27 疑問
この前不動産屋を何軒か回ってみたけど、気にいる物件がなかった。
ま、急がなくてもいっか。
この狭い部屋に2人でいるのも、なんだか慣れたし。ゆっくりと探していけばいいや。
凛も、もう少しで免許が取れそうだって言ってたし。免許取ってからでいっか。
そういえば明日、吉野くんとシフトが被るな。
飲みに誘ってみようかな。
不動産屋から帰ってくると、私は床に座り、凛に話しかけた。
「ねぇ凛、明日吉野くんと飲みに行ってもいい?」
「僕も行くっ」
凛はそう言いながら、私の隣に座った。
やっぱりそうなるか。
明日は吉野くんと2人がいいんだよな。お礼したいし、凛の話もしたいし……。
「2人じゃだめかな?」
「本当に2人?他の男はいない?」
「吉野くんだけだよ」
「……ならいいよ」
普通は、男と2人なのがだめなんだけどな。
吉野くん、相当信頼されてるんだな。
「凛も飲みに行ってくれば?年の近い子と」
「ううん。明日飲み終わる時間教えて?迎えに行くから」
凛……
私のことを心配してくれてるんだ……。
だったら……
「やっぱり凛も一緒に行こうか」
「いいのっ?」
凛は目を輝かせた。
「いいよ」
前までの凛だったらたぶん、やだやだ言って怒ってたんだろうな。
“ならいいよ”って言った時の凛の顔、少し我慢してる感じだったから……。凛なりになにか考えて、我慢してくれたんだ。
私は吉野くんに連絡をした。
すぐに返事がきてOKしてくれた。
次の日、職場に着くと、私は出勤してきた吉野くんにお礼を言った。
そんな吉野くんは笑いながら「いえいえ」と言ってくれた。
私は着替え終わると、先に着替え終わっていた吉野くんの隣に座った。
「俺さ、弟もいるから、なんか凛くんのことも弟みたいに思っちゃうんだよね。ちょっと似てるところもあってさ」
弟……。
「……その弟ってさ……今何歳?」
「……10歳」
10歳かぁ……。
私は10歳と付き合ってるのかぁ……。
私の表情を見て、吉野くんは笑った。
「ははっ。でも凛くん立花さんのことを幸せにするんだって言ってたよ。俺さ、それ見てカッコいいって思ったもん」
そっか。凛はそんなことを言ってたのか。
「確かにパピーだけど、心の熱い男だよ。凛くんは」
凛が褒められて私は嬉しかった。
「そういえばさ、安藤くんのことなんだけど──」
吉野くんがそう話を切り出した。
仕事自体は真面目にするんだけど、なんだか悩みがありそうで気になると言っていた。
実際に声をかけてみたけど、何も話してくれなかったらしい。
だから私からも、話を聞いてみてほしいと言っていた。
「本当に吉野くんは面倒見がいいね」
「長年兄ちゃんやってると、やっぱこうなっちゃうのかな」
「私の友達は、お兄ちゃんにパシリにされてたよ?」
「ははっ。うちは年が離れてるからな。それのせいかも」
「いい男だね」
「そんなこと言ったら、凛くんが嫉妬するよ?」
「あいつはもう、吉野くん大好きみたいだから大丈夫だよ」
「じゃあ今日飲んでる時に言ってみてよ」
吉野くんが少しいじわるな顔をして、笑いながらそう言った。
仕事が終わり外に出ると、すでに凛は来ていた。
それから3人で居酒屋に着くと、早速飲み物を頼み、それが届くと乾杯をした。
しばらくは、凛の仕事の話を吉野くんと2人で聞いていた。
凛はどうやら、また新しく仕事を教えてもらえたらしい。「でもまだ全然お手伝いばっかだけどね」と言いながらも、嬉しそうにしていた。
そんな時、吉野くんは楽しそうにしながら、少しいじわるな顔をして、私に目配せをした。
あの話をしろとでも言うように。
「あ、凛。吉野くんてね、妹と弟がいて、すごく面倒見のいいお兄ちゃんなんだよ?」
「うん。僕と遊んでる時もお兄ちゃんみたいだった」
「吉野くんて、いい男だよね」
私がそう言うと、凛はあからさまに拗ねた顔をした。吉野くんの言う通りだった。
「モモは僕が好き」
「そうだよ?私は凛が大好きだよ」
すると、凛はすぐに笑顔になった。
かわいい。
よかった。ツノが出なくて。
「驚いた」
吉野くんがそう言った。
「何が?」
「立花さんて、人前でも平気で好きだのなんだの言うんだね」
「変?」
「いや、なんかそういうのって恥ずかしいじゃん」
「確かに。でも一緒にいるのが吉野くんだからだよ?他の人の前だったらたぶん言わないな。凛は誰の前でも言うだろうけど」
隣にいる凛はニコニコとして、上機嫌にゆず蜜サワーを飲んでいた。
私ってば、なんで普通に言っちゃったんだろう……。
きっと普段から言ってるからだ。
よく凛も“僕のこと好き?”って聞いてくるし。
そんなことを考えていると、吉野くんが凛に話しかけた。
「凛くんもいい男だよ」
私はすかさずこう言った。
「凛くん“も”っていうことは吉野くん、自分で“いい男”って思ってるの?」
いじわるなことを言っちゃったかな?
「ははっ。揚げ足取んなよ。自分では思ってない」
「ごめんごめん。でもホントいい男だと思うよ?もちろん凛もいい男だよ?頼りになるし、守ろうとしてくれるし」
私は凛の機嫌を損ねないようにそう言った。
……いや……本音か。
「モモもいい女。かわいいもんっ」
……。
凛が“いい女”とか言うの、なんか似合わないな。
凛が13歳になるころには、凛の周りには同年代の子はほとんどいなかったと前に言っていた。
……もしかしたら凛は、卵から孵った雛のように、村を出て初めて関わり合った同年代の私に、ただ懐いただけなんじゃないのかな……。
刷り込み現象みたいに……。
本当に私に恋をして、胸が痛くなったり、好きだって感情が湧いて出たりしてたのかな……。
私は急に不安になった。
凛は……ちゃんと私に恋愛感情があるのかな……。
あ……でも凛はちゃんと初恋は経験してる。
なら大丈夫か……?




