幽霊、報酬を得る
「デルタ、相談があるんだけど。」
タケやんからそんなこと言うの珍しいじゃん。
なに?大概の話はイエスと答える男よ、俺は。
「デルタはそんな覚悟で生きてんの?
そんなんじゃなくて、ほら、スパチャの収益化出来たから、それの管理どうしようかなって話よ。
ネットバンクとかならデルタも自由に使えるでしょ?
僕名義だけど作っといたから。
暗証番号とかも設定に必要だったから僕が決めちゃったけど、気になるなら変えて。」
暗証番号ね。
タケやんも把握してなきゃマズいでしょ。
ほら、税とか。
タケやんに乗っかんるんだから。
それに…俺は大してお金が必要じゃないしな。
飲み食いも要らないし。
ま、これから爆売れして何億も稼ぐ様になったら考えるよ。
「そうなったらいよいよ僕に税金がえげつない額掛かってくるから、暗証番号の共有は必要か。」
そうだよ。
どちらにせよ税金の関係でタケやんがデルタのチャンネル収益を把握してなきゃいけないんだから。
「ん、そうね、現実的にね。
最初の収益、3万円くらいあったよ。
初収入くらいは僕へのデザイン料の支払いとかじゃなくってさ、欲しいもの買ったら。」
んー。
そうなぁ。
欲しいものったってなぁ…。
思いついたら言うわ。
「わざわざ僕に言わなくても、気軽にアカウント作れる通販サイトとかなら使ったらいいよ。
あんまり高価な物とか大きな物は相談して。」
うぃー。
◆
初めましての方も、また来てやったぜの方も、どうも、化野デルタです。
こんちわ。
ちょっと今日はあんま盛り上がらんで。
お願い。
[前代未聞すぎるスタート]
んでな、みんなのおかげで初収益化に成功したんよ。
まずはそれのお礼を。
ありがとな、みんな。
つっても広告料とかはまだまだ先の話でさ、スパチャでって話なんだけど。
[そんなめでたい日にスパチャオフで盛り上がるなってか]
[規模の割にスパチャ多いよな、デルたん]
[ちくりんファンが暴れてたからね]
[最近はデルタに悩み事相談したりして、お礼にスパチャ投げてくやつもいる]
ん!それそれ、それよ。
タケやんと一緒に住んでんじゃん、俺。
初収益だからさ、タケやんになんつーか…お礼したいのよ。
こうやってやれてんのもさ、タケやんのお陰だからさ。
内緒にしたいから、あんまり盛り上がってバレるのもアレじゃん。
という訳でなんかおすすめのプレゼントとかない?
[ジュエリーとかでいんじゃね?]
[草]
ジュエリーって…指輪とかってこと?
絵描きが指輪しねぇんじゃないかな。
なんでジュエリー?
[記念日じゃん]
俺のチャンネルの収益化記念をタケやんに渡すのは変だろ。
その場合受け取るべきは流石に俺!
あのさ、日頃のお礼をしたいわけよ、俺は。
なんか…印象に残るけど押し付けがましくない、そしてちょっと変わってて喜んでもらえるものがいいんだよ。
予算は2万くらい。
[とんちかな?]
[リボン買って自分に巻いて差し出せ]
[プレゼントはデルたん]
えー?
普段やらない家事を手伝ったり?
手紙書いたりってこと?
そういうのやるならプレゼントもあげるし、手紙も付けるよ。
両方やったっていいんだし。
物がいいんだよ。
やっぱこういう時は現物あってこそだろ。
[ちくりんって趣味はあるの?]
んー、趣味なー。
でもさ、趣味のものって結構こだわりあるから、他人が選んだものを貰ってもあんまり嬉しくないことが多くない?
[確かに]
[分かるケド、消耗品なら?
例えば釣りが趣味ならルアーとかそういうの]
あー、それはアリか。
消耗品なんていくらあっても困らないから。
[これから始めようと考えてることの道具とか]
おぉ…それだ!
配信で喋るわけにはいかねぇが、これからタケやんは自分の漫画を再開させる。
それに役立つ道具を俺がプレゼントするなんて、なんつーか、ロマンチックでドラマチックじゃないか。
それに決めた!
サンキューみんな。
3人集まれば文殊の知恵っていうもんで、やっぱ人に聞くのって大事だな。
そうと決まれば…。
やっぱ人に聞くしかねぇな。
だって、タケやんはプロじゃん?
