気を逃すと悲劇か喜劇になる
「おかえり。
ネームと打ち合わせ順調?
なにそれ、お土産?「おかえり。
ネームと打ち合わせ順調?
なにそれ、お土産?
電気屋行くなんて珍しいね。
大体通販で終わらせがちなのに。」
うん。
使い心地確かめてから買いたいタイプの買い物だったんだよ。
ドライヤーとかは結局電気屋で見ても髪をべちゃべちゃにして行くわけに行かないからさ、別になんとなく良さそうな物で構わないんだけど。
「そうなぁ。
電気屋で真の使い心地知れる物って意外とすくないよなぁ。
んで、何買ってきたの?」
ん?左手デバイス。
「………………あー、そう!
そうなんだ、アレだろ?絵を描く時、それに昨日の切り替えとかをギュッとして、使用感よくするやつだろ?」
よく知ってるね。
絵以外でも使うの?
音楽制作とか?
使いたいなら使っても良いよ。
「タケやんって、シンプルにパッドと液タブしか使ってなかったから、そういうの知らないと思ってたよ。」
え?あはは。
あんまり使ってこなかったかなぁ、こういう便利アイテム。
元々アナログで描いてたから、手で画面を押さえないとなんかしっくり来なくて。
でもこれから月刊連載始めるからね、効率よく出来るところはそうしないと。
余暇があった方が作品良くなるタイプだし、僕。
グッズとか広告とかも、出来れば自分で描きたいでしょ?
その方が読者も喜ぶだろうからさ。
「作家の鑑や…。
あのさ、タケやん、言いにくいんだけど…生やせないかな、もう一本?」
なに?
庭のびわの木のこと?
「んーん、左手。」
…ん?
え?ファントムジョーク?
もしかして幽霊って手を増やしたり自由自在なの?
「そんな訳ないじゃん。
普通に人の形してるよ、少なくとも俺が出会ってきた幽霊は。」
…あ、記憶喪失だから覚えてないのか!
あのね、デルタ。
生きてる人間も、腕を増やしたりは出来ないんだよ。
「…知ってるよ。
願望が漏れた…。」
人の腕を増やしたい願望なんて、ショッカーくらいしか持ってないでしょ。
なにそれ。
そういうフェチ?
ギャル好きなだけじゃなくて、多腕フェチなん?
罪深くない?
癖が。
「ちげぇよ…。
ギャル好きは違くないけど。
玄関の謎にデカい靴棚の、一番上の段のエアフォースワンの箱の中…見てみ。」
…なぞなぞ?
いや、デルタ物に触れないじゃん。
そんなところ、僕ですら引越し以来触ってな…。
…なにこれ。
「…俺さ…。
あ、やっぱり言いたくない。」
どこでナイーブさ発揮してんの。
あ、左手デバイスじゃん!
「想像通りだよ。
初収益でタケやんになんかプレゼントしたくて…。
幽霊友達、通称バケトモに聞いたり、ばーちゃんに聞いたりして選んだんだ。」
…バケトモ?
プレゼントの被りで落ち込んでると思ったら、意外と余裕あんなコイツ。
何その造語…腹立つな。
いやでも、そっかぁ、嬉しいよ。
なんか…ごめんな?
ん?いや、足りないよな。
これ五万くらいしたもん。
なんで直接絵を描く道具でもないのにそんなすんのって思ったもん。
結局かったけども。
結局買ってきたから、値段知ってるっつーの。
どうやって工面したん?
まさかバイトなんて出来ないだろうし。
「ばーちゃんに借りた。」
おぅ…勇者。
師匠、そういう金の貸し借りとか絶対嫌うのに、よくお願い出来たね。
「いやいや、俺なりに気を遣ったのよ?
モーさんに借りたりも出来たんだけど、弟子の再出発、ばーちゃんも応援したいかなって。
…あ、やべ。
どうやってプレゼント渡そうか迷ってる間に二週間ぐらい経ってるじゃん。
サプライズが終わったら、タケやんを挨拶に来させろって言われてたんだった。」
…マジで?
それが一番のサプライズなんだけど。
ちょっと今から…は、時間も時間だし、明日にでも行ってくるわ…。
デルタ、余計なこと言うなよ?
「俺が?
言う訳ないじゃん。
余計なことなんて。
その二つ目の左手デバイス、どうすんの?
