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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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36/38

36 かっけぇ


 仕事が終わり、家に帰ると凛がすぐに抱きついてきた。


「おかえりモモっ」

「ただいま」

「今日ね──」


 凛はいつもこんな感じで、“今日の出来事”を話してくれる。


「あ、おかえりのキス」


 いつものように顎を掴まれ、上を向かせられると、凛は軽いキスをした。


 それからまた凛は話の続きをした。


 ひと通り凛の話を聞き終わると、私はヒロくんにメッセージを送った。3人で会うために。


 するとすぐに返事がきた。


 明日はどうかと提案してくれた。


 授業が終わったあと、時間を潰してから店まで来てくれると言っていた。


 本当に優しいな。


 凛もそれでいいと言ってくれた。



 次の日、凛とヒロくんの2人と合流すると、予約しておいた、個室のある居酒屋に向かった。


 畳の個室に案内してもらうと、とりあえず注文を済ませ、それらが揃ったところで私は本題に入った。


「ねぇねぇ。ヒロくんはさ、前に鬼が好きだって言ってたよね?」

「あー、なんかそんなようなこと言ったかも」

「怖いとか思わないの?」

「んー襲われたら怖い。でも意思疎通ができるんでしょ?なんかの動画でそういうの見たよ」


 ヒロくんもあの動画を見たんだ。


「襲われなかったら怖くない?会ってみたい?」

「……これなんの話?俺に何か話したいことがあったん……──もしかして、鬼に会ったことあるの?」


 私は頷いた。


 するとヒロくんの目が輝いた。


「ガチで?ホントに?いいなっ。俺も会いたいっ」


 よかったぁ……。


「会わせてあげるから、このこと誰にも言わないって約束できる?」

「できるっ」

「もし約束破ったら凛と2人でボコボコにするからね」

「大丈夫。約束守る。絶対」


 ……なんでカタコトなんだよ。


 ……。


 別にヒロくん相手なら、私ひとりでもボコボコにできるかも。


 凛と違って人間だし。


 何か武器でも使えば……。


 例えば……


 よく聞く“バールのようなもの”……とかで。


 ……てか、バールのようなものってなんなんだよ。


 今度ホームセンターにでも行ってみるか。


 凛を守るためなら、武器も必要かもしれない。


「今から大きな声出さないでね?」

「来てるの?ここに?」


 ヒロくんはワクワクとしていた。


 大丈夫。


 ヒロくんならきっと大丈夫。


「凛」


 私がそう言うと、ニコニコした凛はツノを出した。


 ヒロくんは凛の姿を見て驚いていた。


「……え……」


 そう呟いたあと、ごくりと生唾を飲んでいた。


「……マジで……」


 ヒロくんは凛を見たまま言葉を失っていた。


「何それ……どうなってんの……?」


 ヒロくんはそう言いながら凛に近づき、ツノを見ていた。


 凛はツノを出したり引っ込めたりを数回繰り返した。


「かっけぇ。まさか凛くんが……」

「正確には鬼と人間のハーフなんだって」

「ハーフ……。ハーフなんているんだ……」


 私たちは小声で会話をしていた。


 凛は嬉しいのか楽しいのかわからないけど、ずっとニコニコとしていた。


「鬼ってね、すごく力持ちなんだよ。知ってた?」

「なんとなく、イメージ的にそんな感じがする」


 私の言ったことを聞いていた凛は、おもむろに立ち上がった。


「ヒロくん立って?」


 凛はそう言うと、立ち上がったヒロくんを片腕で抱きかかえた。


 すご……


「モモもこっち来て」


 凛は私も呼びつけると、もう片方の腕で私を抱きかかえた。


「凛すごいっ」

「ふふん。こんなの楽勝っ」


 すごく得意げな顔をした凛はそう言った。


「すげぇすげぇ。かっけぇっ」


 こんなに興奮してるヒロくんを初めて見た。


 いつもどこかスカしてるから。


 よく笑うけど、普段の表情はなんだか冷め切ってる感じだから、私は密かに驚いていた。


「モモちゃん、いいの拾ったね」

「ははっ。そうかも」


 私はそう言われて、なんだか嬉しかった。


 凛は私たちを下ろすと、「僕すごい?」と聞いてきた。だから私は「すごいよ」と、もう一度伝えた。


 それからみんな席に戻ると、凛は口を開いた。


「でもモモね、僕のこと1回捨てたんだよ?」


 凛が文句を言い出した。


 それから、私が凛を実家に置き去りにしたことを話し始めた。


「ひどいことするな。モモちゃん」

「だって、私ではとても面倒見切れないと思ったんだもん」


 当時は本気でそう思っていた。


 お金もかかったし。


「僕ね、その頃まだバスも電車もひとりで乗れなかったんだよ?」

「うんうん。モモちゃんはひどいヤツだ」


 なんだか話の流れが悪くなってきたぞ。


 私は2人から責められていた。


 それでも当時を懐かしく思い、私は楽しく凛の文句を聞いていた。


「それに、“二度と帰ってくんな”って言われたこともある」

「ははっ。モモちゃん口悪っ」

「笑い事じゃないよヒロくん。僕その時、すごく傷ついたんだから」

「ごめんごめん。でもっ……あははっ。おもしろっ」

「あとね“もう捨てる”とか、僕のこと“いらない”とも言われたっ」


 凛がそう言うと、ヒロくんは大笑いをしていた。


 一体なにがそんなにツボなのかわからなかったけど、楽しそうにしてるからいっか。


「あんたあの時、大泣きしてたもんね」


 私がそう言うと、ヒロくんはさらに笑い出し、目に涙を溜めていた。


 ホント変な人。


「……っ……モモのばかっ。なんでそんなことをヒロくんに言うんだよっ」


 すぐ泣くくせに、こういうことは言われたくないんだな。


 この前、安藤くんとカラオケに行った時だって迷子くらいで泣きながら私に抱きついてきたくせに。


 凛は顔を真っ赤にしながら、拗ねたように怒っていた。


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