20 もしも……
「おはよ。久しぶり」
「あ、おはよ。吉野くん」
久しぶりに吉野くんとシフトが一緒だ。
先に着替え終わっていた私は、いつもの如くスタッフルームの休憩スペースに座っていた。吉野くんもすぐに着替えると、私の隣に座ってきた。
「凛のことありがとね。買い物に付き合ってくれて」
「いえいえ。それで?凛くんとは進展した?凛くんのことが好きなんでしょ?」
「よくわかったね」
「うん。なんとなくね。凛くんの話を聞いてそうかなって思った」
あいつ……変なこと言ってないよね?
「付き合うことになったよ」
「よかったね。凛くん浮気しなそうだもんな。立花さんのこと好きじゃないだなんて言いながら、あんなに怒ってさ」
吉野くんが話しているのは、あの居酒屋での出来事だ。凛が黒髪のウィッグを被っていた日のこと。
「全身で立花さんのことが好きだって言ってるような姿を見て、俺、笑いを堪えるのに必死だったよ」
吉野くんはそう言いながら笑っていた。
「ははっ。そうだったんだ」
「うん。もうおかしくって。それでどう?仲良くやってる?」
「んー……もう少し私離れをしてほしい……かな」
私がそう言うと、今度また凛を誘ってみると吉野くんは言ってくれた。
「あいつさ、見ての通り癇癪持ちで、わがまま単細胞の、何にも知らないパピーヤローなの」
「……辛辣だね」
「なんで好きになっちゃったんだろ……」
「前に買い物に行った時、そんなにわがままじゃなかったよ?俺の言うことをちゃんと聞いてたし、よく笑ってて楽しそうにしてた」
なんでよ……。
私といる時と違うじゃんか。
「次、凛に会ったら、ちょっと躾しといてくれない?」
「躾って……前から思ってたけど、立花さんってちょっと口悪いよね」
「まぁね」
「ま、そんなところが好きなんだけど」
「こんな私を好きだと言う吉野くんのことが、私は好きだよ」
「人を拾っちゃう変なところも好きだよ」
「変な人が好きな、変な吉野くんが私も好きだよ」
私は本当に、こんな吉野くんのことが好きだった。
気を遣わずに、本音を言えるのってホント楽。
「あ、え?2人って付き合ってるんですか?」
ちょうど出勤してきたスタッフのシミズくんに、会話を聞かれてしまったようだった。
「「付き合ってない」」
私と吉野くんは声を揃えてそう言った。
するとシミズくんはこう言ってきた。
「いや、でも今2人して“好き好き”言い合ってたじゃないですか」
私はシミズくんに言った。
「私、彼氏いるから」
それからまた、私と吉野くんとの会話が始まった。
「俺は年上の女が好き」
「へー。そうだったんだ」
「そう。それで甘やかされたい。今まで兄ちゃんやってきた反動だな」
「そういうもん?」
「俺はね」
「私も本当は、落ち着いた年上が好み」
そう……。
本当は、私の好みは落ち着いた人。頼れる人。
「正反対な彼氏だね」
「ね。吉野くんにも理想とは正反対な彼女ができますように」
「性格悪いね、立花さん」
「まぁね」
私たちの会話を聞いていた、シミズくんはこう言った。
「男女の友情ってあるんですね」
男女の友情か……。
「さぁね?」
「どうなんだろうね?」
私と吉野くんはそう言った。
男女の友情があるかどうかなんて知らない。
制服に着替え終わったシミズくんは、私たちの目の前に座った。
私はまだ色々と考えていた。
結局はタイミングなんだと思う。
私はまた話し始めた。
「何がキッカケで、どう気持ちが動くかなんてわからないよ。年を重ねていけば、考え方だって変わっていくんだから。それにその時の状況にもよるだろうし」
「だよな」
「ね」
吉野くんは、私の意見に肯定してくれた。
もしも凛が私を裏切るようなヤツだったら、私はたぶん吉野くんにそのことを話す。
吉野くんならきっと、そんな凛のことを怒ってくれるだろうし、私の味方になってくれるだろうから。
私がそんな吉野くんに、うっかり惚れることもあるかもしれないし、ないかもしれない。
私はテーブルに肘を乗せ、頬杖をつきながら吉野くんのことを見た。
……でも……万が一にでも、凛がそんなヤツだったら──
半殺しにしてやる。
「その時は吉野くんも手伝ってね?」
「え?なんの話?」
「凛を半殺しにする話」
「なにその物騒な話」
吉野くんは最初笑っていたけど、私が冗談で言っていないことがわかったようで、その表情は徐々に冷ややかなものになっていた。
まあ……冗談……だけど。




