憑依
「ちょっと試してみたいんだけど、スッと僕を通り抜けてみてくんない?」
…スッと?
「うん?うん、スッと。
あれ、幽霊的には人を通り抜ける時、違う感じ?
フワって感じ?」
やー…積極的に人を通ることねぇもん。
やっぱり元々人だからさ、人を避けずに通れても、やっぱ避けちゃうっていうか。
そういうもんじゃん?
「そうなの?
そっか…じゃあ逆に可能性あるね。
ほら、スッと通り抜けてみて。」
話が見えねぇな。
なんか嫌なんだよ、人に重なるのって。
なんつーかさ、あるじゃん?パーソナルスペースが。
タケやんを通り抜けて何になるってのよ。
「憑依出来るかなって。
よくあるでしょ?そういうの。
僕の身体に入って、デルタが生身で動けたりしたら楽しそうじゃん。」
よくあるけど…。
身体乗っ取り始めたらいよいよ悪霊認定だろ。
京都から陰陽師が出張してきちゃうわ。
「まぁまぁ、いいから、試すだけ試してみよう。
ね、ほら、早く。」
例えタケやんに入れて、俺がタケやんの身体を動かせるようになったとしても、あのキモすぎる虫は取らねぇからな。
「なんで!?
こないだ見失って、ずっと怯えてたのをやっと発見したのに。
ジッとしてる今がチャンスなんだよ!
なんでそんな酷いこと言うの?」
俺だって虫は苦手だし。
「デルタならイケるって!
ほら、身体に入れたら、高いウーバー注文して食べて良いからさ。」
…それはちょっと惹かれるなぁ。
誰が頼むのか分からない、金粉が乗っかった牛肉とウニの寿司とか頼んで良いの?
「いいよ!
あの虫が我が家から居なくなるなら、金に糸目はつけないから!」
そんな身体乗っ取られるリスク背負わないで、業者呼んだ方がいいんじゃね?
「たしかに。
でも一回試してみたいのはあるよ。
夢が広がるじゃん。
こいよ!
何ビビってんだよ!」
ビビるよ。
っていうかさ、タケやんがビビれよ。
俺が入り込んだっきりになる可能性あんだぞ?
虫で人格捨てる覚悟すんなって。
「してないよ。
やー…デルタが自由に物とか触れる日があっても良いと思ったんだよ。
ほら、楽器、弾きたがってたろ?
毎日とは言えないけどさ、月一回くらいは…って。」
タケやん…。
ありがとな。
分かった。
一回だけ試してみっか。
もし身体乗っ取ったままになっても文句いうなよ。
「それは言うよ。
化けてでるって。」
なんでだよ。
じゃあ、タケやんに重なってみるから。
……いくぞ?
「おぉ。
…ん?んー?あ、寒い気がする。」
何もならねぇわ。
「声が近いよ。
いや、一瞬寒くなったけどね、多分。
取り憑くとか無理なのかなぁ。」
俺がそういうタイプの幽霊じゃないんじゃない?
ほら、人に恨みとかなさそうじゃん?いかにも。
「僕は受け入れる気満々だったんだけど、それでもダメなのか。
やっぱりこういうのって修行パートを挟まなきゃ習得できないのかなぁ。
謎の老人に、力の使い方がなっとらんっつって、古寺でやるやつ。」
漫画描き始めたら、脳まで漫画に侵食されるもんなん?
…ま、俺がその気になれなかったんだからってもあるんだろうな。
タケやんには言わないけどさ。
◆
ほんまに今日、あの出不精が出掛けとるんやろな。
あんまりタケにコソコソしたくないんやけど。
「出掛けてるよ。
髪を切りに行くって言ってたから、しばらく帰って来ないって。
まぁ、サプライズプレゼントなんだから、準備はコソコソしないと。
初めてタバコを吸ってみる時みたいにさ。」
それはそうやけども。
罪悪感は感動のスパイスって言うしな。
今考えたけど。
あ!デルタお前、とんでもない人を送り込むなよ!
心臓がピキーンってなったわ。
「え?誰のこと?」
赤沢柘榴…先生様や。
あの魔女…苦手やねん。
新人の頃に担当させてもらってんけど、得体の知れない圧が凄すぎてトラウマやねん。
「そうかな。
優しそうな人だったけど。
確かに話し方は魔女感あるけど、声とか幼い感じだし。
モーさんが必要以上にビビりすぎなんじゃないの?」
そうかもしれんけどやな。
あ、これ、預かりもんや。
「おー、ありがと。
これが左手デバイスか。
たしかに楽器感あるね、すこし。
なんというか、箱の近来感とか。」
そっちは詳しくないから知らんけどそうなん?
でも確かに、楽器の周辺機器とパソコン周りの機械はよくんからんけど無駄に未来感あるよな。
これ、このまま机の上に置いておいたらええんか?
それともどっか隠しておく?
「そうしよっかなぁ。
俺が何にでも触れるなら、駅前のコインロッカーをたらい回してやるのに。
コインロッカーのマトリョーシカみたいに、コインロッカーの鍵をコインロッカーに入れて、またその鍵をコインロッカーに入れてさ。」
そういう大学生みたいなサプライズする系の男なん?
そんなん通用すんの少女漫画で恋愛の義務教育完了したような奴だけやろ。
…だったらタケは楽しみそうやな。
あの子、人生を漫画から学んでるから。
「そうなの?タケやん、漫画家を再開してから漫画脳が活性化されてるけど、そっちが元なんだ。」
そう。
たまに変に暑苦しい友情を口に出したり、突飛な行動取る時があるやろ?
それは漫画から学んだ偏った憧れが具現化してんねん。
しかも古今東西色々読むから、今日日やらんこともやるやん。
心当たりない?
「俺にVtuberを勧めたのだって、そもそも俺の存在を受け入れてるのだって大分突飛だな。
あー、心当たりっていうかさ、俺は死んでるから、今更あんまり嘘ついたり隠し事したりが好きじゃないんだよ。
だからなるべく真っ直ぐ好意とか伝える努力をしてんだけど、タケやんはそういうのを照れながらでも受け取ってくれんのよ。
そういうのは嬉しいけど、なんというか、やっぱり漫画的なドラマチックさじゃん?そういうのって。
古のヤンキー漫画みたいなさ。」
せやなぁ。
ある意味理想が先にあるから、変に傷つくことが多かったみたいなんやけど…デルタ君とは仲良くやってるやん?
だから安心するとこがあるねんな。
「別に自分をパセティックに感じてそうしてる訳じゃないんだけどな。
モーさんは分かると思うけど、俺が来た当初のタケやんは、死んでたようなもんだったって思うんだよ。
自分の道を見失って彷徨うゾンビみたいなね。
だから共感したのかもね。」
じゃあ、あとは努力と勝利やな。
友情はキミが担ってくれ。
ボクはタケが勝てるように手助けする先輩キャラやから。
「何に勝つんだよ。」
過去の自分にやろか。
「それは努力に分類されんじゃね?」




