不詳なふたり
こちらデルタ。
スパイ任務結果を報告する。
「こちらアルファ、了解。」
誰がアルファだ、柘榴ばーちゃん。
俺の名前と、軍の通信を掛けるな勝手に。
「それで、ゆーちゃんは何を使って描いてたの?」
その流れは完璧に観察してきたぜ!
普通…ってのは、漫画の描き方に詳しくないから分からないけど、1から説明したら柘榴ばーちゃんの方がプロだから、いい案を出してくれるだろ。
タケやんはまず、下書をシャーペンでよくあるコピー用紙に書き込む。
そんでそれを、スキャンしてサーバへ。
そこからiPadに引っ張ってきて、アプリで本格的に描き始める。
「へぇ、じゃあ今はデジタル作画なんだ。
ゆーちゃんは描くの早いし、線も綺麗だったから、デジタルに完全移行するのは勿体なく感じるねぇ。
やっぱり、作家性は手描きの方が表出する傾向にあるから。」
そんなもん?
まー、ちょっと分かるけど。
俺もオープニング用に曲作った時、ギターとベースとドラムはせめて、直接演奏したいなって思ったもんなぁ。
内臓音源でかなり近い音は出るんだけど、やっぱり楽器構えて頭に浮かぶ音と、ソフトを前にして机上で考えつく音楽の質は違うもんな。
別にどっちが優れているとかはないんだけども。
おっと、何の話だっけ。
あ、そうそう、そんでな?
多分8割完成ぐらいになったら、今度はまた印刷して、手で描き加えていくのよ。
そこら辺は、俺が見ても何が気に食わなくて描き込み増やしてんだかは俺には分からないけどな。
でも、作業前と後を比べると、確かにカッコよくなってる感じ。
「へぇ。
デジタルオンリーだと、やっぱりソフトに依存した線になったりするから、そこが気に入らないのかもしれないねぇ。」
俺の生楽器を使いたいのとおんなじか。
なんか親近感。
「もうどっちでもいいじゃないか。
デジタル用でもアナログ用でも使うんだろうし、アンタがあげたいものをあげるのが一番さね。」
いや、そこだよ。
作画方法は分かったけど、一体全体なにがどうなって漫画が完成しているのかは全く分からんかった。
あのペンは?
付け替え万年筆みたいな、Gペンってやつ。
あれはこだわりとかなくて、みんな同じやつ使ってんの?
「んや、軸もペン先も、なんだったらインクすらバラバラだね。
なんだったら軸は自作する奴もいるし、普段と違う道具だとストレスが半端じゃないから、それをプレゼントするのはやめた方がいいね。」
そうだよなぁ。
ピックの硬さで音と弾きやすさが変わるみたいなもんだよなぁ。
手書きの時はほぼそのペンしか使ってないから、デジタル関係の方がいいんかね。
「シャーペンとかならそんなにこだわり無い人は多いよ。
選べばそこそこの値段するし、自分じゃ買いにくいからね、アリだとは思うねぇ。」
えー…。
タケやん、シャーペンの下書きなんて10秒くらいで終わるぞ?
あれを作画に入れていいか迷ったぐらい、丸を3つくらい書いて終わりなんだから。
「そういやあの子、ちゃんとした下書はしないタイプだったねぇ。
信じらんないよ。
手書きの時から書く位置の当たりだけつけてサラサラと描き始めちゃうんだから。
魔法かと思うね。」
おお、魔女が魔法について語る珍しいシーンだ。
っていうか、同じプロでも描き方全然違うんだな。
「私は完璧に下書しないと怖くて描けないよ。」
おー。
クラシックとジャズの違いみたいなもんか?
ライブ感重視というかさ、カチッと決めると良くなくなるヤツもいるもんなー。
「あんた音楽好きなんだね。」
あ、そう?
最近触って楽しかったから引っ張られてんのかも。
でもまぁ、好きかな。
「音楽にはないの?
自分ではあんまり買わないけど、便利なもん。」
えぇー…そんなもんあるかな。
いい感じのチューナーとか?
