30 告白
職場に着くと、すぐに安藤くんも出勤してきた。
「おはよ」
「おはようございます。あ……あの……」
安藤くんは俯き、両手はそれぞれ握り込まれていた。
……その姿はやっぱり、少し怯えているように見えた。
「この前はすみませんでした。なかなかシフトが合わず、謝るのが遅くなりました」
「大丈夫だよ」
「……ちょっと……2人きりで話したいことがあるんですけど……」
2人きりか……。
この前のこともあるし、どうしよう。
「あの……今、手短に話したいことを言いますね」
「うん」
「助けてほしいんです」
助けてほしい?
要点を言われてないから、何もわからない。
「どうしたの?」
「立花さんの彼氏って……その……もしかして……いや、やっぱりこんなこと……」
……なに?
ハッキリしないな。
「もしかして知り合いなの?」
「いえ」
じゃあなに?
「……匂いが……」
は?
匂い?
「私、臭い?」
「……いえ……そうじゃなくて……」
一体なんなの?
……。
…………。
……匂い……?
まさか……鬼の匂い……?
だけどそんなことは聞けない。
万が一、間違っていたら……。
自ら危険なことは発したくない。
「……彼氏と……その……うまくいってるんですよね?」
なんでそんなことがわかるの?
「……まあ……」
「彼氏のこと、好きなんですか?」
「……好きだけど……」
「彼氏のことを、どこまで知ってますか?」
どこまでって……
なにこれ……。
「彼氏の全部を知っているんですか?付き合ってどのくらいですか?」
全部……は、知らない。
だいたいは知ってる……と、思う。
「なんで?」
「知っているんですか?」
「……全部は知らない」
「……」
安藤くんはそこで黙ってしまった。
やっぱり“鬼”のことを安藤くんは言ってるんじゃ……。
前に凛は、私から鬼の匂いがするから、鬼が近寄ってくるかもと言っていたこともあったし……。
安藤くんも、もしかしたら……。
だったら……一か八か掛けてみるか。
「……ハーフ」
私の言葉に、彼は目を見開いた。
「え?」
「彼はハーフ」
「……それって……」
その時、他のスタッフが出勤してきた。
……。
やっぱり安藤くんも……?
安藤くんがもし、鬼のハーフだとすると、凛と同じようにきっと鬼の匂いを感じていたはずだ。
さっき“匂い”と言っていたし。
それに“助けてほしい”?
なにか困ってるんだ。
安藤くんは、鬼の話がしたいから2人きりがいいんだ。
朝礼を済ませると、他のスタッフをホールやキッチンに送り出し、安藤くんと休憩室で2人きりになった。5分くらいならいいだろう。
「……ハーフって、“何”とのですか?」
安藤くんは“何人”とは言わなかった。“何との”と聞いてきた。
なんて答えよう。
「なんでそんなに気になるの?」
「……今までに何回か見かけたんです。彼氏が迎えにきてるところ。それで……」
「それで?」
私がそう聞くと、安藤くんは休憩室のドアの鍵を閉めた。
安藤くんの顔は真っ青で、額には汗が滲んでいた。
それから私の顔をじっと見た。
すると……
安藤くんの頭からは──
ツノが出た。
……やっぱり……安藤くんも鬼だったんだ……。
「……彼氏は……鬼とのハーフなんですよね?」
私は頷いて返事をした。
「……よかった……。俺のこと、怖く思いますか?」
「ううん。思わないよ。それで助けてほしいってのはなに?」
「……すみません。それは大袈裟に言いすぎました。あの……俺、怖いんです。それでちょっと話を聞いてほしくて」
「私の彼と3人でならいいよ」
「それで大丈夫です」
まさか……こんなに近くに鬼がいただなんて……。
昼休憩になり、私は凛にメッセージを送った。
仕事が終わりメッセージを確認すると、『わかった。むかえに行く』と返事がきていた。
店を出ると、すでに凛は待っててくれ、3人でカラオケに行った。
ここならゆっくりと話せると思った。
凛はすぐに匂いでわかったようだった。
ドリンクバーで飲み物を用意し、部屋へと向かう。安藤くんは、ずっと不安そうにしていた。
凛はなぜだかニコニコとしていて、歩きながら、メロンソーダが入ったグラスのストローに口をつけて飲んでいた。
「うんま。なにこれうんまっ」
私の後ろを歩いている凛からは、そんな声が聞こえてきた。
他の部屋からは気持ちよさそうに歌う歌声が漏れている。マラカスやタンバリンなんかの音も耳に届いた。
「モモー、ここ歌うところなの?」
だまれ。
今、そういうんじゃないんだよ。
「そうだよ」
「僕たちも歌うの?」
「違う。今日は話すの」
「ふーん。僕歌ってみたいな。最近好きな歌があってね、よくそれを聞いてるんだぁ」
なんでこいつは、こんなに能天気なんだよ。
安藤くんの不安そうな顔を見ろ。
それどころじゃないだろ。
部屋に着くとL字型のソファの短い辺に、安藤くんを座らせ、長い辺に私と凛が座った。
すると安藤くんはゆっくりと口を開いた。
「あの……ニュースはご存知ですよね?鬼の……」
「もちろん」
「あのニュースになった鬼……俺の父なんです」
え……?
……うそ……。