よく見たら完全におんなじものじゃん。
あれ、ばーちゃんは珍しい色が出てたからそれにしたって言ってたのに、よく手に入ったね。」
そうなの?
入荷直後とかだったのかな。
嬉しかったのは本当だからさ、デルタ達がプレゼントしてくれた方を使うよ、折角だし。
「そういってくれると俺も嬉しいし、ばーちゃんも喜ぶよ。
けどさ。」
ん?
「どっちが俺たちがあげた方か、分かる?
見た目も中身も同じすぎてさ、タケやんが左に置いたのがプレゼントなのか買ってきた方なのかさっぱり分かんないんだけど。」
いや、そんなの分かるって。
えーと…?
…うん、こっち、左側の方…に…間違いない…はず…。
絶対…に。
「そんなしどろもどろな絶対にってセリフ、俺は初めて聞きました。」
◆
「なんだいアンタ。
やっと顔出しに来たよ、薄情な弟子だね。
そんなんだとモテないだろ、ゆーちゃん。」
ぐっ…!
挨拶の返す刀が鋭すぎるよ師匠。
モテるもモテないも、僕らみたいなインドアで出会いもない仕事は、運命を待つしかないじゃないか。
「アンタの相棒のデルタはモテそうだけどね。
アンタの為に、わざわざ私に連絡するぐらいの気概もあるし、その後もちょくちょくマメに連絡はくれるし。」
へぇ…。
そういやデルタ、バケトモだかなんだかが居るって言ってたもんなぁ。
自分のチャンネルのコメントにも結構返信してるし、あいつってマメなのか。
「ところで何の用で来たんだい。
アンタがお礼を言うだけの為に来るとは思えないから、なんか魂胆があんだろ?」
礼だけ言いに来たっていいだろ。
いやさ、見てもらおうかと思って。
ほら、やっぱ柘榴さんが師匠だろ、僕の。
「お、マジで復帰すんだね、漫画家。
いいよぉ、厳しく見てやろうじゃないか。
弾け飛び散っても知らないよ。」
お手柔らかに。
ほい、このタブレットに入ってるから。
「ふーん、ほぼ本原稿だね。」
師匠の読むスピードに、初めて出版社に原稿を持ち込んだ日のことを思い出した。
マジでちゃんと読んでる?
それをこっちは何日も何日もかけて一生懸命に描いたんだけど。
親戚だから適当に流し見してんじゃねぇの、この性別不明者は。
そう思ったのを覚えている。
「ふぅん。」
でた。
「ふぅん」だ。
師匠の「ふぅん」は、怖い。
僕が持ち込み前に何回これを聞いたか分からない。
私はこの作品に不満がありますよ。
そういう時に師匠はこう言うのだ。
本当にたまに、「ま、良いんじゃないかい」と言うこともあるが、そんなのは本当に稀で、先輩アシスタントの青井さんは、この「ふぅん」のことを緑保留と呼んでいた。
意味はわからないけど。
出ちゃったかぁ。
仕方ないけどね。
大分ブランクがあった後なのに満ち溢れたやる気をぶつけた、冷静な頭だったとはとても言えない状況で描いたものなんだから。
「アンタさ…。」
おっと、「アンタさ…」まで付いてきたか。
これは完全にこき下ろされるパターンだ。
青井先輩は緑保留からの通常カットインって呼んでたなぁ。
意味は分からないけど。
僕はブランクの分ずっと頑張り続けている新人よりも劣っている自覚があるから、もともとここでダメ出しされる為に師匠に見せたんだ。
それを活かして作品を良くする。
なんでも言ってくれ!
厳しく…かつ、僕の心が折れない程度に…的確に…かつ、良いところも言及しながら!
「アンタさ、こんなに描けるのに、なんでフラフラしてたんだい。
気に入らないねぇ。
今後の展開も考えてんだろ。
ちょっと聞かせておくれ。
青井、ちょっとみんなの分、ケーキと飲み物買って来てくれないかい?」
え、褒められた…よね。
しかもケーキ!
