魔女のいざない
「ゆーちゃん、この事件は…。」
師匠と青井先輩にストーリーの説明をしていると、頭が整理されてスッキリしていく。
やっぱり誰かに話すのが一番だと感じるよ。
質問も的確で助かるわ。
さすがプロ。
「タケの描くストーリーは意味わかんねーんだけど、絵がうますぎて読めちゃうんだよなぁ。」
先輩?売ってると取っていいかな?喧嘩を。
でも確かに前回の連載中によく言われていた批評だ。
絵の割に話が拙いと。
必要なことは全部描いてると思うんだけどなぁ。
「そんな顔すんなよ。
別に貶してなくって、むしろ褒めてんのよ。
ほら、証拠にお前のことを溺愛している師匠が俺の脛を蹴り折ってない。
あーと…なんて言えばいいかな。
俺とか師匠はあらすじが簡単に書ける漫画しか描けないのよ。
むしろそうしてる所もあるしな。
分かりやすく説明出来る。
不思議なものを、こういう理由で不思議なんですってな。
お前の漫画は、不思議ですねって投げっぱなし。
起こったことの説明もせずにどんどんと話が進む。
ストーリーライターとしてはやっぱり拙いって評価になる。
やっぱさ、読む人がいるから、読みやすくないと離れちゃうだろ?普通は。
だけどお前の絵は説得力があるから、荒唐無稽でも許せて読み進められちゃうんだよって話ね。」
あらすじか…単行本出した時とか今回の再連載にあわせて、モーさんに頼まれたりするけど…苦手だなぁ、あらすじ。
だってさ、勝手に動き回るじゃん。
アイツら。
僕が思い描いた様には生きてってくんないよ。
「ゆーちゃんはそういうタイプの作家なんだねぇ。
キャラが勝手に動くと。
私は…ほら、これ。」
なにこれ、ノート?
あー…小学生の頃に女子が書いてって持って来たのを覚えてるわ。
プロフィール帳っていうんだっけ。
「そ。
人も世界も舞台も地理も言語も、全部決めてから描くのさ、私は。
じゃないと上手い事いかないんだよ。」
へー。
不思議だね。
「なんでよ。
ぼんやりしたまま書く方がむじぃだろ。
俺は描きたいことを決めて、それ必要な人物を配置していく感じだなぁ。
ほら、探偵が壁に貼る相関図みたいなやつ。
あんな感じのものを作んのよ。
だから師匠に近いところはあるかな。
師匠はキャラクター重視、俺は出来事重視って感じで偏りはあるけども。」
えー、僕にはその描き方、絶対できない。
だってさぁ、自分が住んでるこの世のこともよく知らないのに、ディーンの世界の事だってよく分からないって。
「そんなんで良く描き始められるな。
本人もよくわかってないから、読者もよくわからねぇんじゃねぇの?」
本人もって…。
じゃあ聞くけど、こう、普通に会話してさ、自分の思いを何パーセントぐらい相手に伝えられてる?
話すのが上手い人だって半分も伝われば上出来じゃない?
大体の人は三分の一も伝わらないよ。
伝わってたらこの世に離婚も別れも存在しないって。
「シャムシェイドか。」
シャムシェイド?
えーと、だからさ、自分のことですらそうなのに、作中のキャラクターが考えてる事なんて分からないに決まってんじゃん。
「随分と生身を相手にしてる様な感覚で見てるんだね。
アンタが創造主で、ディーンは被創造者の創作物だろう?」
そんな事言われても…。
青井先輩は息子さん居るけど、彼の事全部わかるの?
「わからねぇけども…。」
そうじゃん。
一緒じゃん。
「じゃあ、ゆーちゃんは何からストーリーを着想してるんだい?
その言い方だと、キャラクターからでも世界観からでもないんだろう?」
ちょっと意味がわからない質問かも。
全部だよ。
ぽんって、世界が出てくる感じで、僕はそれを観察してる。
面白そうな出来事が起こりそうな人を主人公にしてるに過ぎないかな。
「そっちの方が意味わからねぇわ。」
「わからないねぇ。」
えー、全部理解することなんて出来ないって。
広大な世界の仕組みなんて、僕は知らないよ。
「神様がそう言ってたら、めっちゃ不安になるわ、俺。」
◆
おかえり、ばーちゃんとこ行って来たんだっけ。
あれ、珍しくお土産がないね。
「毎回なんか買ってくる訳じゃないよ。
あ、師匠がさ、次はデルタも呼べって。
貸しがあるからこき使ってやるんだって。」
いやいや、お礼はしたいけどよ、幽霊は行けねぇって。
結構遠いんだろ?
