17 雨のせい
「凛、明日は居酒屋に行くよ」
仕事から帰り、凛が作ったごはんを食べながらそう言った。
「え?」
「明日凛の誕生日でしょ?一緒にお酒飲もっ?お祝いしよっ?」
私がそう言うと、凛は目を輝かせた。
「ありがとうモモッ。何着て行けばいいかな?」
「あの組み合わせがいいんじゃない?」
私は凛の服を出した。
「わかった。それ着てく」
凛はそう言うと私のほっぺにキスをした。
次の日、仕事が終わると凛と待ち合わせをして居酒屋へと向かった。
「ほらほら、なんでも食え。なんでも飲め」
私は凛にそう言った。
「んじゃ、食べ物はこれとこれと、あとはモモと同じの飲んでみる」
「じゃあ乾杯の定番、ビールからね」
そう言って私は注文した。ビールが届き、2人でジョッキを手に取った。
「凛、お誕生日おめでとーっ」
「ありがとうモモぉっ」
凛はグラスに口をつけた。
「んげ。何これ苦ぁ……」
「ははっ。凛の口には合わなかったか」
まぁ、凛はお子ちゃまだからな。
私は凛のビールを取り上げると、カクテルやサワーなんかの甘めなお酒を次々に頼んで凛に飲ませた。凛は美味しいと言いながら次々と飲んでいた。
……凛……私よりお酒強いじゃん……。
なんとなく弱いんじゃないかと思ってたのに、凛は何杯飲んでもケロっとしていた。
「もうっ。なんでりんの方がおさけ強いのっ」
「僕も酔ってるよ?なんか楽しいもん」
違う。
凛は私みたいになってないもんっ。
「りん……これぷれぜんと……」
私は酔っ払いながら凛にプレゼントを渡した。凛は嬉しそうにしながらそれを受け取った。
「……お財布……僕一生これ使う」
「別にそれ、一生もんじゃないよ?何年かしたら傷むよ?」
「ううん。すごく嬉しい。一生これを使う」
「……もうあんた、私のこと好きでしょ」
「モモのことなんか好きじゃない」
……やっぱりそうか……。
ニコニコしながら、凛はそう言っていた。
凛のことがよくわからない。私のことが好きじゃないのに、目の前の凛はこんなにも嬉しそうにしている。
でも……もういい。
それでもいい。
私は凛のそばにいたい。
凛の笑顔をこうやって見ていたい。
家に帰ると凛は私の腕を掴んだ。
「おめでとうのキスして?」
私は言われた通りにした。
「……おめでとうのキスだよ?そんな軽いキスじゃいやだ」
私はまた凛に唇を重ねると、今度は軽くはないキスをした。
「……もう……僕におへそ見せろよ」
「……やだ」
なんなの?
その“へそ”への執着は……。
私は凛からそっと離れた。
今日は凛と遊びに行っていた。
凛が“すごいキラキラなところを見つけた”と言いながら目を輝かせていたから、夕方に家を出て、凛に連れられ、その“キラキラ”の場所へと向かった。
到着する頃にはすっかりと日は落ち、その“キラキラ”の正体がわかった。
まだ11月だったけど……それはクリスマスイルミネーションだった。凛はまた目を輝かせながら「ねっ?キラキラでしょっ?キレイでしょっ?これをモモに見せたかったんだっ」……と、楽しそうに言っていた。
なんで凛は、こんなにも私のことが好きだというような行動をするのに、“好き”だとは言ってくれないんだろう……。
なんで……?
凛が“好き”だって言ってくれれば、私も素直にそう伝えるのに……。
「モモッ。どうっ?気に入ったっ?」
ねえ……なんで?
「モモ?」
凛……
私のこと……好きでしょ?
違うの?
凛がこのイルミネーションを、私に見せたいと思ってくれたことが、すごく嬉しかった。
だけどこんなのって……そう思うのってやっぱり凛は……。
周りを見渡してみると、そこはカップルで溢れていた。
みんな……幸せそうに見えた。
腕を組んだり、恋人繋ぎをしている人ばかりが目についた。
なのに私たちは……
“好きじゃない”と散々言われ、今も手すら繋いでいない。
なのに……
隣にいる凛はとても楽しそうにしている。
「モモ?どうしたの?キレイじゃない?こういうの好きじゃなかった?」
不安そうな顔をした凛が、私の顔を覗き込んできた。
「ううん。すごくキレイ。連れて来てくれてありがと」
私がそう言うと、凛は満面の笑みをして、「よかったぁ。モモにも見せたかったんだぁ」と、無邪気に笑っていた。
ひと通りイルミネーションを楽しんだあとは、適当なお店に入り食事を済ませた。
帰りの電車に乗り、最寄駅で降りると……
雨がザーザーと降っていた。
……最悪……。
雨は勢いよく降っていた。近くのコンビニに寄ってみるものの、傘はすでに売り切れていた。
クソ……
これじゃ、濡れて帰るしかないじゃん。こんなに寒いのに。家まで徒歩7分なのに……。
「凛。走って帰るよ」
「わかった」
私たちは自然とお互いの手を取り、雨が降る中、走って家へと向かった。
家に着き、すぐに浴槽にお湯を張った。
私は凛にバスタオルを手渡し、自分も濡れた体や頭を拭いていた。
「凛、先にお風呂に入って?」
「僕は大丈夫だから、モモが先に入って?」
「ううん。凛が風邪ひいちゃったら大変だから」
凛は私とは違って、危険が隣り合わせな仕事をしている。
もし……
凛が風邪なんかをひいて、それでボーっとしちゃって、なにか事故に巻き込まれる……とか、なにかやらかして、それが事故に繋がる……なんてことがないとも限らない。
「でもモモ……震えてる……」
「私は大丈夫だから」
「……だったら……一緒に入ろう?」
一緒に……?
「何バカなこと言ってんの?とにかく……もうお湯は半分近くまで溜まってるから、凛は早くお風呂に入ってきて」
そうやって話している間、凛は私のことを抱きしめ、ずっと体をさすってくれていた。
「……僕は後でいい。先にモモが入って」
「いいからっ。凛が……風邪ひいたら困るから……」
「……やっぱり一緒に入ろう?」
もう……
寒さの限界だった──
「じゃあ凛が先に入ってて。私は後から入るから……」
「わかった」
凛はそう返事をすると、すぐに浴室へと向かった。
なんで……私は、そう返事をしてしまったんだろう……。
こんなの違う。
間違ってる。
そう思いながらも、私は“暖”を求め、雨で濡れた服を脱ぐと、そのまま浴室へと……行かなかった。
全裸になった私は、引き出しから下着を取り出して身につけた。
水着だと思えば、恥ずかしくない。
それから浴室の電気を消し、そのまま中へ入った。




