行方
「マジで幽霊っているのな。
あ、ここベタ処理?」
デルタ曰く、幽霊の友達もまあまあいるらしいから、少なくないっぽいよ。
あ、先輩、そこはスキャンしたあとグラデーション掛けるんでそのままで。
「あいよ。
そうなんだなぁ。
人間、見えないものってないのと同じだからなぁ。
信じてるって口で言ってるやつだって、実際に幽霊と会えば腰が抜けるほど驚くもんだろ?
おっと、ここは大事なシーンぽいな。
背景のパースは取って下書きは入れたけど、人物置いてから細かく配置変えたいから、アタリじゃなくて下書き描いて貰っていいか?」
おっけー、ありがと。
流石ぁ、僕の漫画の意図をこんなに理解してくれて、ホイホイ家に連れ込まれてくれるのなんて青井先輩ぐらいだよ。
「いかがわしい言い方すんな馬鹿。」
ははは。
確かに背景こみのコマだね。
先に描いちゃうよ。
僕はこの家に来てから散々心霊現象に悩まされた後に声を掛けられたから、そこまで驚かなかったけど、デルタを紹介した人は1人残らず驚いてるよ。
「だろうなぁ。
…あのよ、タケ。
幽霊でも会いたい人って、いる?
ここはアミカケな?
タケの癖に似せとくから、俺が描いちゃうよ?」
アミカケはお願い。
同じ師匠で育ってるから、元々ペンの使い方にてるよね、僕と先輩。
んー、幽霊でも、かー。
この家くれた婆ちゃんかな。
僕は所謂おばあちゃん子ってやつでさ、だからこの家を貰ったんだけどね。
結構無理したんだよ。
ほら、相続って親飛ばして孫へってなると控除やらなんやらの優遇がなくなって税金が重くなるんだけどさ、婆ちゃんと両親の仲もそこまで良くなかったし、親を経由したら売られちゃいそうだったからね。
だから、この家で何となく幸せな日々を送れてるよってのを伝えたいかなぁ。
「おぉ…!
戯れに聞いた話題だったのに、めちゃくちゃいい話聞けちゃって得したわ。
うっし、あらかた描いたからコーヒーでも淹れてくるかな!」
…先輩はさ、やっぱり、旦那さん?
「んー?
まぁ、一目息子に会わせてやりてぇな、とは思うね。
産まれる前に死んじゃったから。
ま、俺もその事故に巻き込まれてはいるんだけどな。
唯一の生き残りってやつさ。」
…前にも少し聞いたことあるね。
事故の話。
思い出させたならゴメンね。
「流石に吹っ切れてるよ。
誰のせいでもないしな、高速道路で真っ暗の中の落石。
こっちは2人死んでるけど、自然を管理しきるのなんてどだい無理だってのは理解もしてるから、恨みもねぇしな。
金もたんまり貰ったしよー。
お陰でアイツが生きてたパターンよりも、息子に贅沢させてやれんじゃねぇのかな?
ははは。
ま、寂しいのは寂しいけどな。」
うん。
そうだよね。
あのさ、僕の親友も、高速道路の落石で死んだんだって。
本人は覚えてないみたいなんだけど、新聞で読んだんだ。
「そうなのか。
俺もよく分からないまま、気がついたら病院だったし、死んだ本人……………。
いや、死んだら覚えてるもなにもないだろ?
普通は。
まぁ、幽霊になって話せるようになったなら別だけどな。」
はは、普通はね。
やっぱり、声で気がついてたんだね、青井先輩。
僕は青井先輩の過去を知ってたから紐付けられたけど、なんでかデュールって、みんな死んだって記事には描いてあったよ。
「あー、あれな。
俺だけ生き残ってもよ、色々と仕方ないだろ?