「説明はめんどくさいだろうけど、師匠はオカルト方面信じてる方だからイケるよ。
それに意外と近いよ?5駅ぐらいなんだから。
歩いては行けないけど、乗り物に乗ったらすぐだね。」
…まだギャップがあったか。
信じてもらえるかはいいのよ、別に。
そんなの人それぞれだって受け入れてるから。
でもあのさ、俺、幽霊よ?
「うん?うん。
切符買わないで乗れるじゃん。
あ、キセル行為に抵抗あるって事?」
んや、死んでんだから元々運賃いらないんじゃねぇの?
定義されてないからわかんねぇけど。
そんなんじゃなくってさ、俺、透けてんのよ。
壁とかスルッと抜けれる訳。
「そうなんだ。
確かにそういうイメージはあるね。
どういう感覚なんだろう、体験してみたい気持ちは少しあるなぁ。」
別になんて事ないよ。
水に入るのと変わらないんじゃない?
んでさ、透けたくて透けてる訳じゃないから、コントロール出来るもんでもないんよ。
「そうなんだ。
それと遠いところに行けないのに何の繋がりがあるの?」
取り残されるだろ。
「ん?」
例えば、電車に乗るわな。
「うん。」
その電車が進むわな。
「うん。」
俺はその場に残るよな。
悲しいぜぇ?スーっと進む乗り物のテールランプを見送るのは。
「あ、そういうことね。
電車に乗ってる様に見えて、実際はどこも電車に触れてはいないのか、透けてるから。」
そういうことだな。
乗った雰囲気は出せるけど、いざ物体が動くとそれに合わせて慣性が働く訳じゃないのよ。
「あー、だから遠くはちょっとって話ね。
乗り物が使えないと不便だね。」
そういう事。
ちなみに移動スピードも普段は徒歩と変わらないし、急いでも走るのと変わらないから。
「なら行けんじゃん?
陸上短距離の世界記録は40キロ以上出てるらしいよ?
幽霊だから疲れないデルタはそのスピードを維持したまま走り続けられるじゃん。
もうそんなの信号に捕まることのある車よりも、実は速く移動出来るんじゃない?」
幽霊に夢見すぎ。
疲れるから、普通に。
人間は体力だけど、俺らは精神力みたいなのを消費してるから。
多分。
「多分?」
多分としか言いようがねぇよ。
仕組みが分からないんだから。
多分、生きてる時の感覚に引っ張られるのはそういう体力的な常識もそうなんだろうなぁ。
これぐらい走ったら疲れるはず、とかさ。
「そうなんだ。
ちょっと理解出来たかも。
…でもさ、この5駅ぐらいなら歩けるんじゃない?
普通に。
時間はかかるかもしれないけど。
なんなら遠くにだって行けるじゃん。
江戸時代は参勤交代とかあって、東北から江戸に向かって徒歩で移動してたんだよ。
甘えだよ。」
甘えね…タケやんはまだ低いわ。
「何が?」
解像度が、幽霊への。
あのな、俺らは終わりなんだよ、もし方向ミスって移動したら詰むの。
迷子になったら、二度と戻って来られないかもしれないんだから。
「なんで?
条件は僕らと同じだろ?」
タケやんは道に迷ったらどうすんの?
「地図アプリを開いたり。
あと、青い標識を目印にしたり…かな。
駅とかだと駅員さんに聞くけど。」
な?
ケータイは持てないだろ?
迷った先に未練があって死んだ奴が居るとは限らないから、同じ幽霊には聞けないかもしれない。
もし霊感バリバリの駅員さんとか交番のお巡りさんが居たら聞けるけど、可能性は低い。
「看板標識は?
それは見られるじゃん。」
当然看板は…見方よく分からないし…。
「それはデルタの問題…。」
方向音痴なんだ…俺。
死んでからそれが大問題だって気がついたんよ、俺。
「あはは、確かに。
残りは…勘?
当てにしない方がいいね。
辿り着けないまま永遠に彷徨うことになるかも。」
そうなったら悪霊になるわ、俺、多分。
迷子の地縛霊とか、自業自得で未練残ってる感あって可哀想さ増すわ。
僕はタケやんと先輩の間のややタケやんよりです。
みなさんはどうですか。
なにから作り始めますか?




