22 え……?
新しいアルバイトが入ってきた。
18歳の大人しい男の子だった。
この子は早番も遅番もどちらも入れる子。
「初めまして。今日からお世話になります安藤直弘です。よろしくお願いします」
彼はそう挨拶をしていた。
私はその子に色々と仕事を教えた。
本当に大人しいな。
その子は“はい”と言いながら私の話をちゃんと聞き、私の言う通りにしていた。
いい子だな。
言葉に少し、訛りがある……?
「出身どこ?」
安藤くんは教えてくれた。
結構遠いところから来たんだな。
「1人でこっちに出てきたの?」
「はい」
「そっか。歳が割と近くて、面倒見のいい吉野くんて人がいるから、何かあったら相談するといいよ。もちろん私にしてもいいからね?」
「はい。ありがとうございます」
なんだか安藤くんが纏う空気感が寂しく感じたから、私はそう言った。
そうやって数日間、私は安藤くんに仕事を教えていた。
仕事が終わり家に帰ると、凛が作ってくれたごはんを2人で食べながら話していた。
「最近アルバイトで入ってきた子がいるんだけどさ──」
「男?」
……あ……この話題やめた方がいいかな……。
凛は私の周りにいる男に敏感だ。
でも……私は正直に言うことにした。
「18の男の子」
「そいつモモのこと好き?」
「好きじゃないよ。そう簡単に人は人を好きにならないよ」
「……僕はすぐにモモを好きになった」
やっぱりそうなのか。
「大丈夫だから心配しないで?」
「モモ……転職して?」
「は?」
「男のいない所で働いて」
「無理」
凛はやっぱり不機嫌になった。
「僕やだ。モモが男と働いてるのやだ」
凛は箸をテーブルに叩きつけた。
そんなに怒らなくても……。
「私は凛が好き」
私がそう言うと、凛はツノを出し、すぐにニコニコした。
そかそか。嬉しかったんだね。
「僕もモモ大好き」
凛は嬉しそうにしていた。
「凛……そうやってすぐにツノ出しちゃだめ」
「あ、出てた?」
「うん」
「ごめん」
「だめだよ?もっと気をつけて」
こんなに簡単にツノを出す凛のことが心配だ。
「モモ。大丈夫だから。ちゃんと気をつけてるから」
「うん……」
「本当だよ?今は家にいるから気が緩んでるだけ」
「わかった……それでね、その子すごく大人しい子なんだけど──」
私は安藤くんのことを話した。
凛は興味なさそうに聞いていた。
「もうその男の話、聞きたくない」
「職場の話だよ」
「やだっ。モモの口から男の話なんて聞きたくないっ」
「吉野くんの話は?」
「吉野くんは大丈夫」
やっぱりか。
吉野くんが言うように、凛は自分と仲良くない男は敵になるのか。
「凛、明日飲みに行かない?」
「んー……モモが次の日、休みの時にしよ?僕は体力あるから次の日が仕事でも大丈夫」
優しい。
単細胞のくせに優しい。
「ありがと。じゃあ明後日ね」
「うんっ。僕迎えに行くねっ」
嬉しそうな顔しちゃって、かわいいな。
「僕、唐揚げ食べたいっ」
「食え食え」
「ゆず蜜サワー飲むっ」
「飲め飲め」
「楽しみっ」
あー……もう……凛かわいっ。
私、本当は年上が好みなのにな。
こんなわがままなガキんちょじゃなくて、大人で引っ張ってくれるような人が好きなのに。なんでこんなに、凛のことを好きになっちゃったんだろ……。
今日は凛と飲みに行く日だ。
仕事が終わり店を出ると、少し遠くに凛の姿が見えたから、私は駆け寄った。
「凛っ」
「モモッ、おつかれぇ」
凛はすぐに私の手を握った。
それから凛は、少し険しい顔をした。
「どうしたの?」
「……ちょっとね……」
それだけを言い、凛は理由を言わなかった。
お店に着き、早速飲み物の注文をした。
私はビールで、凛はゆず蜜サワー。
頼んだものが届くと、二つのジョッキを軽くぶつけるように乾杯をした。
ちょっとお洒落な居酒屋……なんかではない。
外にもテーブルとイスが用意されているような、赤提灯のガヤガヤとした居酒屋だ。
周りからは笑い声や、大きな話し声が聞こえてくる。
しばらくすると唐揚げが届き、凛はその唐揚げを美味しそうに食べていた。
「仕事どう?」
「楽しいっ。僕力持ちだからみんな喜んでくれるんだ」
「技術は身についてる?」
「ううん。まだ掃除とかお手伝いばっかだから。でも今日ね、少し教えてもらえたんだ。そしたら器用だって褒められたよ?覚えもいいって」
よかった。
この様子なら続けていけそうだな。
凛は楽しそうにしていた。
「凛、なかなか休みが合わないけどさ、こうやってたくさん楽しいことしよ?」
「うんっ」
凛はツノ隠しのためにキャップを被っていた。
そのキャップが少し浮いた。
「凛、キャップが……」
「ごめん」
凛はそう言うとキャップが元に戻った。
「本当に職場では大丈夫なの?」
「大丈夫だって。僕がこうなるのは、モモにだけだから。親方に褒められたってこうはならないよ?」
なんか……ちょっと嬉しいかも。
……わかった。
凛の素直なところが、私は好きなんだ。
変な駆け引きをしない凛が……。
あ、そんなのそもそも凛はできないのか。バカだから。
だけど……私はそんな凛のことが好きなんだ。
このあとも凛は、次々に届く料理を美味しそうに食べていた。
いい時間になり、家に帰ると凛はまた険しい顔になった。
「モモ……たぶん、鬼が街中に紛れてる」
「え?」
鬼が……街中に……?