これは先輩に言わせたら…。
「良かったな、タケ、復活演出じゃん。」
青井先輩はそういって買い出しへと出掛けていった。
相変わらず意味は分からない。
僕のデビューの時に一番喜んでくれた先輩アシスタントの青井先輩。
この人が文句を言わずに買い出しに行くのは機嫌がいい証拠なのだ。
帰って来たら2人に展開を聞いてもらおう。
電気屋行くなんて珍しいね。
大体通販で終わらせがちなのに。」
うん。
使い心地確かめてから買いたいタイプの買い物だったんだよ。
ドライヤーとかは結局電気屋で見ても髪をべちゃべちゃにして行くわけに行かないからさ、別になんとなく良さそうな物で構わないんだけど。
「そうなぁ。
電気屋で真の使い心地知れる物って意外とすくないよなぁ。
んで、何買ってきたの?」
ん?左手デバイス。
「………………あー、そう!
そうなんだ、アレだろ?絵を描く時、それに昨日の切り替えとかをギュッとして、使用感よくするやつだろ?」
よく知ってるね。
絵以外でも使うの?
音楽制作とか?
使いたいなら使っても良いよ。
「タケやんって、シンプルにパッドと液タブしか使ってなかったから、そういうの知らないと思ってたよ。」
え?あはは。
あんまり使ってこなかったかなぁ、こういう便利アイテム。
元々アナログで描いてたから、手で画面を押さえないとなんかしっくり来なくて。
でもこれから月刊連載始めるからね、効率よく出来るところはそうしないと。
余暇があった方が作品良くなるタイプだし、僕。
グッズとか広告とかも、出来れば自分で描きたいでしょ?
その方が読者も喜ぶだろうからさ。
「作家の鑑や…。
あのさ、タケやん、言いにくいんだけど…生やせないかな、もう一本?」
なに?
庭のびわの木のこと?
「んーん、左手。」
…ん?
え?ファントムジョーク?
もしかして幽霊って手を増やしたり自由自在なの?
「そんな訳ないじゃん。
普通に人の形してるよ、少なくとも俺が出会ってきた幽霊は。」
…あ、記憶喪失だから覚えてないのか!
あのね、デルタ。
生きてる人間も、腕を増やしたりは出来ないんだよ。
「…知ってるよ。
願望が漏れた…。」
人の腕を増やしたい願望なんて、ショッカーくらいしか持ってないでしょ。
なにそれ。
そういうフェチ?
ギャル好きなだけじゃなくて、多腕フェチなん?
罪深くない?
癖が。
「ちげぇよ…。
ギャル好きは違くないけど。
玄関の謎にデカい靴棚の、一番上の段のエアフォースワンの箱の中…見てみ。」
…なぞなぞ?
いや、デルタ物に触れないじゃん。
そんなところ、僕ですら引越し以来触ってな…。
…なにこれ。
「…俺さ…。
あ、やっぱり言いたくない。」
どこでナイーブさ発揮してんの。
あ、左手デバイスじゃん!
「想像通りだよ。
初収益でタケやんになんかプレゼントしたくて…。
幽霊友達、通称バケトモに聞いたり、ばーちゃんに聞いたりして選んだんだ。」
…バケトモ?
プレゼントの被りで落ち込んでると思ったら、意外と余裕あんなコイツ。
何その造語…腹立つな。
いやでも、そっかぁ、嬉しいよ。
なんか…ごめんな?
ん?いや、足りないよな。
これ五万くらいしたもん。
なんで直接絵を描く道具でもないのにそんなすんのって思ったもん。
結局かったけども。
結局買ってきたから、値段知ってるっつーの。
どうやって工面したん?
まさかバイトなんて出来ないだろうし。
「ばーちゃんに借りた。」
おぅ…勇者。
師匠、そういう金の貸し借りとか絶対嫌うのに、よくお願い出来たね。
「いやいや、俺なりに気を遣ったのよ?
モーさんに借りたりも出来たんだけど、弟子の再出発、ばーちゃんも応援したいかなって。
…あ、やべ。
どうやってプレゼント渡そうか迷ってる間に二週間ぐらい経ってるじゃん。
サプライズが終わったら、タケやんを挨拶に来させろって言われてたんだった。」
…マジで?
それが一番のサプライズなんだけど。
ちょっと今から…は、時間も時間だし、明日にでも行ってくるわ…。
デルタ、余計なこと言うなよ?
「俺が?
言う訳ないじゃん。
余計なことなんて。
その二つ目の左手デバイス、どうすんの?
よく見たら完全におんなじものじゃん。
あれ、ばーちゃんは珍しい色が出てたからそれにしたって言ってたのに、よく手に入ったね。」
そうなの?
