29 休日
……ここ最近、ずっとケンカしてない。
ずっと穏やかだ。
なんだ……。
こうやって普通に生活できるんじゃん。
今日は私も凛も休みだ。天気は雨。
私はベッドに寝転がりスマホを眺め、凛は床に座ってベッドを背もたれにしながらテレビを見ていた。
「モモッ。遊園地行ってみたいっ」
後ろを振り向き、私を見ながら、キラキラとした笑顔でそう言ってきた。
「行ったことないの?」
「ない」
「遠足とかでも?」
「ない。遠足は近場の山だったし、修学旅行なんてなかった」
……そっか……。
遊園地にも行ったことがないのか。
「いいよ。今度休みを合わせて行こうね」
「うんっ。ねぇ、モモ」
「ん?」
「だぁーい好きっ」
「私も大好きだよ」
「もう結婚する?」
……成長してんだか、してないんだか……。
凛はこちらを向くと、床に座ったままベッドの端に両腕を重ね、その腕の上に顎を置くとニコニコとしていた。
いや……ニッコニコだ。
まるで私が“ノー”とは言わないとでも思っているような、自信たっぷりな顔だ。凛はそんな顔で、私の返事を待っていた。
「……まだしない……」
凛の顔は、あからさまに拗ねた。
「……」
「凛、こっちにおいで」
私はベッドの上に凛を誘った。凛は素直に、私の横に寝転んだ。
そんな凛の体に、そっと片腕を回した。
「まだ結婚はしないけど、私は凛のことが大好きだよ。だけどさ、そんなに急がなくてもいいじゃん。一緒にいることに、変わりはないんだから」
「……だって……モモが誰かに取られるのが嫌だから……」
凛も私の体に腕を回した。
ぶっちゃけ……母が言うように、私のことを好きになるような人はそうそういないと思う。
口は悪いし、性格もいいわけじゃない。
吉野くんには理想の彼女はできてほしくないし、なんなら凛みたいな性格の彼女ができて、振り回されてほしい。
それで困っている吉野くんのことを見て、私は笑ってやりたい。
これは別に、吉野くんに幸せになってほしくないって訳ではない。
そうなれば私が面白いと感じるからだ。
それに、私は吉野くんのことは好きだし、いいヤツだとも思ってる。
……だけどこんなふうに思っている時点で、やっぱり自分の性格はいいとは思わない。
それなのに、凛は好きでいてくれる……。
「私なんて、誰も取らないよ」
「モモはかわいいっ。いい女っ」
……そう思ってくれるのは、きっと凛くらいだ。
「ありがと」
遊園地にも行ったことのない凛。
連れてってあげたい。
……だけど……
うざそうだな。
“モモッ、あれなに?”、“モモッ、あれ食べたいっ”、“モモッ”、“モモッ”……。
そんな凛の姿が、容易に想像できた。
興奮すると、凛は周りも気にせず、声が大きくなるから恥ずかしいんだよな。田舎者感が丸出しで……。
まぁ……仕方がないか。
……あ……そうだ……。
「凛」
「ん?なに?」
「ゲームしたことある?」
「なんの?トランプ?花札?なぞなぞ?」
「ううん。家庭用ゲーム機」
「あー……CMでよくやってるやつ」
「そうそう」
「ない」
やっぱり。
冬のボーナスもまだ手付かずだし、凛が喜びそうだから買ってみるか。
スマホで時間を確認すると、まだお昼だった。
私は起き上がると凛に声をかけた。
「凛っ。電気屋さんに行くよっ」
「え?何買うの?」
「ゲーム機」
凛は目を輝かせながら、起き上がった。
私たちは準備を済ませると、すぐに家を出た。
電気屋に着くと、私たちは2人で楽しめそうなソフトを二種類選び、ゲーム機も買った。ついでにコンビニでお弁当も買って帰った。
凛はすぐにお弁当を食べ終えると、ゲーム機の箱を開け、説明書を見ながら色々と接続をしていた。
……大丈夫かな……?
まぁ……線を繋げるだけだけど。
私はゆっくりとお弁当を食べながら、そんな凛の姿を見ていた。
「できたっ」
本当か?
そう思っていると、テレビからはメーカーのロゴが表示されていた。
やるじゃん、凛。
ちゃんと接続されてる。
私もお弁当を食べ終わると、早速ゲームを始めた。
今回は、色々なミニゲームが入っているものをやることにした。
ゲームなんて久々にしたから、ついつい熱くなってしまった。
「ははっ。モモへたくそぉ」
「うるせーっ。次のゲームは負けないもんっ」
ああ……
なんだかすっごく楽しい。
この日はこんな感じで、一日中ゲームを楽しんだ。
凛もずっと笑っていて、それが嬉しかった。
──のはいいんだけど……
この日から凛は、仕事から帰るたびに目を輝かせながら“ゲームしよっ”と言ってきて、少しうざかった。




