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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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32 匂いがつく理由


 私たち3人は、まだカラオケにいた。


 凛はジュースのおかわりを取りに行き、戻ってきてしばらくすると、今度はトイレへと向かった。


 隣の部屋から歌声が漏れている中、安藤くんは質問してきた。


「あの、立花さんは本当に凛くんのことが怖くないんですか?」

「怖くないよ?」

「そっか……。僕の母もですけど、ちゃんとそういう人間もいるんですね」

「私の家族も、みんな怖がってないよ?」

「ご家族も……?」


 目を見開いた安藤くんは、とても驚いていた。


 そりゃそうだよな。


「でもね、凛に何かあるのは嫌だから、普段からちゃんと気をつけるように凛には言ってる。私も安藤くんみたいに、やっぱり不安になるから」

「そうですよね。今もしバレたら、俺はどうなるんだろうって怖くて」


 凛は村から出たくて出てきた。


 安藤くんは、村から逃げるように出てきた。


 街に来た理由が全然違うんだもんな。


 毎日不安で怖かっただろうな……。


「今度さ、私の実家に来る?」

「……え……?」

「私以外にも大丈夫な人間がいるってわかったら、安藤くんも少しは安心できるんじゃない?

困ったことがあれば、うちの母が力を貸してくれるよ?って言っても、ただ話を聞くくらいだろうけどね」

「……いいんですか?」


 安藤くんは少し、私の家族に興味を持ったようだった。


「全然いいよ。凛と私の母も仲良くって、あいつらしょっちゅう電話してるから」

「立花さんは……その……凛くんとどうやって出会ったんですか?」

「あー……街中で拾った」

「え?」

「倒れてたところを拾ったの」

「拾ったって……」


 安藤くんは困惑していた。


「あいつお腹減らして倒れてたから、ごはん食べさせて……あとは汚れてたからうちに連れ帰ったの」

「すごいですね……」

「最初は変なの拾っちゃったなって思ったよ。あいつなかなか家から出ていかないし、最初の頃はポンコツだったから」

「……立花さんて……何気に口悪いんですね」

「……まぁね」

「……」


 ……失敗した。


 相手は吉野くんじゃないのに、ついつい素でしゃべっちまった。


 それから安藤くんは、私に、いつ凛が鬼だと気づいたのか、その時どう思ったのかを聞いた。だから私はそれに答えた。


「……少し……変わり者ですね。立花さん」


 安藤くんは苦笑いをしながらそう言っていた。


 確かに“苦笑い”だった。


 だけど私は、安藤くんが笑ったのを初めて見た。


 仕事中は、口角を上げていながらも、やっぱりその目は怯えているように見えていたから……。


 だから少しだけ安心した。


「そういえば、なんで私と凛がうまくいってるって思ったの?凛がたまに迎えに来てくれてたから?」

「え?」

「休憩室でそう言ってたからさ」

「あー……」


 そこで安藤くんは頬を赤く染めた。


 え……なんで……?


「あの……その……鬼の匂いがしたので……」

「一緒に住んでるからね」

「……凛くんから聞いてないんですか?」

「え?」


 なになに?


 なんなの?


「えっと……あの……」

「なに?」

「匂いが移るのって……その……素肌で触れ合えば触れ合うほど……なんです……」


 ……。


 ……それってつまり……


 私は両手で顔を覆った。


 なにそれ……


 めっちゃ恥ずいんだけど……。


「最初は、匂いが薄めなハーフかと思ってました。立花さんのこと」


 クォーターどころじゃないじゃん。


 私、そんなに鬼の匂いがするの?


「なんかすみませんっ。俺、鼻がめちゃくちゃいいんですっ。だからそう思っただけでっ」


 その時、隣の部屋からは、“わー”だの“ひゅー”だの、盛り上がる声が聞こえ、テンポの速い曲が流れ始めた。


 部屋が静かだったら、私はきっと恥ずかしさでトイレにでも逃げ込んでいたかもしれない。


 そう思っていると、部屋のドアが開いた。


 そちらに目を向けると、目に涙を溜めた凛が立っていた。


「もう……辿り着けないかと思ったっ……」


 は……?


 どうやら凛は、トイレに行ったあと自分の部屋番号がわからず迷子になっていたようだ。


 トイレが違うフロアにあったから、余計に迷ったらしい。


 どうりで戻って来るのが遅かったわけだ。


 凛は私に抱きつきながら「もう僕、迷子やだ。今度から一緒にトイレ来てっ」と言い、泣いていた。


 ……今でもポンコツじゃねーか。


「匂いでわかるんじゃないの?」

「僕は犬じゃないっ。ここ、お酒とか食べ物とか、香水とか色んな匂いするしっ。それに僕、今ちょっと鼻詰まってるしっ」

「わかったから、もう泣かないの」

「今度からはモモも来てっ」


 はぁ……。


 凛よりも年下の安藤くんの方が、よっぽど大人だ。


 凛の背中を撫でながら、安藤くんの方を見てみると……顔を横に逸らし、口元に右手の甲を当て……


 肩を震わせていた。


 ……もしや笑ってんな……?


「……安藤くん」

「……っ……はい……」


 名前を呼んでも、こちらを見てくれない。


「笑ってる……?」

「っ……わらってっ……ませっ……」


 笑ってんじゃねーか。


 笑い過ぎて、しゃべれてねーじゃんか。


 まぁ、いい。


 安藤くんが、こうやって笑えるなら。

 

 そのあと落ち着いた凛は、安藤くんと連絡先の交換をしていた。


 ちなみに凛は、迷子になったことへのダメージが大きかったようで、「もう帰りたい」と言いだしたから、話が終わると歌わずに解散した。


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