26 単細胞
今日は凛と吉野くんが遊ぶ日だ。
少し買い物をしてから飲みに行くと言っていた。
私は仕事。
凛……楽しんでるといいな。
それに吉野くん、ありがとう。
仕事から帰ると久々に部屋は暗かった。
なんだか少し寂しいな。
ちょっと前までは1人の時間が欲しいって思ってたのに。
飲むって言ってたから凛は遅くなるのかな。
私はシャワーを浴びながらそんなことを考えていた。
帰りに買ってきたコンビニ弁当を温めると、動画を見ながらそれを食べた。
……。
美味しくない。
つまんない。
凛がいないとこんなに静かなのか……。
あいつうるさいもんな。
本当に……なんでこんなに好きになっちゃったんだろ……。
ケンカもするけど、やっぱり凛のことが好きなんだよな。単細胞のパピーヤローなのに。
でも素直で頑張り屋で、私のことが大好きで……
好きだな……。
そんなことを考えていたら凛が帰ってきた。思ってたよりも早くて、ちょっと嬉しかった。
「ただいまぁ」
凛が短い廊下を走ってきた。
「よかった。ちゃんとモモいる」
「どうしたの?」
「なんかモモが帰ってなかったらどうしようって、急に怖くなった」
かわいいなぁ。
「大丈夫だよ」
「今日はね、吉野くんがこの服を選んでくれたんだぁ」
凛はそう言いながら袋から中身を取り出し、ベッドに並べていた。
「よかったね」
やっぱり吉野くん、センスいいな。
あ……
「ねぇ凛、吉野くんに変なことを話してないよね?」
嬉しそうに洋服を自分の体に当てている凛に、そう聞いてみた。
すっかり忘れてた。
凛ならペラペラしゃべりそうだ。
母に話すように、ちゅーだのなんだの話されるのは恥ずかしすぎる。
「変なことって?」
「私とのこと。ちゅーしたとかなんとか」
「話してないよ?そんなことを話して、吉野くんがモモの想像したら嫌だもん」
よかった……。
ビビった……。
凛にもそういう感覚があったのか。
「僕ね……モモのためにもっと頑張る」
凛は、私の隣に正座をした。体は私の方を向いている。
「どうしたの急に」
「モモと結婚したいなら、もっと大人にならないとだめだって。精神的にもっとしっかりしないとだめだって」
……。
「そう言われたの……?」
「うん。それでモモのことを支えないといけないよって、吉野くんに言われた」
吉野くん……。
「分別をもって思慮深くなれって。それから包容力もないとだめだよって」
「……その意味わかった?」
凛はニッコリとしながらこう言った。
「わかんなかったっ」
……やっぱり……。
「だから吉野くんに教えてもらった」
吉野くん、ありがとう。
“次、凛に会ったらちょっと躾しといてくれない?”
前に私がそう言ったから、きっと吉野くんはそんな話をしてくれたんだ。
次に会ったらお礼言っておかないと。
いや、そんなんじゃ足りない。
だってあの凛の口から“思慮深く”なんて言葉が出てくるんだよ?
今度吉野くんと飲みに行ったら奢ってやろう。
凛にも奢ってやろう。
凛は今、頑張ろうとしてる。
私のために……
……私も頑張らないと……。
「えらいね」
私は凛の頭を撫でた。
凛は嬉しそうにしていた。
「痛っ。ちょっといきなりツノ出さないでよっ」
「ごめんっ。嬉しくてつい……」
「もうニ度と、頭撫でるのやめよっと」
「やだ。引っ込めるからもう1回撫でて?」
かわいっ。
私はまた凛の頭を撫でた。
そうだよね。
凛はちゃんと学べるんだから、ちゃんと冷静に教えればいいんだよね。
凛のことを、子どもだなんだと思いながら、結局は私も子どもなんだよな。だからケンカになる。
「ごめんね凛。凛のこと単細胞だとか言って」
「え?言われたことないよ?」
「……そうだっけ?」
「どういう意味?」
ばかってことだよ。
「モモは僕が好き」
「うん。そうだよ。大好き」
「僕もモモが大好き」
目の前の凛はやっぱりツノを出して嬉しそうにしていた。
「凛、引っ越そう?もう少し広い部屋に」
「わかった。いつ?明日?明後日?」
ホントばか。
私は色々と引っ越しについて説明した。
明日は私の休みだ。
私はすぐに明日の天気を確認した。
「明日1日中雨予報だけど、凛は休み?」
「うん。雨だったら休みだって言ってた」
「じゃあ明日、不動産屋に行こうか」
「お母さんのところは?」
あ……そうだった。
お母さん会いたがってたもんな……。
「今度でいいんじゃない?」
「わかった」
やっぱり聞き分けがいいところもあるんだよな。