音楽を続けたってさ、楽しくもないし。
良かったよ、師匠にまた拾ってもらえて。
音楽で少し稼げるようになったときは、バイトのアシスタント業を辞めてたから。
あの事故の後は道路の管理責任者との裁判やら何やらで忙しかったし、お腹に息子がいるのも分かったし、デュールのベーシストとしては死んだことにした方が都合が良かったのさ。
大金を得たシングルマザーの立場ってのは、ほら、厄介だろ?」
俺っ娘にしては弱気じゃん。
「はは。
ま、当時はなぁ。
…恥ずかしいから内緒にしてたんだがよ、この喋り方は旦那の、デュールのドラマーの話し方をマネしてんだよ。
当時は俺っ娘じゃなかったから、弱くても仕方ねぇの。」
はは、そうだったね。
初めて会ったころは普通の女の人っぽい話し方だったっけ。
でもなんか、普通に受け入れてたわ。
喋り方は、近くにいたら感染るもんだよね。
デルタともよく似てるよ。
「あぁ。
アイツもな、よく似てたな、そういえば。
…親友か。
死んでから人との良い繋がりが出来ることなんてあるんだなぁ。
事故の後は流石に、管理責任者を恨んだりはしなくても、神様とやらを恨んだ。
だけど、タケトがこうやって楽しそうに配信してるのを見れたなら、なんというか、救われたよ。
久々に歌声も聴けたし。
ダセー歌だけどな、これは。」
はは、そっか。
一回歌ってみてほしかったんだよ、僕がお願いしたんだ。
ところでさ、知ってた?
デュールの最後の仕事、僕のディーンのOPと劇奏だったって。
「へ?マジで?
あー、じゃああれはタケがくれたってことか、原作漫画。
世間は狭いなぁ。
お前のデビューのタイミングとほぼ同じ時期に一度やめちゃってたからなぁ、俺。
嬉しかったし、お祝いはしたけど、お前とディーンが結びついてなかったわ。
ははは、思い出してきた。
あれな、タケトが気に入って全然回してくれなかったんだよ。
あ、そうだ!
事故の日も読んでて、後で回すって言われてたんだった。
めちゃくちゃ忘れてたわ。
へー、あれがディーンだったのか。
知らなかったわ。
薄らとは聞いてたんだろうけどなぁ。
読んでたら一発でタケの漫画だって分かっただろうに。」
事故もあったし仕方ないよ。
それでさ、モーさんに聞いたんだけど…。
タケトさん…いや、デルタが、その曲のデモを送ってたらしいんだよ、編集部に。
それって、青井先輩が持ってたりしない?
「いや、聴いたこともないね。
アイツがメインで作ってたから、編集部のOKを貰った後にこっちに渡す予定だったんじゃないかな。」
そっか…もしさ、あるとしたら、どこだと思う?
「そりゃタケトの実家とかじゃねぇの?
連絡取ってやろうか?
…あ、いや、違う。
墓だ。」
墓?
「そう、墓。
アイツさ、お前とは当時は知らなかったけど、その仕事への気合いが半端なかったから、デモ音源の続きやりたいかと思って、アイツの骨壷の中に入れたんだよ、最後に。
だから、そこにある。」
墓の中かー…。
朽ちてダメになってたりするかな。
聴きたかったんだけどなぁ。
「いや、多分大丈夫だろ。
腐ってもバンドマン。
デモ音源はガッチリ処理してぶち込んであるから。
…行くのか?墓暴きに?
死ぬほど罰当たりだけどな、それ。」
本人を連れてくから大丈夫でしょ。
バチを当てる人がいないよ。
「寺の坊さんに死ぬほど怒られるぞ?
身内でもないんだから、協力はしてくれないだろ。」
本人を連れてくから大丈夫でしょ。
死んだ本人が渡したいって伝えたなら、何の問題もなくない?
「いやいや、坊さんが幽霊信じる訳ないだろ。」
え?お坊さんなのに?
「いや、まぁ、なんとなく言いたいことはわかるけども…。
多分坊さんが一番幽霊を信じてないと思うぞ?」
え?お坊さんなのに?
「坊さんなのに。」




