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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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38/42

38 リコピンなら知ってる


「モモ……僕、結婚したい」


 また始まった。


 本当にこいつは……。


「まだしない」

「なんで……」

「そんなに急ぐことないじゃん。もっとゆっくりいこうよ」


 私たちはお互いに、素肌を感じながら抱きしめ合っていた。


「今すぐ僕と結婚しろ」

「しない」

「僕と結婚しろ」

「だから今すぐはしないってば」


 凛は苦しいほどに、私のことを抱きしめた。


「……まだしないよ?」

「なんでだよっ」


 なんで……と、言われても……。


 “まだその時ではない”としか言いようがない。


「なんでそんなに結婚したいの?結婚したって、別に今と生活はかわらないんだよ?」

「……だって結婚したら、ずっと一緒にいられるんだろ?」


 そっか。


 凛の中では“結婚”ってそういう意味なのか。


 好きだから結婚するというよりも、結婚すればずっと一緒にって……そう思ってるのか。


「結婚しても、別れることもあるよ?」

「えっ?」


 凛の大きな声が、薄暗い部屋に響いた。


 それから凛は、私の両肩を掴み体を離すと、私の顔を見た。


「なんで?結婚したら、一生一緒にいられるんじゃないの?」

「……離婚することもあるでしょ?」

「リコン?」


 まさか……知らないの?


「リコンってなに?リコピンなら知ってるけど。トマト作ってたから」

「……」


 はぁ……。


 なんで結婚の話をしてる時に、リコピンやトマトの話が出てくんだよ。


 私は凛に説明をした。


 すると凛は、また私のことを強く抱きしめた。


「じゃあ結婚しても、別れることができちゃうの?」

「そうだよ」

「……なんだ……。一生離れられないのかと思ってたのに」


 やだ怖い。


 何そのエグい契約。


 もはや呪いじゃん。


 これで凛の中の結婚熱が、少しでも冷めればいいんだけど……。


 凛は少し拗ねたような顔をしながら私を仰向けにすると、そのまま覆いかぶさり唇を塞いできた。


 次の日、目を覚ますと、お昼に近い時間になっていた。


 あー……体しんど……。


 私はだるい体を無理やり起こした。


 ……。


 テーブルにはおにぎりと卵焼き、ウインナーが置いてあった。


 やっぱり凛は優しいな。


 凛のことは好きだけど……大好きだけど、まだ結婚なんてしたくない。

 

 一時は大人しくなったんだけどな。たまに凛は“結婚”スイッチが入る。


 どうしたもんかな。


 凛と別れる気はない。


 だけど……まだ結婚する気にもなれない。


 これは……私のわがままなのかな……?


 この日は一日中ゆっくりとして過ごした。


 夕方になり、冷蔵庫を確認する。食材はあるな。私はキッチンに立つと、夜ごはんの準備を始めた。


 しばらくすると凛は帰ってきた。


「ただいま……」


 凛の元気がない。


「おかえり」


 どうしたんだろ。


 凛はすぐに私に抱きついた。


「モモ……僕を捨てないで……」

「捨てないよ?なんでそんなこと言うの?」

「僕がわがままだから。いつかって約束したのに、すぐ結婚したくなっちゃうから」


 ちゃんとわかってんだな。


 ……というか……“約束”まではしてないんだけどな。


 まぁ、いいか。


 なんだか今日はこんなに元気がないし、これ以上追い打ちをかけるようなことは言いたくない。


「結婚しても、僕を捨てないでね。リコンしないでね」


 もしかして離婚のことを知って、ショックを受けてんのか?


 そんなの約束できないよ。


 この先、何があるかわからないんだから。


「モモ?」

「そうならないために、お互いのことをよく知ろうって言ってるんだよ?」

「うん。わかった」


 凛は離れると、まだ少し、しょんぼりとした顔をしていた。


 もし凛が犬だったら、たぶん今、耳は伏せているだろう。


「ねぇ、凛」

「なに?」

「ツノじゃなくてさ、犬の耳とか出せないの?」

「は?出せるわけないだろ」


 だよね。


 絶対に凛は、鬼のツノよりも動物の耳の方が似合うのに。


 


 私は時間を作り、安藤くんにヒロくんのことを話してみた。


 凛が鬼だと伝えたけど、ヒロくんは全然怖がることもなく、好意的だったよと。


 誰にも言わない約束もしてくれたから、安藤くんも話してみないかと聞いてみたら、首を横に振った。


「それは立花さんや凛くんが、吉野さんと仲が良いからってだけかもしれませんよ?吉野さん、俺のことをたまにじっと見てるんです。たぶん……俺が立花さんのことを怖がらせちゃったから……。俺は吉野さんに嫌われてます」


 目の前の安藤くんは完全に怯えていた。


 あの時のヒロくん、本当に怖かったもんな。


 でも誤解が解けて、ヒロくんが味方だってわかったら心強いと思う。ヒロくんは面倒見がいいし、きっと相談にも乗ってくれる。


 それにしても……本当に凛とは全然性格が違うな。


 ずっと怯えてるだなんて、すごく疲れるだろうな。


 なんとかしてあげたい。


「今度さ、私の実家に安藤くんも一緒に来てみない?ヒロくんも誘う予定なんだけど」

「……吉野さんも……?」

「そう。それで1日ヒロくんのことを見てみるといいよ。それから私の母が凛とどんなふうに接してるのかも観察してみて?」

「……吉野さんがいるなら、俺はいいです」

「大丈夫だから。ヒロくんいいヤツだよ?それを見て欲しい。それでもやっぱり信用できないってんなら、それでいいからさ」

「……」

「どうかな?」

「……わかりました」


 母ならすぐに安藤くんとも仲良くなるだろう。


 それで安藤くんが少しでも安心してくれたらいいな。


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