ギタリストカット
「どうしたんそれ。」
んー?これ?
古道具屋に寄ったら三千円で売ってたから買ってきた。
Gibsonってさ、有名なギターメーカーなんでしょ?
「Gibsonはな。
それ、Gibsuhじゃん。
パチモンのギブシュー。
まだこの世に存在したんだなぁ、パチモンGibson。
ギブシューだけじゃなくって、ティブソンやらゴブリンやら、色々あるらしいけど…。」
偽物なの?
安すぎるから怪しいと思ったんだ。
でもギターはギターでしょ?
引いたら音が出るのは変わりない…んだよね?
音ちいさっ!
偽物だからか、凄くショボい音がするよ!
「…んーとね。
それはエレキギターだからアンプに繋げないと、想像している音は出ないよ。
そのままだと音に広がりのない、気に鉄線が6本カッコよく貼ってあるだけの置き物だから。」
そうなんだ。
道具が足りないのね。
そっかー。
「PCと接続したらいけるけど、どっちにしろ配線やらなんやら必要だからなー。
ところでさ、その小学生ぐらいのギター知識しかないのに、なんで買ってきたのよ、それ。」
いやー、デルタがさ、やっぱ生音が欲しいって言ってたから、だったらデルタに教えてもらって僕が弾けば良いんじゃないかなって思ったんだよ。
そしたら、生音録音出来るでしょ。
「おぉ……二つの気持ちがせめぎ合ってるわ。
やっぱ、友達っていいなって気持ちと、楽器舐めんなよって気持ちが。
いや、うん、嬉しさが勝つかも。
ありがとな、タケやん。」
えへへ。
今軽く調べたらさ、ギターとPCを接続するのに、オーディオインターフェースってのが必要なのね。
これうちにあるよ。
「いや、そんな偶然転がってるもんじゃないだろ。
別の機材と勘違いしてない?」
あるんだって本当に。
ほら、うちはテレビない代わりにPCモニターとプロジェクターで映画とかアニメとかを観るじゃん。
んで、そのプロジェクターがさ、海外製のよくわからない奴買ったせいで、スピーカーとプロジェクターを繋ぐのにオーディオインターフェースも必要だったんだよ。
規格がどうとかで。
電気屋さんのお兄さんに勧められたまま買っただけだけど。
だからあるよ。
ほら、配線ボックスの後ろ見てみて。
「……マジじゃん、あるじゃん。
しかもジャックとシールドで繋ぐタイプだ。
これ、タケやん電器屋に騙されてるだろ。
本格的な音楽オーディオに繋ぐスピーカーと、プロジェクターを無理矢理接続する為にインターフェースが必要になってるみたいだよ。」
どういうこと?
今、日本語で話してた?
「半分くらいはな。
要は、必要以上に買わされてるって話。
まぁ、将来の拡張性とか考えたら悪くないけど、タケやん音質に興味ないから宝の持ち腐れだな。」
分かった。
高いスピーカーとか買えばいいんだろ。
そうしたらあの丁寧で爽やかな営業をしてくれたお兄さんも僕に嘘をついてない事になるし、僕も必要だから買ったことになるんだから!
「なんねぇよ。
あるならPCのソフトでエフェクターの代わりになるようなもあるから、ぽい音はでるよ。」
じゃあ繋げてみよ。
もうPCには繋がってるから、プロジェクター側の線を引っこ抜いてギターに繋げば良いのかな。
そんで…ソフトってデルタが勝手に入れてたこれ?
おっ。
なんか反応してる。
もうこれ弾いたら音出るって事だよね?
「ちょっと弦をペチペチしてみて。
…うん、弾いたら音出るわ。
あ、ちょっと待って。
俺はロックが好きな人だから、こう思ってるって話なんだけど。
よく分からないままギターを買ってきてさ、鏡の前で構えてみたろ?」
…いや、僕は鏡の前で構えたりは…。
「したよな。
いや、全てのギターキッズがやる事だから、恥ずかしい事じゃないよ。
んでその時の誇らしい気持ちが、ロックをやる人のピークなんだと思うんだよ。
そこが最高潮。
あとは維持するか下がるだけ。
んでだ。
今から適当にネックを握って、よく分からないまま弾いてみる一音目。
それがギタリストのピークだ。
タケやんのギタリスト人生の最高の瞬間に立ち会えて嬉しいよ、俺は。」
恥ずかしいよ。
けど、なんとなく分かるよ。
僕も絵を描くから。
よし、じゃあ弾いてみるね。
べぎょ。
…べぎょだって。
「最高だな!タケやん!」
…いや、べぎょって…。
まあ、気分はいいかも。
「そうだよな!
っかー!
やっぱギターはいいよ!
押さえ方も知らないからクソみたいな音しかでてないけども、最高だった!」
あ、やっぱり楽器としてはダメな音だったんだよね。
ちなみに、押さえ方とか教えてくれる?
とりあえず、デルタのチャンネルのオープニングテーマを弾いてみたいんだけども。
「舐めんなよって。
あれ7秒しかないけど、だからこそ変な技巧を駆使してんだから。
基礎からやれ基礎から。」
良いじゃん。
目標があった方がモチベーションに繋がるって。
ちなみにどれぐらい難しいの?
「比べるもんじゃないけど、アンパンマンたいそうの前奏ぐらいの難易度かな。」
こども向けじゃん。
なら楽勝じゃん。
そういう風に作られてるじゃん、普通。
「いや、本気で。
ハーモニクスとチョーキングの後にタッピングだから、メタルの技法をふんだんに使った変態フレーズだから。
ちなみにチャンネルのオープニングの曲も、チョーキングスタート。」
マジで?
ちなみにチョーキングって?
「ギターの弦をグイッと上に持ち上げて、半音とか一音ズラす奏法。
上にグイッと。
やってみ。」
…上にグイッと。
痛い!指が千切れる!
あってる?
これ。
「あってるけど、一音チョーキングだから上げ幅足りない。
もう少し上げて。」
無理!痛いって!
血が出そう!
あ!出てる!切れてるよ!指が!
僕もキレそう!
理不尽な怪我にキレそう!
「そういうもんなんだよ、慣れるまでは。
ちなみアンパンマンたいそうは、そのチョーキングを3連でかましてるから。」
なんで幼児向けの曲でそんなことを…。
初めて触れる音楽に何仕込んでんだよ。
「小学生向けの雑誌で、ハードボイルド探偵漫画連載してた男が言って良いセリフじゃないけどな。」
こんな痛いなんて、ギターを床に叩きつける人の気持ち分かるわ。
「そんな理由で叩きつける訳じゃないだろうけどな。」




