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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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33/39

33 打ち明けようかな?


「おはよ」

「おはよー」


 出勤してきた吉野くんに挨拶をされ、私はそう返事をした。


 吉野くんに会うのは1週間ぶりくらいだった。


 私は制服に着替えると、先に着替え終っていた吉野くんの隣に座った。


「凛くんは元気?」

「うん。相変わらずうざいよ」

「ははっ。そんなことを言いながら大好きなくせに」

「まぁね」


 やっぱり吉野くんは話しやすいな。


「凛くんて本当にいい子だよね」

「そう?」

「うん。いつも真っ直ぐで、会えば“モモ、モモ”言ってて。パピーだけどいい男だよ」


 なんだか凛のことを褒められて嬉しかった。


 隣に座る、吉野くんのことをまじまじと見てみると……


 スラっと伸びた脚は組まれ、なかなか端正な顔立ちだということに気がついた。


「吉野くんってカッコいいんだね」

「は?」

「モテるでしょ」

「……なに?今さら俺のカッコ良さに気がついたの?凛くんなんて捨てて、俺と付き合う?」


 吉野くんは、私の顎に手を添えながらそう言った。


「ははっ。なにそのキャラ」

「だよな。ははっ。別にモテないよ」

「嘘だぁ。大学で、熱い視線を浴びてんじゃないの?」

「ないない。っていうか俺自身が最低3つ以上は年上じゃないと、恋愛対象にならないから」

「前も言ってたけど、そんなに年上がいいの?」

「うん。甘えたい」

「ははっ。似合わなっ」


 私は笑いながらそう言った。


「立花さんは凛くんのことを甘やかしてるでしょ?」


 吉野くんは、ニヤニヤしながらそう言ってきた。


 ……確かに……。


 凛はよく甘えてくる。


「ね?俺は凛くんみたいになりたいの。甘えたいの」

「そんなに“お兄ちゃん”をすることに疲れちゃったの?」

「んー……疲れたというか……甘えてみたいっていうのが本音かな?少しわがままを言ってみたり、不安なことをぶちまけてみたり……それを受け止めてほしいというか……」


 そっか。


 しっかり者に見えてたけど、吉野くんにもそういう部分があるのか。


 そういえば、こんなふうに吉野くん自身のことを聞いたことは、あまりなかったな。


 2人で飲みに行っても、仕事の愚痴や、酷いお客の愚痴、それからバカ話ばかりをしていたから。


 それからも吉野くんと話していた。


 今度は主に安藤くんのこと。


 吉野くんは、あれから安藤くんから話を聞こうとしたけど、安藤くんからは避けられているようだった。


 あの時のことがきっと原因だ。


 私が安藤くんに、壁に追い込まれた時のこと。


 それもそうだ。あの時の吉野くんは怖かった。


「もうあんなことはされてない?安藤くんから襲われたりしてない?」

「大丈夫だよ」

「それならいいんだけど」


 吉野くんは私の心配をしてくれていた。


 やっぱり優しいな……吉野くんは。


「安藤くんから、ちゃんと話を聞けたよ」

「そうだったの?なんだった?」

「あーなんか、今色々と気持ちが不安定みたい」

「それをなんで立花さんに?」


 そりゃそうなるよな。


「……社員だから?」

「店長がいるじゃん」

「ほら、店長ってあんなんじゃん?やる気がないっていうか……」

「立花さんも似たようなもんじゃん」


 失礼な。

 

 私はキッチリ仕事はしてる。


 裏でだけ本性を出してんだよ。


 それにしても……


 安藤くんのこと、なんて言おうかな……。


「立花さんのことが好きだから、詰め寄ったんじゃないの?」

「ううん。違うよ?凛と仲良くなりたかったみたい」

「じゃあ何で凛くんのことを本当に好きがどうか聞いてきたの?辻褄が合わないよ?」


 ……そうだよな……。


「なんか上手いこと言いくるめられてるんじゃない?」


 吉野くんは、まだ安藤くんのことを警戒してるんだ。


「本当に大丈夫?やっぱりおかしいよ。そんな話をするために、わざわざ壁にまで追い込まないでしょ?普通」


 本当に優しいな。吉野くんは。


 さてどうしようか。


 なんかもう、吉野くんになら言ってもいい気もするな。そしたら安藤くんも安心しそうだし。


 あ、でも吉野くんが鬼についてどう思ってるかなんてわかんないしな……。


 でも今“鬼ってどう思う?”なんて聞いてしまったら、まるで安藤くんのことを鬼だと言っているようなもんだし……。


 そんなことを考えてると、他のスタッフが出勤してきた。


 吉野くんは私の腕を掴むと「またあとで話を聞かせて」と、耳打ちをしてきた。


 その顔は真剣そのもので、本当に私のことを心配しているようだった。


「あ、それ鬼のカチューシャですか?」


 吉野くんがパートのスタッフに声をかけた。


 ナイスな話題だ。


「そうそう。娘が買ってきてって言うから昨日買ったんだけど、渡すのを忘れちゃって、バッグに入れたままで来ちゃったの」


 そのスタッフのバッグからは、鬼のカチューシャが少しはみ出ていた。


「娘さん、鬼が好きなんですね」

「そうなの。ツノが欲しいツノが欲しいって騒いじゃって。今となっては小学生の間でも流行ってるみたい」


 そうなんだ……。


「俺も鬼が好きですよ」

「えーなんだか怖くない?前にニュースで話題になったでしょ?人を襲うかもしれないし……」

「でも優しい鬼もいるらしいですよ?」

「まぁね。意思疎通がちゃんと取れるなら……」

「でしょ?優しい鬼とか、なんか可愛くないですか?」


 ──よっしゃっ。


 吉野くんも母と同じで変わり者だ。


 そういえば私のことも変だから好きだと言っていた。


 吉野くんも変人なんだ。


 まずは凛に相談してみよう。


 吉野くんとのさっきの話の続きは、適当に大丈夫だと言い切って、のらりくらりと逃げ切ろう。


 よし。


 大丈夫かもしれない。


 この日は結局、吉野くんと話すタイミングがなくて助かった。


 仕事が終わるとすぐに着替え、何か言いたげな吉野くんにサッと挨拶を済ませると、家へと帰った。


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