入荷直後とかだったのかな。
嬉しかったのは本当だからさ、デルタ達がプレゼントしてくれた方を使うよ、折角だし。
「そういってくれると俺も嬉しいし、ばーちゃんも喜ぶよ。
けどさ。」
ん?
「どっちが俺たちがあげた方か、分かる?
見た目も中身も同じすぎてさ、タケやんが左に置いたのがプレゼントなのか買ってきた方なのかさっぱり分かんないんだけど。」
いや、そんなの分かるって。
えーと…?
…うん、こっち、左側の方…に…間違いない…はず…。
絶対…に。
「そんなしどろもどろな絶対にってセリフ、俺は初めて聞きました。」
◆
「なんだいアンタ。
やっと顔出しに来たよ、薄情な弟子だね。
そんなんだとモテないだろ、ゆーちゃん。」
ぐっ…!
挨拶の返す刀が鋭すぎるよ師匠。
モテるもモテないも、僕らみたいなインドアで出会いもない仕事は、運命を待つしかないじゃないか。
「アンタの相棒のデルタはモテそうだけどね。
アンタの為に、わざわざ私に連絡するぐらいの気概もあるし、その後もちょくちょくマメに連絡はくれるし。」
へぇ…。
そういやデルタ、バケトモだかなんだかが居るって言ってたもんなぁ。
自分のチャンネルのコメントにも結構返信してるし、あいつってマメなのか。
「ところで何の用で来たんだい。
アンタがお礼を言うだけの為に来るとは思えないから、なんか魂胆があんだろ?」
礼だけ言いに来たっていいだろ。
いやさ、見てもらおうかと思って。
ほら、やっぱ柘榴さんが師匠だろ、僕の。
「お、マジで復帰すんだね、漫画家。
いいよぉ、厳しく見てやろうじゃないか。
弾け飛び散っても知らないよ。」
お手柔らかに。
ほい、このタブレットに入ってるから。
「ふーん、ほぼ本原稿だね。」
師匠の読むスピードに、初めて出版社に原稿を持ち込んだ日のことを思い出した。
マジでちゃんと読んでる?
それをこっちは何日も何日もかけて一生懸命に描いたんだけど。
親戚だから適当に流し見してんじゃねぇの、この性別不明者は。
そう思ったのを覚えている。
「ふぅん。」
でた。
「ふぅん」だ。
師匠の「ふぅん」は、怖い。
僕が持ち込み前に何回これを聞いたか分からない。
私はこの作品に不満がありますよ。
そう言う時に師匠はこう言うのだ。
本当にたまに、「ま、良いんじゃないかい」と言うこともあるが、そんなのは本当に稀で、先輩アシスタントの青井さんは、この「ふぅん」緑保留と呼んでいた。
意味はわからないけど。
出ちゃったかぁ。
仕方ないけどね。
大分ブランクがあった後なのに満ち溢れたやる気をぶつけた、冷静な頭だったとはとても言えない状況で描いたものなんだから。
「アンタさ…。」
おっと、「アンタさ…」まで付いてきたか。
これは完全にこき下ろされるパターンだ。
青井先輩は緑保留からの通常カットインって呼んでたなぁ。
意味は分からないけど。
僕はブランクの分ずっと頑張り続けている新人よりも劣っている自覚があるから、もともとここでダメ出しされる為に師匠に見せたんだ。
それを活かして作品を良くする。
なんでも言ってくれ!
厳しく…かつ、僕の心が折れない程度に…的確に…かつ、良いところも言及しながら!
「アンタさ、こんなに描けるのに、なんでフラフラしてたんだい。
気に入らないねぇ。
今後の展開も考えてんだろ。
ちょっと聞かせておくれ。
青井、ちょっとみんなの分、ケーキと飲み物買って来てくれないかい?」
え、褒められた…よね。
しかもケーキ!
これは先輩に言わせたら…。
「良かったな、タケ、復活演出じゃん。」
青井先輩はそういって買い出しへと出掛けていった。
相変わらず意味は分からない。
僕のデビューの時に一番喜んでくれた先輩アシスタントの青井先輩。
この人が文句を言わずに買い出しに行くのは機嫌がいい証拠なのだ。
帰って来たら2人に展開を聞いてもらおう。
先輩の言っていることが、タケやん同様分からない貴方は、どうぞそのままでいて下さい。




