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ある日、鬼を拾いました。だけど早速捨てたいです。  作者: ことりおと


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23/40

23 匂い


 凛はベッドに座ると、話し始めた。


 私もそんな凛の隣に座った。


「この前、鬼が見つかっただろ?今の時代に鬼が残ってるだなんて……父さんもそうだけど、純血が守れるほど鬼が集まってる場所が、僕の村以外にもあったってことになる。僕の村に純血の鬼は父さんだけだし、父さんは絶対に村から出ないから」


 そうだよな。


 そういうことになるよな。


 私は凛の心配ばかりしていて、そんなことは考えていなかった。


 ……もしかして……


「ねぇっ。凛のお父さん、凛を探しに村を出たんじゃない?」


 私は急に不安になった。


 前に凛は勝手に家を出てきたと言ってたから……。


「それはない」

「わかんないじゃん、そんなこと」

「絶対ない。だって違う県の山にいたんだよ?ニュースになってた鬼は。僕はずっと都会に行きたいって言ってたんだから、山になんか行かないでしょ」


 凛は冷静だった。


 慌ててるのは私の方だった。


 そっか……。


 凛の村と、鬼が見つかった山は位置的に正反対だ。都会に出る方が全然近い。


 私は話を戻した。


「なんで街の中に鬼がいるってわかったの?」

「匂いでわかる。匂いが薄かったから純血の鬼が遠くにいたか、ハーフの鬼が近くにいたかはわからないけど」

「すご……そんなのわかるんだ」

「モモ。心配だから、しばらくの間は迎えに行く」

「え?」

「モモに鬼の匂いが少しだけついてるから」

「は?」

「まだ近づかないとわからない程度だけど」

「へ?」


 意味がわからない。


 匂い?


 私は自分の腕の匂いを嗅いだ。


「モモにはわからないよ。鬼にしかわからない」

「だったらなんなの?」

「……鬼の方から、モモに近づいてくるかもしれない」

「なんで?」

「モモから鬼の匂いがするから」


 ……だからなんでなんだよ。なんでそれで鬼が近づいてくるんだよ。


「何のために?」

「……モモのことを同族だと勘違いして」

「匂いが薄いのに?」

「僕にはわからないけど、鼻のいいヤツならクォーターだと勘違いするかも」


 なるほど……?


「だから1人で帰らないでね」

「同族だと思われたからって、別に何もしてこないでしょ?」


 凛は少し難しい顔をして黙った。


 それからぽつりと、静かに話し始めた。


 元々鬼は、自分たちの種族を絶やさないために、他種族との交流は一切しなかったらしい。だから同族を強く求める習性があると。


「だから心配。モモかわいいから、他の鬼に惚れられちゃうかも。襲われちゃうかも」

「は?襲われる?」

「鬼は……人間よりも強いから」


 鬼が力持ちなのは知ってるけど……


「襲われるって、殺されるの?」

「そう言う意味じゃない。だけど鬼は強いから」

「よくわかんない」

「三大欲求が、人間より強いから」


 三大欲求……


 食欲、睡眠欲、性……


 そういう意味か。


「さすがに大丈夫でしょ」

「……だってモモはかわいいから」


 凛が私を守ろうとしてくれてる。


 私はそんな凛にときめいてしまった。


「わかった。ありがとね」


 それにしても……さっき“まだ”って言ってたよね?


 “まだ近づかないとわからない程度だけど”って……。


 一緒にいる時間が長くなると、もっと鬼の匂いが強くなるのかな……?




 それから凛は、毎日のように私を迎えに来た。


 


「やっぱりこの辺のどこかにいる。匂いがしない日もあるけど、する日も多い」


 店から駅までの道を、凛と手を繋ぎながらゆっくりと歩いていた。


「同じ鬼ってこと?それとも違う鬼?」

「そこまではわからない。同じかもしれないし、違うかもしれない。もしかしたら複数の鬼が街に来てるかもしれない」

「そうなんだ。凛はどこまでわかるの?」

「どこまでって?」

「鬼の血が少しでも入ってたら匂いを感じるの?」

「ううん。クォーターの鬼だと、もう血が薄れて僕にはわからない」

「鬼に会いたい?」

「別に」


 寂しくなったりしないのかな?


「あんた、お母さんにちゃんと連絡してる?」

「してない」

「私のお母さんにばっか電話してないで、実家にもちゃんとしなよ」

「電話もスマホもないよ。僕の家には」


 不便極まりないな。


「一度ちゃんと帰りなよ。心配するよ?」

「大丈夫。僕が村を出たがってたのは知ってるから。あの2人もきっと、僕がいない方がのびのびすると思うよ?」


 凛は笑いながらそう言った。


 本当に寂しくないのかな?凛はこんなに寂しがり屋なのに。


 無理してないかな?


 だけど、凛はとても素直に感情を表に出すし、寂しかったら、もうとっくのとうに村に帰ってるだろう。


「たぶんだけど……この街で普通に働いてるとか、遊んでるんだと思う。鬼のハーフが。それに僕、毎日この辺で事件がないか調べてたんだけど、悪いニュースは見かけてないから、悪さをしに街に来たんじゃないと思う」


 そんなこと調べてたんだ。


 それにそんなことを考えてたんだ。


 私は感心した。


「明日からはまた、仕事が終わったら教習所に通うね」

「わかった。頑張ってね」


 私たちは電車に乗り込んだ。だけど帰宅ラッシュで電車の中はぎゅうぎゅうだ。

 

 凛は私が押し潰されないようにそっと抱き寄せ、それから閉まったドアに片手をつき、スペースを確保してくれた。


 なんだよ……。


 男らしいところあんじゃん。


 たったこれだけのことで、私は惚れ直してしまった。


 私……チョロ……。


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