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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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31/38

31 正反対


 話を聞いてみるとこうだった。


 安藤くんは、普通に人間の小さい村で育ったらしい。


 ……すご……。


 だけど、どうやって?


 どうやら安藤くんのお父さんは、自分のツノを極限まで小さく削り、帽子を被って人間に紛れて過ごしていたらしい。


 お父さんは野菜を作って、それを売っていたようだ。


 お母さんはすでに亡くなっていて、お父さんと2人暮らしをしていたらしい。


 お父さんは狩りもしていて、夜に山に入ったところ、野生の動物に襲われたみたいだった。


 それはニュースでも言っていた。鬼の体には、噛まれたような跡があったと……。


 安藤くんもそのニュースを見て、初めてお父さんが亡くなったことを知ったらしかった。


 そんな……。


 私は胸が痛くなった。


 このままその村にいたら、お父さんがいなくなったことはすぐにバレる。そのうちにニュースの鬼と、お父さんが結びつくのではないかと怖くなり、安藤くんは街に出てきたのだと言っていた。


 その時──


 隣からは、“ズズズー”という音が聞こえてきた。


 隣というのは、部屋のことではない。


 隣に座っている凛のことだ。


 凛はもう、メロンソーダを飲み切ってしまったらしく、ストローからはそんな音が漏れていた。


「あんたちょっと、真面目に聞きなさいよ。安藤くんが真剣に話してるんだから」

「だってメロンソーダ美味しいんだもん。僕こんな嘘みたいな緑色の飲み物、飲むの初めて。緑と言ったら普通は緑茶でしょ?」


 ……。


 そかそか。そんなに美味しかったんか。


 それならよかっ──


 じゃない。


 凛のかわいい笑顔を見て、ついついそんなことを思ってしまった。


「ちゃんと聞けっ」

「聞いてるってばっ」


 私たちのやり取りを見ていた安藤くんの表情は、さっきとは違い、少し落ち着いているようだった。


 もしかしたら凛の、このあっけらかんとした態度が、安藤くんの緊張をほぐしてくれたのかもしれない。


「ごめんね、安藤くん。続けて?」

「あ、はい。あの……俺……バレるのが怖いんです。鬼ブームだなんだのと好意的に思ってる人もいるみたいだけど、SNSを見てみると、まだまだ怖い投稿もあるし……。それに村の人が父と俺が急にいなくなったことを不審に思って、警察に通報したんじゃないかとか、今頃、俺を探してるんじゃないかとか……そう思うとすごく怖いんです」


 安藤くんは、また顔を青くしながらそう話していた。


「大丈夫じゃない?ただの夜逃げとかで済むんじゃない?」


 凛が能天気にそう言った。それから続けてこうも言っていた。


「鬼が怖くて村を出て行ったとか、そう思うんじゃない?ニュースで初めて知ったなら、第一発見者はその村の人じゃないってことでしょ?村の人だったらすぐに噂になるだろうから」


 何気にちゃんと考えてるんだな。


 それに凛は村出身だ。


 噂がすぐに回るとか、そういう村ならではの空気感を、肌に感じて生きてきたんだろう。


「そ、そうですかね……?」


 安藤くんは、戸惑いながら凛にそう聞いていた。


「きっと大丈夫だよっ」


 凛はまた明るく答えていた。


 それからしばらくは、凛と安藤くんが色々と話していた。


 なんか……2人とも正反対だな。


 あのニュースを見て、私が凛のことを心配しても、ケロッとしながら“大丈夫だよ”と言う凛。


 一方で、ひとり怯えてる安藤くん。


 鬼にもやっぱ、色んな性格があるんだな。


「なんでニュースの鬼が、お父さんだってわかったの?」


 私は疑問に思い、そう聞いてみた。


 ニュースでは写真なんかは出ていなかったから。まぁ……亡くなっているんだから、そんな写真は映し出されないけど。


「帰ってこなかったことと、鬼が見つかったのは俺が住んでいた村の近くの山だったので……」

「そっか……」

「それに、あの村や周辺には、自分以外の鬼はいないと父は言っていました……」


 ……安藤くんには、もう頼れる人がいないんだ。


 だから余計に怖かったんだ。


 凛は、人間と鬼が共存する村で育ってきた。だから私に対しても、あまり警戒をしていなかった。だけど安藤くんは、ずっと鬼であることを隠して育ってきたんだ。


 そりゃ……あんな感じに怯えるだろうし、鬼の匂いがついた私に、縋りたくもなるよな。


「それで?何か私にしてほしいこととか、できることはある?何に困ってるの?」

「とりあえずは……立花さんの彼氏が、鬼かどうかを知りたかった。それから、立花さんはそれを知っているのかどうかも……。とにかく安心したかったんです。俺と同じハーフが近くにいて……それで……そんなハーフの近くにいる立花さんが鬼のことをどう思ってるのかを……」


 安藤くんはそう言っていたけど、もうその表情は安心感が少し混ざっているように見えた。


「安易に大丈夫だとは言い難いけど、こんな凛だって、今までバレずにきたんだから、そこまで怯えなくてもいいと思うよ?ちゃんと気をつけていればさ」

「そう……ですよね」


 安藤くんは、凛のことを見ていた。


 凛はニコニコしながら、今度は私のジンジャーエールを飲んでいた。


 ……おかわりを持ってくればいいのに……。


 あ。空気を読んで、ドリンクバーに行かなかったのかな?


「安藤くんはモモのこと好き?」

「え……?」


 安藤くんは、急な凛の質問に困っていた。


 はぁ……


 出た出た。


 凛のそういうとこ。


 だけど、初めて吉野くんと会った時みたいに、怒ってはいなかった。


 ただ確認をしているだけ……という感じ。


「モモは僕が好き」

「あ、はぁ……。それは知ってますけど……」

「え?知ってるの?安藤くんすごぉーいっ」


 ホントばか……。


 そりゃ好きに決まってるでしょうが。付き合ってんだから。


「で、安藤くんはモモのこと好きなの?」

「えっと……好き……です。職場でよくしてもらってますので」

「えっ?好きなの?」


 私は頭を抱えた。


「ちょっと凛、もうやめて」

「モモは黙ってて」


 は?


「いや……えっと、恋愛感情はないです」

「よかったぁ。これからも好きになっちゃだめだよ?」


 ……なんか……


 とんでもなく恥ずかしくなってきた……。


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