オートチューナーみたいな。
あ。
あるわ。
「アンプシミュレータ?なにそれ。」
いろんな音が一個にまとめられてる機械。
結構遊べるし、わざわざ買う事ないマイナーなエフェクターとかが入ってんのがあんのよ。
「便利じゃん。
何で買わないのよ。」
操作が直感的じゃないし、覚えなきゃいけない事が多いし、俺の神が使ってないから買ってない。
「はー。
絵描きにもあるよ。
あると便利だけど、自分で買うのは後回しにするもの。
最悪無ければ無いで困らないけど、あると楽になるヤツ。」
左手デバイス?なんそれ。
「絵を描くアプリに入ってる機能を、覚えさせる機械。
ここを触るとペンと消しゴムが入れ替えられたり、色調を変えられたり、一個前の作業に戻したり。
安いのだと数千円だけど、プロ仕様だと5万円くらかな。」
予算オーバーやないけ。
まー、追々の候補には入れておこうかなー。
「足りない分は私が出してあげるよっていってんじゃん。
言っとくけど、受け取らなくても次配信始めたらスパチャをぶん投げるだけなんだからね?
素直に先人を頼んな。
年寄り扱いしたら、ちぎり消すけどね。」
強っ。
魔女強っ。
じゃあ素直に頼るよ。
送金するから、差額お願いしていいかな。
あと、品物はモーさんとこに送って欲しいんだけど、大丈夫?
「ややこしいね。
そっか、アンタら同棲してんだっけ。
直接送ったらサプライズになんないか。
その辺の機微はわかるから。
おねぇ様だから。
分かったよ。
じゃあ通話きるよ。
あ、そうだ。
もしなんかあったら、森に言ったら良いのかい?」
そうだね。
モーさんが窓口してくれてるよ。
色々ありがとう、柘榴ばーちゃん。
「あいよ。
ばーちゃんはやめな。
こねくり潰すよ。
じゃ、ゆーちゃんによろしくね。
サプライズ終わった後でいいから。」
ん。
ちゃんとばーちゃんも一味だって伝えておくよ。
◆
なんでやねん。
なんでボクのところに魔女がやってきてん。
とって食われてしまうわ。
圧が凄すぎんねん、サイヤ人かこの人。
オーラがみえんねん。
「孫と息子の為にやってきたよ。
ほら、ご注文の品。
丁度限定カラーが売ってたからそれにしたからね。
足りない分は身体で返してもらうから覚悟しときなって、デルタに伝えときな。」
話を聞いて腑に落ちた。
デルタ君の初任給でタケにプレゼントしようとして赤沢先生に相談したんやって。
そんで左手デバイスをわざわざ買って持ってきてくれたと。
赤沢先生もなんだかんだタケのこと好きやからなぁ。
いきなり編集部にヨソの先生様がやってきて、ボクを呼びつけたから戦々恐々としてたんやけど、まー平和な理由やったわ。
「へらへらすんな森。
ところで、なんで私にゆーちゃんが漫画家復帰するって言わなかった?
捻り切られたいのかい。」
怖…。
言わなかったんやなくって、タケの復帰はまだ確定していないだけやねん。
タケが続き描く気になるかは、まだ確定してへんからな。
勝手に心配する人が増えるだけやし、それがタケの負担になったら困るから、本決まりするまでは誰にも言わんかっただけや。
「アンタの言い分もわかるよ。
ま、寂しいけどね。
ところで、仕事を頼みたいならアンタが窓口って言われたんだけど、そっちの話もして良いかい?」
え?あぁ、全然構いません。
もちろんや。
タケになんか描いて欲しいん?
「私はさっき、足りない分は身体で返してもらうって言ったじゃないか。
ゆーちゃんじゃなくって、デルタの方だよ。
仕事を頼みたいのは。」
あ、慣用句じゃなくて、ホンキでデルタ君に働いて貰う気やったん?
まぁ、ええですわ。
ボクからデルタ君に伝えますよ。
「あ、そう?
じゃあよろしくね。
久しぶりに会えてよかったよ、森。」
あ、はい、ボクも。
…え?内容は?
ねえ、赤沢先生?
…どうしよう、いってしもた。
あの子…デルタ君…身体で支払うったって、身体が無いんやけど…。
なにさすつもりなんやろ。