プロの仕事道具に素人の知見をいくら集めたって仕方がない。
タケやんが使うに相応しいクオリティ道具に熟知している同じプロフェッショナル。
そんな知り合い、幽霊の俺には…。
いるんだなぁ、それが。
◆
夜中になり、家を抜け出す。
夜型のタケやんとはいえ寝始める丑三つ時。
俺ら怨霊の時間ってわけさ。
なんつって。
怨みも妬みも嫉みもない善良な幽霊なもんで、多分色も白いし、霊感持った人が俺をみても怖がらない事だろ。
じゃあなんでこの世に留まってんのかって話だけども、そんな霊は俺だけじゃない。
チラシに執着してこの世に縛られるおばちゃん幽霊もいれば、古本屋に延々と居続けて、立ち読みする客の後ろにピッタリと憑いて、無限に漫画をタダ読みする幽霊だっているわけよ。
おお、やっぱりここにいると思ったよ。
この辺で24時間開いててる店はここぐらいだから。
久しぶりセンセー。
ちょっと聞きたいことあんだけど。
「なんですかな。
今良いところなんで、ちょろっと待ってて下さい。」
はいはい。
なんか変な漫画読んでるやつに取り憑いてんなぁ。
「こんな漫画を立ち読むヤツなんてそうそういないですからな、貴重なんです。
今をの逃すと次いつ読めるか分からんので。」
そうな。
俺だって最近タケやんの漫画をようやく読めたけどさ、こうやって夜中に立ち読みしてるヤツいないか探した時期もあったもん。
「タケやん?
…漫画に詳しい自負がありますが知らん作家名ですな。」
あー悪い。
タケやんは、竹野内ゆういちっていう漫画家だよ。
そいつの事を聞きにきたんだ。
「竹野内ゆういち。
名探偵ディーン。
あれですな。
小学生向けの漫画誌が、ライバルにメジャーゲームタイトルの漫画を取られまくって迷走してた時に、誰向けか分からない、掲載雑誌を間違えたとしか思えないいくつかの作品の内の一つ。
個人的には好きな作品ですが、マイナーと言えますな。
廃刊のあおりか半端に終わってますが、美麗な絵柄とエキセントリックなストーリーだけで読む価値はある作品かと。
電子版など出てないはずですが、よく読めましたな。」
よく知ってんなぁ。
流石は漫画のセンセー。
「あ、いや、本物の漫画家が知り合いにいるなら、拙者はただの漫画オタク。
あんまり偉そうに語るには心苦しいでござる。」
そんな卑屈にならんくたって。
好きな事に詳しいってのは凄いことだぜ。
「…デルタ氏。
生きてる時に出会いたかった。
語りたい漫画が山ほどありますので。
ところで、何の用事でしたか。」
おぉ、俺さ、最近Vtuber始めたんよ。
分かるかな、Vtuber。
「ええ、勿論。
拙者は漫画喫茶に住み着いているのでネットも見ますから。
はー、ではでは、デルタというハイカラな名前はそのためにつけた名前ということですかな?」
そういうこと。
そうなぁ、名乗れるようになったのも最近だからな。
俺は記憶喪失系幽霊だから、自分の名前覚えてないのよ。
あ、でな!
その竹野内ゆういちが、俺のガワを描いてくれてんのよ。
Vtuber始められたのも、タケやんのおかげ。
だからそのVtuberとしての初収益でお礼をしようと思ってさ。
センセー、漫画よりも漫画家に詳しいだろ?
なんかさー、タケやんの漫画家時代に使ってた道具とかお気に入りのメーカーとか知らない?
「うーむ。
コミックスのあとがきや画集にはそれらしい文言はありませんでしたな。」
あら、アテが外れたか。
画集とかにさ、よく使用道具とか載ってるイメージあんじゃん?
「おお、それはデルタ氏勘違いしてますよ。
竹野内氏の画集は、画集という名前で販売されてはいますが、実のところ書き下ろしたイラストで構成されたトランプなので、そういう情報が入り込む余地がないのですよ。
という訳で拙者は知りませんが、知ってそうな人は知っていますよ。」
へんな画集だしてんな。
知ってそうな人って…漫画オタクで漫画家オタクのセンセーよりもタケやんに詳しい人なんて、それこそ親くらいのもんだろ。
漫画仙人みたいな奴でもいんの?
「漫画仙人。
居るなら会ってみたいものですなぁ。
勿論違いますが、とはいえデルタ氏。
いい勘してますな。
親とはよく言った物で。
漫画家としての親、竹野内氏が元アシスタントをしていた作家先生なら、詳しかろうと思いますよ。」
へぇ。
アシスタント時代なんてあったんだ。
なんて人?
つってもその人に聞くのはむずそうだけどなぁ…。
「赤沢柘榴先生です。
それこそ、ハウトゥーのYouTubeをやってるので、Vtuberとしてならコンタクト取れるのでは?
確かチャンネル名は…ガーネットおねー様の漫画教室。」
イメクラみたいな名前のチャンネルだな…。
ん?ガーネットさん?
その人…俺にスパチャしてくれてるわ。
「マジンガー?」
おお、マジンガー。
風邪ひいて、咳を我慢した瞬間に魔女の一撃を喰らいました
なんなんだ!




