕、明太子取ってないんだけど。
「は?旅館の朝バイキングで明太子取らない奴なんて存在すんの?
朝バイキングなんて、明太子食べ放題の言い換えみたいなもんだろ。」
どんな偏見だよ。
魚卵があんまり好きじゃないんだよね。
僕は別のものを乗っけて食べたよ。
「明太子も行かずに?
そんな変な奴は朝何食うのよ。
言ってみ。
蔑んでやるから。」
卵かけご飯。
しかも良い卵だったんだよ、わざわざ平飼い卵って書いてあったもの。
塩昆布も混ぜちゃった。
「あー、確かに。
卵かけご飯は盲点だったわ。
普段家では逆にやらないもんな。
それに、良い卵かぁ。
気持ちは分かる…が、二杯はいかないだろ、卵かけご飯。
あれを二杯いく奴なんていないって。」
…なんか朝ごはんへの偏見すごくない?
まぁ、二杯目は違う食べ方をしたよ、確かに。
とろろとオクラとマグロをね、乗せてね。
「…なるほどな。
簡易的に爆弾丼を作った訳だ。
…やるじゃない。」
イカも乗せちゃった。
「やるじゃない。」
◆
あ、道の駅。
「寄っていこーぜ。
牛串を食え、牛串を。
それかケバブ。」
デルタのチョイスにはさ、微妙に風情がないよね。
牛串もケバブも日本の旅っぽくないじゃん。
「えー、道の駅といえばじゃん。
意外と食べ比べると面白いんだぜ?
ほら、俺らバンドワゴンで、東西南北いろいろ行ってるからさ、どこにでもあって尚且つ食べ比べられる物を好んでいた訳よ。」
なるほどね。
ご当地なんとかとかあるし、牛が有名な地域とそうじゃない所で食べ比べるのは面白そうだね。
ケバブは?
「ケバブはいつ食っても美味いだろ。」
いや、まぁ、うん。
確かに。
あ。
珍しい、これにするわ。
「あー、こりゃあ…そうだよなぁ、これを選ぶしかないよなぁ。
っていうか、今だにこんなん残ってんだなぁ。
小さい頃に親との旅行で食べた記憶があるようなないような…自販機のうどん。」
…うどん?蕎麦を食べるけど、僕は。
うどんと蕎麦があったら蕎麦でしょ、相場は。
「は?ここはうどんだろ。
場所によっては水が無ければ血で茹でるとまで言われている、つよつよフードだぞ?」
怖…。
いや、ここは蕎麦だね。
天そばにしよっかなー。
立ち食い蕎麦とかの、へろへろの天ぷら好きなんだよねぇ。
「美味いよなぁ、へろへろで玉ねぎしか入ってない謎の天ぷら。
え、どうしたん?苦い顔して。」
間違ってラーメン押しちゃった。
醤油ラーメン…。
「まぁ、ラーメンも美味いと思うよ。」
自販機のラーメンはなんか違うよ…。
食べるけどさ、蕎麦かうどんがよかったなぁ、なんとなく。
いただきまーす。
ずぞぞ。
「どうよ。
自販機のラーメンなんて食ったことないから逆に気になるわ。」
…ラーメンの麺が…ツユに入ってる。
「…そっか。
そうな、ツユ、分けらんないもんな、中で、多分。
和だしのラーメンもあるけど、違うよな、それは…なんか、な。」
なんか…ね。




