31 正反対
話を聞いてみるとこうだった。
安藤くんは、普通に人間の小さい村で育ったらしい。
……すご……。
だけど、どうやって?
どうやら安藤くんのお父さんは、自分のツノを極限まで小さく削り、帽子を被って人間に紛れて過ごしていたらしい。
お父さんは野菜を作って、それを売っていたようだ。
お母さんはすでに亡くなっていて、お父さんと2人暮らしをしていたらしい。
お父さんは狩りもしていて、夜に山に入ったところ、野生の動物に襲われたみたいだった。
それはニュースでも言っていた。鬼の体には、噛まれたような跡があったと……。
安藤くんもそのニュースを見て、初めてお父さんが亡くなったことを知ったらしかった。
そんな……。
私は胸が痛くなった。
このままその村にいたら、お父さんがいなくなったことはすぐにバレる。そのうちにニュースの鬼と、お父さんが結びつくのではないかと怖くなり、安藤くんは街に出てきたのだと言っていた。
その時──
隣からは、“ズズズー”という音が聞こえてきた。
隣というのは、部屋のことではない。
隣に座っている凛のことだ。
凛はもう、メロンソーダを飲み切ってしまったらしく、ストローからはそんな音が漏れていた。
「あんたちょっと、真面目に聞きなさいよ。安藤くんが真剣に話してるんだから」
「だってメロンソーダ美味しいんだもん。僕こんな嘘みたいな緑色の飲み物、飲むの初めて。緑と言ったら普通は緑茶でしょ?」
……。
そかそか。そんなに美味しかったんか。
それならよかっ──
じゃない。
凛のかわいい笑顔を見て、ついついそんなことを思ってしまった。
「ちゃんと聞けっ」
「聞いてるってばっ」
私たちのやり取りを見ていた安藤くんの表情は、さっきとは違い、少し落ち着いているようだった。
もしかしたら凛の、このあっけらかんとした態度が、安藤くんの緊張をほぐしてくれたのかもしれない。
「ごめんね、安藤くん。続けて?」
「あ、はい。あの……俺……バレるのが怖いんです。鬼ブームだなんだのと好意的に思ってる人もいるみたいだけど、SNSを見てみると、まだまだ怖い投稿もあるし……。それに村の人が父と俺が急にいなくなったことを不審に思って、警察に通報したんじゃないかとか、今頃、俺を探してるんじゃないかとか……そう思うとすごく怖いんです」
安藤くんは、また顔を青くしながらそう話していた。
「大丈夫じゃない?ただの夜逃げとかで済むんじゃない?」
凛が能天気にそう言った。それから続けてこうも言っていた。
「鬼が怖くて村を出て行ったとか、そう思うんじゃない?ニュースで初めて知ったなら、第一発見者はその村の人じゃないってことでしょ?村の人だったらすぐに噂になるだろうから」
何気にちゃんと考えてるんだな。
それに凛は村出身だ。
噂がすぐに回るとか、そういう村ならではの空気感を、肌に感じて生きてきたんだろう。
「そ、そうですかね……?」
安藤くんは、戸惑いながら凛にそう聞いていた。
「きっと大丈夫だよっ」
凛はまた明るく答えていた。
それからしばらくは、凛と安藤くんが色々と話していた。
なんか……2人とも正反対だな。
あのニュースを見て、私が凛のことを心配しても、ケロッとしながら“大丈夫だよ”と言う凛。
一方で、ひとり怯えてる安藤くん。
鬼にもやっぱ、色んな性格があるんだな。
「なんでニュースの鬼が、お父さんだってわかったの?」
私は疑問に思い、そう聞いてみた。
ニュースでは写真なんかは出ていなかったから。まぁ……亡くなっているんだから、そんな写真は映し出されないけど。
「帰ってこなかったことと、鬼が見つかったのは俺が住んでいた村の近くの山だったので……」
「そっか……」
「それに、あの村や周辺には、自分以外の鬼はいないと父は言っていました……」
……安藤くんには、もう頼れる人がいないんだ。
だから余計に怖かったんだ。
凛は、人間と鬼が共存する村で育ってきた。だから私に対しても、あまり警戒をしていなかった。だけど安藤くんは、ずっと鬼であることを隠して育ってきたんだ。
そりゃ……あんな感じに怯えるだろうし、鬼の匂いがついた私に、縋りたくもなるよな。
「それで?何か私にしてほしいこととか、できることはある?何に困ってるの?」
「とりあえずは……立花さんの彼氏が、鬼かどうかを知りたかった。それから、立花さんはそれを知っているのかどうかも……。とにかく安心したかったんです。俺と同じハーフが近くにいて……それで……そんなハーフの近くにいる立花さんが鬼のことをどう思ってるのかを……」
安藤くんはそう言っていたけど、もうその表情は安心感が少し混ざっているように見えた。
「安易に大丈夫だとは言い難いけど、こんな凛だって、今までバレずにきたんだから、そこまで怯えなくてもいいと思うよ?ちゃんと気をつけていればさ」
「そう……ですよね」
安藤くんは、凛のことを見ていた。
凛はニコニコしながら、今度は私のジンジャーエールを飲んでいた。
……おかわりを持ってくればいいのに……。
あ。空気を読んで、ドリンクバーに行かなかったのかな?
「安藤くんはモモのこと好き?」
「え……?」
安藤くんは、急な凛の質問に困っていた。
はぁ……
出た出た。
凛のそういうとこ。
だけど、初めて吉野くんと会った時みたいに、怒ってはいなかった。
ただ確認をしているだけ……という感じ。
「モモは僕が好き」
「あ、はぁ……。それは知ってますけど……」
「え?知ってるの?安藤くんすごぉーいっ」
ホントばか……。
そりゃ好きに決まってるでしょうが。付き合ってんだから。
「で、安藤くんはモモのこと好きなの?」
「えっと……好き……です。職場でよくしてもらってますので」
「えっ?好きなの?」
私は頭を抱えた。
「ちょっと凛、もうやめて」
「モモは黙ってて」
は?
「いや……えっと、恋愛感情はないです」
「よかったぁ。これからも好きになっちゃだめだよ?」
……なんか……
とんでもなく恥ずかしくなってきた……。




