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君のいない灰色と//異世界  作者: シマミ
機奇怪械編
202/205

第190話〜機奇怪械編㊺//両翼と渾名〜


「ーーーーッ!?」


 空への叫びが止み、アレストの顔が下を向く。蟲の顔に悪鬼の様な口と牙、左右対称にない目玉。あらゆる概念を掻き回された、生物としてのバランスを完全に無視したその醜態は、最早この星の生物と呼べる物ではなかった。


「魔力が……」


 先程はかなりの魔力を使って攻撃したが、道夫の中にある魔力は減るどころか、逆にこの身から溢れ出す程に膨れ上がっていた。


『そう。これが結晶本来の力。敵やその攻撃さえも結晶とし己の力に変える。故に半永久的に戦え、そして』


 胸の内から聞こえたクキヴァの声と共に道夫が左手を天へ向けると、辺りに散らばる結晶が手の先に集まり、最後には高層ビル程のサイズを持つ結晶の巨剣へと形を変えた。


『溢れ出す魔力は、放つ魔法を更に先の段階へと導く……!』


「はあぁっ!」


 道夫が手を敵に向けて振り下ろすと、その巨剣はアレストの胴体へ深々と突き刺さった。そして貫いた場所から現れる結晶が黒の鎧を包み込み、その全てを跡形もなく砕け散らせる。


『ミチオ、今!』


「あぁ! 力を!」


 鎧の仲身が遂に露わになり、道夫はすかさず居合いの構えから剣を振るった。放った一閃は幾つもの斬撃となって、アレストの胴体をその空間ごと切り裂いていく。

 上と下に切り裂かれ、細切れとなった肉体は落下を始めるより早く膨張を始めていく。瞬く間にその肉同士は癒着を始め、湧き出した蟲達によってその部分が覆われてしまった。


「キリがない、か」


 道夫は続けて斬撃を飛ばしながら、その手応えを探る。斬撃は敵を容易く切り伏せていくが、倒した端から新しい蟲が減った分を補填してしまう。

 


『ミチオ、先程の一撃で分かったけれど、やはり奴の身体に核となる物は無い。その代わり、鎧が砕けた瞬間、強い本能を上に感じた』


「分かってる。翼を頼むぞ、クリスタル」


『……クリスタルとは、私の名前か?』


「こっちの言葉で結晶って意味だ、まぁ良いだろ?」


 余裕綽々に軽口を放つ道夫へ、今度は夥しい量の分身をアレストがけしかける。空を黒に染め上げる群れに、道夫は結晶の大剣を天へ掲げる。


「芸の無い!」


 大剣の輝きが強さを増して、光り輝くレーザーとなって辺り敵を襲う。分身達は逃げるも避ける事すら出来ず、直撃と共に光となって消滅した。

 その後すかさず道夫は翼の光を強めて一気に空へと飛ぼうとしたその時、一筋の刃が上へ行こうとした道夫の首スレスレを通り過ぎた。


「Giii!!」


「っ、あいつは……!」


 その攻撃の正体は、漆黒の剣を振るうもう一人のミチオだった。彼は強い殺気をそのままに、黒の翼をはためかせながら此方へ急接近してくる。


「こんな時に……!」


 咄嗟に防御しようとする道夫。彼に向けて黒い歪な剣を振り上げるミチオだったが、その刃は道夫の背中にある何かを切っただけであった。


「!?」


 驚くのも束の間、道夫の眉間に彼の指先が触れた。バチっと電気の様な刺激が頭を襲うと、彼が今何を切ったのかを理解した。


「透明な、触手か……? どうりで飛ばしてこない訳だ」


『いや、これはただの透明なんじゃない。もっと根本的に、その存在自体が非常に曖昧みたい……』


 上下左右、あらゆる方位を囲む様に、何本もの触手が二人を取り囲んでいる。そのまま飛んでいたらと思うと、なんともゾッとする話だ。

 それよりも今重要なのは、彼がこうして自分を助けてくれたという事実だ。理由はどうあれ、殺したがっていた相手を助けたのだ。

 あの時の言葉は無意味ではなかった。そんな彼が道夫はただ嬉しかった。


「やっぱり、分かってくれてたんだな。嬉しい」


「……Ki」


「分かってるさ。例え逆でも、きっとそうした。そりゃそうさ、ここにいる二人はどっちも俺なんだから」


 彼は何も言わず応えず、ただ剣先を相手へ向けている。実に分かりやすい照れ隠しだ、と道夫は昔の自分を見る様だった。


「ありがとう『ノワール』」


「……?」


 何も言うつもりもなかったミチオだったが、明らかに自分を指すその単語に、つい道夫の方へ視線を向けてしまった。


「お互いミチオじゃ呼びにくいだろ? 昔のあだ名くれてやるから、手ェ貸してくれ」


 微笑む道夫の顔を見て、彼もといノワールは「分からない」といった顔を見せた。口ではああ言っていたが、何故先程まで殺し合っていたのに、たった一度手を貸しただけでそこまで笑顔を見せられるのか。

 だがそんな悩みも、迫る触手を切り伏せた直後には消え失せていた。分かってしまえばなんてことない、答えは既に彼が言っていたから。

 ノワールは自分の喉に指を一つだけ突き刺すと、改めて道夫の方へと向き直る。ノイズの様な音が喉から聞こえた後、彼は初めて口を開いた。


「……コウカイするなよ」


「はっ、やる後悔上等」


 笑って応える道夫に向かって、無数の触手が迫る。二人はそれに対する様に、互いの刃を重ねながらアレストのいる方向へと切先を向けるのだった。

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