24 まさかのブーム?
家に着くと、凛がおもむろにスマホを手にした。
「お母さんに電話してもいい?」
「なんで?」
「最近、電話してなかったから」
「何話すの?」
「別に決まってない」
「なんで電話したいの?」
「なんとなく」
なんでこんなに母に懐いたんだろ。
凛は母にビデオ通話をし始めた。
『凛くん久しぶり。桃と仲良くしてる?』
「うん。昨日も愛し合ったよ」
私はすぐに凛の頭をはたいた。
「なにすんだよっ」
「そういうことお母さんに言わないでって言ったでしょっ?」
「だって仲良しはいいことだろ?」
「普通は言わないのっ」
「だって……」
凛は不貞腐れていた。
『こらこら、ケンカしないの。仲良くしなさい。』
……。
もう……
いいや。
諦めた。
怒るのも疲れた。
凛はそのあとも、母と楽しそうに話していた。
話の内容はニュースの鬼のことだったり、凛の仕事のことなんかを話していた。
母は凛のことを心配していた。
凛が鬼だから。
あの日、あのニュースが報道されると母がすごく心配そうに電話をかけてきてくれた。
母も弟も、凛が鬼であることは誰にも口外していなかったから助かった。
もし……
鬼が見つかったらどうなるんだろ。
殺されちゃうのかな。
それとも捕まっちゃう?
何もしてないのに?
真面目に働いてるだけなのに?
怖いな……。
「モモ大好きっ」
凛はそう言いながら、仕事から帰った私に抱きついた。
「ただいま」
「モモ大好きっ」
「私も大好き」
本当に嬉しいんだな。
私が大好きと言うと、凛はすぐにツノが出る。
私は凛のツノをツンツンとした。
「こんなに簡単にツノ出ちゃうのに、本当に外では大丈夫なの?」
「大丈夫っ。それに今、若い子たちに鬼ブームがきてるから、ツノのカチューシャしてる子が街中にいっぱいいるよっ」
そう。今は鬼ブーム。
私も初めて見た時はギョッとした。
普通に鬼が電車に乗ってる……。
そう思って驚いた。
でもそれはカチューシャだった。
人気動画投稿者が“実は鬼が好きで……”と言い、昔の鬼の話を、ツノのカチューシャをつけながら話している動画だ。
そのツノのカチューシャが女子高生を中心に流行りだし、しまいには10代〜20代の若者層にまで広まった。
「だからうっかり出ちゃっても大丈夫」
「出る瞬間を見られたらだめでしょ?」
「……そっか」
この単細胞め。
話題になっている動画を、すでに私も見ていた。
その人の先祖に鬼と仲が良い人がいたようで、鬼は決して悪い者ばかりではないと、先祖代々に語り継がれていたらしい。
何がきっかけで仲良くなったかまではわからないらしかったけど、鬼も言葉が話せるし、心もちゃんとある。だから鬼に遭遇しても、襲いかかって来なければ、こちらからも襲ってはいけないよと、その動画投稿者は、祖父から言われていたようだった。
その動画のおかげで、鬼に好感や関心を持った人たちも多くなった。
──凛のスマホが鳴った。
「あ、お母さんからだ。この時間に珍しいな」
ホント仲良いな。
『見て見て凛くんっ。お母さん、凛くんとオソロだよ』
なんだろうと思い、私も画面を覗いた。
……母が年甲斐もなくツノのカチューシャをしていた。
「本当だ。お母さんかわいい。似合ってるよ」
凛は嬉しそうに、そう言っていた。
『桃とはどう?仲良くしてる?』
「うん、してるよ。今日もごはんを食べ終わったら、一緒にお風呂に入るんだ」
『あらあら。仲良しさんでよかった。ママ安心』
「うん。僕モモのこと大好き」
よく恥ずかしげもなくペラペラと……。
凛にとってはこれが普通なんだろうな。
というより、鬼にとっては……なのか?
どっちなんだろ。
他の鬼にも会って聞いてみたい。
というか、私と同じような人はいるんだろうか。鬼のハーフと付き合っている人……。
それに、一体どのくらいの数の鬼がいるんだろう。
あー……お腹減った。
早くごはんが食べたい。
「凛、ごはん食べようよ」
私は、母と電話中の凛に、声をかけた。
「わかった。お母さん、またね」
『うん。またね』
凛が作ってくれたごはんをテーブルに用意すると、私は凛に質問をした。
「まだ鬼はいっぱいいると思う?」
「んーわかんない。僕の村はもう過疎化しちゃったけど、まだ他の場所が栄えてたとしたら、鬼もバンバン生まれるだろうし、人間がいればハーフも生まれる。でもそんなに豊かになってれば人間にバレそうだしな……」
私のなんとなくな質問に、凛はしっかりと、考えて答えてくれた。
鬼は“強い”……。
「なんで凛はひとりっ子なの?鬼の性質上、いっぱい兄弟いそうなのに」
私はそう聞いてすぐに後悔した。
何か事情があるかもしれないのに、無神経な質問だったな。
「僕が産まれる頃にはもう過疎化が進んでて、子育てに向いてない村だからって。父さんはツノを引っ込められないから、山を下りることもできないし」
ケロッとしながら凛は教えてくれた。
そっか……。
血が薄まった人たちは、みんな村から出て行ったって言ってたもんな。
「早くお風呂に入ろう?」
2人で食べ終わった食器を片付けてると、凛はそう言ってきた。
「あ、あの……」
「なに?」
安藤くんが話しかけてきた。
今は制服に着替え終わり、始業時間を待っているところだった。
「どうしたの?」
「……ピンクの髪の毛の人……」
凛のこと?
凛が迎えに来ることがあるから、その時にでも見られたのかな?
「うん、なに?」
「彼氏ですか?」
「そうだよ?」
「……」
「それがどうかした?」
「いえ……」
やっぱり安藤くんってもの静かだな。
……友達でも欲しいのかな?
確か安藤くんも1人でこっちに出てきたと言っていた。
「もしかして私の彼氏と友達になりたい?あいつ安藤くんと同年代だよ?」
「いえ……ただ気になって聞いただけです」
「そっか」
なんだ。違うのか。
凛に友達が増えるのはいいことなんだけどな。
まぁ……安藤くんと凛は合わなさそうか……。
あいつばかだもんな。




