第五話 季節を見る猫
冬
冬の日の工房では、猫が暖炉のそばの、いちばん暖かい窓から外を眺めている。背筋を伸ばし、前足はきちんと揃えている。
外では、老魔法使いと弟子が並んで雪かきをしていた。
吐く息は白く、雪は思ったより重い。
「魔法を使えばいいのに。非効率です」
弟子が、ぶすっとした顔で言う。
老魔法使いは腰を伸ばしながら笑った。
「運動じゃあ、運動。それにの、五感で感じるのも大事な勉強じゃ」
弟子は納得していない様子で雪をどけ続ける。
やがて雪かきが終わり、二人が中に戻ってくるころ。
また、雪が降り始めた。
猫は、落ちてくる雪を、静かに見ていた。
春
桜が咲く頃、工房の前は淡い色に包まれる。
老魔法使いが外に出て、少しだけ立ち止まった。
弟子は魔法書を抱えたまま、桜を見上げた。
「……きれいですね」
それだけ言って、すぐに視線を戻す。
猫は門柱に姿勢よく座り、花びらが落ちてくるのを、じっと見ていた。
通りを歩いてきた人が、舞い落ちる桜に足を止める。
「やぁ、猫も花見ですか」
「うちの猫は、侘び寂びを分かっとるんじゃぁ」
猫の鼻先に一枚、花びらがとまった。
くすぐったそうに、ヒクヒクとひげが動いた。
夏
夕方、工房の窓から、沈みかけの太陽が見える。
深い青の空に浮かぶ雲が、燃えるように赤く染まっていた。
老魔法使いは、薬草を吊るしながら言った。
「今日は、よく焼けるのぅ」
猫は、窓辺のクッションの上に座り、まっすぐに外を見ている。
赤、オレンジ、黄金色。
光がゆっくりと色を変え、空を塗り替えていく。
「眩しくないんですか」
弟子がそう言って、目を細めた。
窓辺に座る猫の影が、作業台の上まで伸びている。
猫は、じっと夕陽を眺め続けた。
沈んでいくものを、見送るように。
秋
風が吹いた。
工房の前に、落ち葉が積もる。
猫は門柱の上から、それをじっと見ていた。
風がもう一度、強く吹く。落ち葉が舞い上がった。
すると――
ばしっ。
猫の前足が、空を切る。
葉が散る。
気づいた時には、猫は地面にいた。
跳ねて、転んで、落ち葉の山にガサガサッと突っ込む猫。
「……あ」
葉が舞い、また舞う。
猫はすっかり、落ち葉の山に埋もれてしまった。
「猫が」
弟子が声を漏らし、
老魔法使いは、肩を揺らした。
「師匠」
「なんじゃ」
「あの猫は、ケットシーですか?」
「さてのぅ」
落ち葉の山の真ん中で、猫がムクッと起き上がって尻尾を振る。
ぱさっ、ぱさん、と乾いた音がした。
「……猫ですね」
「猫じゃなぁ」




