↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老魔法使いのケットシー  作者: まめ まめみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/7

第三話 見守り猫

 レンガで出来た門柱の上で、猫が寝そべっている。


 尻尾をだらりと垂らし、半分ほど目を閉じたまま、庭で魔法の練習をする弟子を見下ろしていた。眠っているようにも見えるが、薄緑色の目は、弟子の動きをしっかりと追いかけていた。


 弟子は庭の真ん中に立ち、胸の前で、大きめのボウルを両手で持つようなポーズをしている。上に向けた手の平からは、小さな光の粒が、ふわり、ふわりと浮かび、目の高さまで上がるとぽつっ、ぽつっと弾けて消える。制御は安定している。高さも範囲も、問題ない。


「その辺りで十分じゃ」

 近くで道具を整えながら、老魔法使いがのんびりと言った。


「はい。現在の出力なら、安全に展開できます」

 弟子はそう答え、もう一度、同じ魔法を繰り返す。


 猫は、尻尾の先を揺らしながら眺めている。


 何度か成功が続き、無表情だった弟子の口元がわずかに緩(ゆる)む。次の魔法は、さっきより少しだけ勢いが増した。光は弧を描き、空へ散る。弟子の頭より少し高い位置で、花火のようにパッと広がった。


 その瞬間、猫は半月状になっていた目をパチッと開いた。


 弟子を見下ろしていた視線が、魔法の光と一緒に空へ。寝そべっていた姿勢から身体を起こし、光の粒を目で追う。


 もう一度、魔法が放たれる。今度はさらに高く、きらきらと散った。猫の視線も、光と一緒に手の平から空へと動く。先ほどより、少しだけ首を伸ばして見上げている。


 弟子は気づかない。

 老魔法使いも、特に何も言わない。

 

 もっと高く、もっと高く――

 

 そのとき。


「ニャオンッ」


 短くハッキリと、ひと鳴き。


 弟子は、はっとして手を止めた。視線を下げて周囲を確認すると、ちょうど通りを歩いていた人影が、門の前に差しかかるところだった。


「……っ」


 弟子は魔法を消し、深く息を吐く。危なかった、と内心で反省する。まだ修行中の身、失敗する恐れもある。

 

「さっきの、空に散る魔法」


 通りすがりの人が、少し弾んだ声で言った。


「花火みたいで、きれいでしたね!」


 老魔法使いは庭を一度だけ見回し、穏やかに答えた。


「そうか。楽しんでもらえたなら、何よりじゃ」


「ええ。いいものを見せてもらいました」


 そう言って、そのまま去っていった。


 弟子は息を整えると、今度は高さを抑えて魔法を展開する。さっきより慎重だ。老魔法使いは、やはり何も言わない。


 門柱の上で、猫は大きくあくびをした。

 それから再び身体を伸ばし、尻尾を垂らす。もう空は見上げない。


 弟子が練習を終えて工房へ戻ったあと、老魔法使いは門の下まで歩いてきた。


「ありがとうなぁ♪」


 そう言って手を伸ばすと、猫はすっと身を引き、門柱の上で向きを変える。


「なんじゃ~、つれないのぉ」


 猫は答えず、丸くなった。


 穏やかな日差しの中、庭にはまた、のんびりとした時間が流れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
や〜ん 全てが のどかでいい感じですよね〜・:*+:+ʕ^ᴥ^ʔ 猫さんがちゃんと役立っていて、でもツンなあたりも猫らしくて良いですよね♩ 今いろいろ大変だったり殺伐としていますから、心和みます。ε…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。