第189話〜機奇怪械編㊹//その翼は結晶に輝く〜
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「あの光は……!」
がら空きの道路を駆けながら、道夫のいるビル前まで辿り着いたアレン一行は、そこから溢れ出す光を見上げていた。
「なによあれ、尋常じゃない魔力が、光に集まってる……! まさかあれも」
「そういうこった。分かってんだろ? 言わなくても。俺たちの希望は、まだ折れちゃいねぇ」
「ミチオ!」
ナナシは逸る気持ちに従い、ビルの外壁を跳ぶ様にして登っていってしまう。クライス達もそれに続いて、それぞれの方法でビルを駆け上がっていった。
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優しい風が、身体を撫でる。その身はもう冷たさとは無縁で、誰かに抱かれる様な温もりに包まれていた。
さながら夢の様な心地だが、身体を巡ってくれる血液の感覚と心臓の鼓動、そしてもう一つ己の中を循環する力が、これは現実である事を道夫に教えてくれていた。
「ミチオ! ミチ……」
ビルの外から、ナナシが飛び上がっては抱きつこうとしたその動きを止める。ふと無意識に後ずさった足が、ガラスの様な何かを踏み割った。
「……ほら、やっぱり来てくれた」
道夫は一番に来てくれた大切な家族に向けて微笑み、ゆっくりと立ち上がる。そんな彼の顔前を、一枚の羽が風に揺られて床に落ちていった。
「……ミチオ、それ……」
翼、と果たして呼んで良い物なのだろうか。どちらかというと生物というより、ロボット物のフィクションで見る様な機械的なそれを、道夫は驚く様子もないまま見ていた。
それ以外にも身体のあちこちから青白い結晶が見え、先程から感じる余りにも膨大な魔力にナナシは自分の胸をこれまた無意識に押さえていた。
「ナナシちゃんはや……すぎ……!」
「おい無事か二人と、も?」
その後続々と仲間達が道夫の所までやって来た。そしてナナシ同様、余りの変貌っぷりに少しの間言葉を失った。
「ミチオ、お前……」
「うん、あの中途半端だった回路が、完全に直ってる。それにその属は、結晶の……?」
「あぁ、俺の大切な人からの、贈り物だ」
道夫は治った左手を強く握ると、身体に生えていた結晶が砕け散る。キラキラと光を反射して漂うそれは、何とも儚い輝きであった。
「行くのかい?」
アレンの問いに道夫は決して目を逸らさず小さく頷くと、己の拳を前に突き出す。それに最初に応えたのは、クライスだった。
「その顔、何かに気付いたって顔だ」
「ここまで色々世話をかけた。でももう、大丈夫だ」
クライスと道夫は互いに拳を突き出したまま、クライスは他の仲間達へ手招きする。
アレンやナナシ達も道夫の前に集まり、道夫は一人一人と目を合わせていく。
「会いには来たが、ここまで来たら言うことはあんまねぇ。勝ってこい道夫、今のお前なら、万に一つも負けはしねぇさ」
「うん、僕も信じる。だから決して迷わないで、ミチオ。その時が来たら、またいつでもその背中を押してあげるから」
アレンは道夫に向けて優しく突き出した。
「私共も、微力ながら」「うんうん! ミチオ君にはしゅじん様諸々助けてもらったから!」
アレンの両隣に添える様に、カーラとレンアの拳が並ぶ。
「……ミチオ」
仲間達に挟まれる様に、ナナシの小さな拳が突き出される。
「いってらっしゃい」
「……あぁ、いってきます。だな」
その言葉と共に、道夫は仲間達と拳を突き合わせる。
「俺一人の身体じゃ、あそこまでが限界だった。だから頼む、みんなの力で俺の背中を押してくれ」
一同が強く頷いてくれるのを見て、道夫は微笑みと共に背を向ける。そして目を閉じて意識を集中させる。頭に浮かぶのは、翼を持った人間が自由に空を飛ぶ、子供じみた妄想。
しかし次の瞬間には、ほんの数センチだが身体は宙に浮いていた。背中の翼が光を噴かし、道夫を中心に風が吹き荒れる。
「すぅ〜……はぁ……」
道夫ら一呼吸置いて身体を前に屈め、唱えた。
「点火」
光が強まり、突風がその場にいた仲間達の目を塞いだ。次に目を開けた時、そこに彼の姿は無く、敵の方へと向かうV字の閃光だけが遥か彼方に映っていた。
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『……』
「あぁ、分かってるよ。だからあんたは、俺の翼になってくれ。後は、俺達がやる」
胸の内から聞こえる声に道夫は言葉を返す。そう言っている内に、アレストのいる場所まで戻ってきていた。
「〜〜〜……!!?」
アレストは未だ叫び続けているが、先程とは明らかに敵意が違った。今度は確実に此方を排除すべき敵だと認識しているのだ。身体から生えた幾つもの触手が、人の認識を超えた速度で道夫の身体を押し潰す様に呑み込んでいく。
一本だけでも街ごと人を消し去れる触手が、何本何本も連なって一つの球体となっていた。
これで終わりと、アレストだけがそう思っていた。そして次の瞬間、異変が起こる。
「!?」
彼を包み込んだ触手から、結晶が次々と生えては広がっていく。それはあっという間に根本まで侵食した所で、危険を察知したアレストは触手を切り離した。
触手がその身から離れた瞬間、それら全てが粉々に砕け散った。細かな結晶が辺りで輝き、ある一点へと集められていく。
「さぁ、この話を終わりにしよう」
結晶が集まる中心には、無傷の道夫が翼を広げて立っていた。




