40 取られる
今日はみんなで私の実家に行く日だ。
ヒロくんと安藤くんの2人に合流すると、早速電車に乗り実家へと向かった。もちろん凛もいる。
家に着くと、母が温かく出迎えてくれた。
「いらっしゃい。どっちがヒロくんで、どっちがナオくん?」
母はそう言った。
“ナオくん”とは安藤くんのことだ。安藤くんの下の名前は直弘だと、事前に伝えていたから母はそう言ったのだろう。
それを聞いたヒロくんは自己紹介をしていた。
「初めまして。吉野裕人です」
安藤くんも続けて挨拶をしていた。
「ママっ、ただいまぁ」
そう言ったのは凛だった。
「凛くん久しぶり。元気にしてた?ずっと会いたかったんだからぁ」
「僕も会いたかったっ」
凛と母は楽しそうに話していた。
そこへ安藤くんが私に近づき、耳元でコソッと話しかけてきた。
「本当に立花さんのお母さんは、凛くんのことを鬼だって知ってるんですか?」
「うん。知ってるよ」
私がそう言うと、安藤くんは「本当に……」と呟きながら、驚いた顔をしていた。
そこへヒロくんが話しかけてきた。
「モモちゃん家って、でかいんだね。すっげ、天井高っ、部屋広っ」
リビングに入ったヒロくんは興奮していた。
「もしかしてモモちゃんちって金持ち?」
「私は金持ちじゃないよ」
「親が金持ちとか羨ましい」
「でも私は金持ちじゃないよ」
帰った時間が昼時だったから、みんなでお昼を食べた。弟の楓も学校が休みだったから一緒に食べた。もちろん楓にも凛が鬼であることを内緒にするように、予め話しておいた。
楓はすぐにヒロくんや安藤くんにも懐いていた。
母はみんなに気遣い、もてなしていた。
「お母さん、妖怪図鑑の話をモモちゃんから聞いたんですけど、見せてもらえませんか?俺そういうの大好きなんで」
ヒロくんは母にそう言っていた。
母はそれを聞くと嬉しそうにしていた。
それから母とヒロくん、安藤くんと凛と楓は楽しそうに妖怪図鑑を見ながら話していた。
私は仕事の疲れが残っていたから2階の自室へと向かった。
ベッドに寝転ぶとすぐに目を閉じた。
あー……疲れ溜まってんな。
安藤くん、大丈夫かな……。
でもさっき、母と楽しそうに話していたし。
家に着いてすぐは緊張していた様子だったけど、お昼を食べ終わる頃には肩の力が抜けたように見えた。
大丈夫だよね……?
本当は私がそばにいないといけないことはわかってるけど、ごはんを食べたら急激に眠くなってしまった。
私はそんなことを考えているうちに、眠りについた。
次に目を覚ますと、目の前には凛がいた。
「……なにしてんの?」
「モモ見てた」
「なんで?」
「見たかったから」
……。
本当にこいつ、成長してんのか?
寝起きのぼーっとした頭でそんなことを思っていたら、凛が私を抱き寄せキスをした。
当たり前のように、それはすぐに深いものになった。
でも……ここ実家。
私は凛の胸を押し返した。
あれ……?
押し返せない。
こういう状況なら、凛はやめてくれると思ってたのに。
「凛、やめて」
唇を離すと、私はそう言った。
「なんで?」
「下にみんないるんだよ?」
「だから?」
次に凛は私の両側に手をつき、覆いかぶさってきた。
「こら」
「……」
ん?
なんか凛の様子が変だ。
少し泣きそうな顔をしてる。
「どうしたの?下で何かあった?」
「……」
凛は何も言わなかった。
その時──
ドアがノックされた。
「凛くん、こっちにいる?」
母の声だ。
「うん、いるよ。でもドア開けないでね。今モモと──」
「なにっ?お母さんっ?」
こいつ、今何を言おうとしたんだよ。
なんだか嫌な予感がして、凛の言葉を遮るように私は母にそう聞いた。
「おやつにケーキがあるから、下りてきて?」
母の声に、凛は私よりも早く返事をした。
「わかったぁ。終わったら行くね」
「あらあら。そういうことね。ふふっ」
……。
は……?
……クソ……。
なんなんだよこいつらは。
凛は“終わったら”としか言ってないのに、母は何か察したようだった。
なんでお母さんも凛も、そんな普通にしていられるの?
ホント変人……。
結局私は、凛に流されてしまった。
その間も、凛はずっと不安そうな顔をしていた。
絶対なんかあったな?
私は乱れた服を直しながら、凛に話を聞いた。
「どうしたの?何かあったんでしょ?」
「僕いつも……」
「なに?」
「……」
「凛?」
「……モモと別れたら、僕ひとりぼっちになっちゃう」
「……別れないよ?」
いきなりなに?
「凛、どうしたの?」
「モモが取られる。モモの家族も取られる」
え?
「ママも楓も、ヒロくんと安藤くんに取られる。
2人ともあっという間にモモの家族と仲良くなった。僕のなのに……モモもママも楓も僕のなのにっ……」
……嫉妬か……。
「凛、大丈夫だよ。私は凛が大好きだよ?みんな仲がいいのはいいことでしょ?取るとかそんなんじゃないよ?」
「……うん……」
私がそう言うと、凛は切ない顔をした。
凛もいろいろと考えてるんだな……。
それで不安になったりして、少し強引になったり、わがままになったりするんだ……。
私の部屋に来たのも、きっとヒロくんたちが私の母と仲良くなったのを見て、不安になったからなんだ。
なんとか凛を励ますと、私たちは1階に下りた。
「ナニしてたの?」
私に近づいたヒロくんは、ニヤニヤとしていた。
「昼寝。私疲れてんの」
「ふーん」
「何?」
「別に?」
ヒロくんはやっぱりニヤニヤとしていた。
それから私の耳元に口を寄せると、コソッとこう言った。
「声、聞こえてたよ?」
私はそんなことはないと思いつつも、驚いてヒロくんの顔を見た。
「ははっ。うっそーん」
このヤロー……。
「……性格悪いね、ヒロくん」
「まぁね」
そう言うヒロくんは、やっぱり楽しそうにしていた。




