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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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5/42

5 は?


「おはよう。今日は飲みに行ける?」


 バイトの吉野くんが声をかけてくれた。


「行く行くっ。今日は大丈夫」


 仕事が終わり、2人で居酒屋へと向かうと、早速注文をして乾杯をした。


 あー楽しい。


 凛が家にいないから、気兼ねなく楽しめる。


 勝手に引き出しを開けられることもないし、お金の心配をする必要もない。


 お母さんありがとーっ。


 私に平穏が戻った。


 快適すぎる。


 あの訳のわからない、パピーの相手をしなくていいんだ。


「どうしたの?ニッコニコじゃん」

「ちょっとね、いいことがあって」


 私はお通しの枝豆を食べながらそう答えた。


「なになに?彼氏でもできた?」


 …………。


 ……そもそもいいことなんてないや。元に戻っただけだった。


「違う。今思うと、別にいいことなかった」

「ははっ。なんだそれ」


 この日は、お酒やおつまみを楽しみ、吉野くんとの会話も盛り上がった。

 

 そんな感じで私の穏やかな日常が、10日ほど過ぎた。


 だけどある日……


 仕事から帰宅するとヤツがいた。


 家の目の前に。


 なんで……。


 凛は私を見るなり抱きついてきた。


「僕を置いていくだなんて……」


 凛は怒っていた。


 ツノが出ていた。


「早く鍵開けて」

「なんでここにいるの?」

「早く開けてっ」


 私は仕方なく鍵を開けた。


「僕の家はここなのに」

「違うよ」

「ここなんだよっ」


 なんでよ……。


「どうやってここまで来たの?」

「バスと電車で」


 うそ……。


 そう思ってると母から電話が来た。


 家の中でも、まだひっついている凛を剥がして、外に出ると通話ボタンをスライドした。


「お母さん、これどういうことっ?」

『あらあら。その様子じゃちゃんと、凛くんは帰れたみたいね』


 帰れたみたいって……別にここ、凛の家じゃないし。


「何で凛がここにいるのっ?」

『あの子ねぇ、桃が帰ったって知ったら泣いちゃったの。それからずっと元気がなくて、3日前かな?とうとう夜泣きしちゃったのよ』


 夜泣きって……


『別におぎゃあおぎゃあ泣いてたわけじゃないよ?ママ、夜中にトイレに起きて、凛くんの部屋の前を通ったら、ぐすんぐすん泣いててね』


 子どもか……


『話を聞いたら桃に会いたいって言ってたから、ママ、凛くんにスマホを買ってあげて──』


 は?


 スマホを買い与えただと?そんな義理ないでしょ。


 それからスマホの使い方を教えて、乗換案内のアプリを入れ、マップの使い方も教えて……


 それでか。


 それでここまで来れたんだ。


 余計なことしやがって。


「お母さん、私まだ嫁入り前」

『もう凛くんでいいんじゃない?あんた気が強いから、なかなか彼氏できないでしょ?口も悪いし、性格もよくないし。凛くんならカッコいいし、素直な子だし、ママ鬼好きだし。それに、そもそも桃が拾ったんじゃない』


 はぁ……


「ワンルームなんだよ?ここに2人はキツいって」

『じゃあママが仕送りするから引っ越したら?』


 何でそうなる……?


『とにかく凛くんは桃と一緒にいたいみたい』


 そう言われても……


『あ、今日はパパが帰ってくる日だからまたね。今パパが大好きな天ぷらを揚げてるのっ。ふふっ』


 母はそう言って電話を切った。


 家に戻ると、また凛は私に抱きついた。


「拾ったんだから最後まで面倒みろよ」


 なんで上から目線……。


「僕は父さんからそう教わった。子どもの頃、猫を拾って帰ったら、最後までちゃんと面倒を見るように言われた」


 お前は猫や犬じゃねーだろ。


 あー……もう面倒くさい。


 今日はお店が忙しかった。


 いつも忙しいけど酔っ払い客の相手をして、すごく疲れていた。


 もう……いいや。今日は何も考えたくない。


「ちゃんと仕事するから」

「はいはい。わかったから。今日は疲れたからすぐ寝る。邪魔しないでね」

「わかった」


 凛は本当に静かにしていてくれた。




 また、凛との生活が始まった。




 凛はテレビを見ながら「ねぇモモッ、あれ何?」、「これは何?」と色々聞いてきた。


 うるさいな。


 私はスマホの使い方を教えた。こうすれば色々と調べられるよと。凛はすぐに使いこなしていた。


「あんたさ、人間より力持ちなんだよね?」

「そうだよ?」


 凛はそう言うと、軽々と私をお姫様抱っこした。


 抱っこされてわかった。


 本当に軽々と……という感じだった。


 だったら引っ越し屋さんとか大工さん、鳶職なんかが向いてるんじゃないかと思った。


 明日は休みだし、凛の仕事を探してみるか。


 私はそんなことを思いながら眠りについた。


 寝ていると、違和感を覚えて目を覚ました。カーテンからは光が薄っすらと漏れている。明け方ってところだな。


 私は目線を違和感の場所へ移すと、そこには凛の姿があった。凛は私のベッドに突っ伏して眠っていた。まるで私のことを看病して、うっかり寝ちゃいました……みたいな感じで。もちろん私は、風邪なんてひいてない。


 寂しいのか……?


 それとも……


 そんなことを考えていると、凛が目を覚ました。


「そんなところで何やってんの」

「別に」

「寂しいの?だったら実家に──」

「モモがいるから寂しくない」

「…………私のことが好きなの?」

「……好き……?」


 凛はポカンとしてそう言った。


 はぁ……。

 

 またそれかよ。


 あー……なんだ?


 あれか?


 今まで誰かを好きになったことがないから、私への気持ちがなんなのかわからない……的なやつか?


 私に会いたくて夜泣きしてるくらいだし……。


 もーわけわかんない。


「凛って初恋いつ?」


 とりあえず、人を好きになったことがあるのか確認してみよう。私はそう思い、そんな質問をしてみた。


「んー?10歳の時。同い年のマリア。引っ越しちゃったけどね」


 ……じゃあ好きって気持ちはわかるんだな……。


「凛は私のことが好きなの?」

「なんでそんなことが気になるの?」

「なんでって……」


 凛が私のことが好きなら、一刻も早くここから追い出さないと。


「好きじゃない。これでいい?」


 凛はハッキリと私にそう言った。

 

 “好きじゃない”


 ……なら……いいんだけど……。


 私は話題を変え、凛の仕事の話をした。


「細かいこととか得意?」

「得意」


 じゃあ……大工さんとかいいんじゃない?力仕事だし、きっと細かいこともたくさんするだろうし、何より手に職がつく。


 あー……まだ眠い……


 もうひと眠りしたら、履歴書を買いに……──


「モモ?」


 ……クソ……今、眠れそうだったのに。


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