16 まさかの締め出し
「なんでだよ。モモは僕のことが好きだろ?」
「好きじゃないってばっ」
「このうすらとんかちっ」
……あっっったまきた。
それはお前の方だろ。
私たちは数日後、またそんなケンカをしていた。
ケンカの原因は、私があの日からずっと、“キス拒否”をしていたから。
初めの方は拗ねていただけだったのに、とうとう痺れを切らした凛が、私のことを抱きしめると、そのまま頭も抱き寄せ、また深いキスをしてきたからだ。
「あんた私のこと好きじゃないんでしょ?」
「だから何回もそうだって言ってんだろっ?」
私はいつからか、凛の口から“否定”の言葉を聞くたびに、傷つくようになっていた。
そう言われるたびに胸が痛くなっていた。
あーもう……なんでこうなっちゃうんだろ……最近ケンカばかりだ。
でもムカつく。
私は凛から離れるとスマホだけを持ち家を出た。凛は追いかけてこなかった。
凛のばか。
凛のあほ。
なんで私のこと好きじゃないのに、ちゅーしてくんの?
ムカつく。
ムカつく。
ムカつく。
早く出ていけ。あんな狭い部屋に、でかいヤツがいるのは邪魔なんだよ。
私はコンビニでお酒を買うと、公園で飲み始めた。
なんであんなパピーヤローのことを好きになっちゃったんだろ……。
最悪……。
どうやったら凛と離れられるかな……。
私はそんなことを考えながら、ひとりでやけ酒をしていた。
スマホを確認する。
凛からの連絡は何もなしか……。
家を出てから1時間が経った。
……もう帰るか……寒いし。
家に帰ると電気をつけたまま、凛はベッドで壁の方を向き寝ていた。
私はコートを手にすると、床に置いてあるロングクッションに寝転び、コートを毛布代わりにしてリモコンで電気を消した。
「……何してんだよ」
起きてたんだ……。
凛の不貞腐れた声が聞こえてきた。
「そんなとこで寝たら風邪ひくだろ。こっち来て」
私は凛の言葉を無視した。すると凛はベッドから下り、私を抱き上げた。
「やだ。一緒に寝たくない」
私はそう言った。
「だめ。一緒に寝るの。モモ寝つけないだろ?」
凛は私をベッドに寝かせると、いつものように抱き寄せた。
「手冷たい。それに酒臭い」
「……」
「どこで何してたの?」
凛は私の手を握り、もう片方の腕を私の背中に回して、それからトントンとし始めた。
凛、あったかい……。
落ち着く……。
「公園で──」
私は全部を言う前に眠ってしまった。
次の日、私はある程度の荷物をまとめると、職場へと向かった。仕事が終わると、そのまま実家に逃げた。
「だめ。帰りなさい」
玄関で母にそう言われた。
「どうしてよっ。凛が家出した時は家に迎え入れたでしょ?」
「桃は自分の家があるでしょ?」
「ここだって私の家だもんっ」
「帰りなさい。凛くん、寂しがっちゃうでしょ?あの子、寂しがり屋なんだから」
……。
この家はもうだめだ。
凛に侵されてる。
クソ……。
職場から1時間半ちょっとかけてとんぼ返りかよ。
私は仕方なく自宅に帰った。帰って早々、凛がこう言ってきた。
「……お母さんから連絡あった」
お母さん……凛に連絡したんだ。なんて言ったんだろ……。
「実家の荷物を取りに行ってたんだろ?そういう時はちゃんと連絡して」
そういうことにしてくれたのか。
「ただいまのちゅーは?」
「そんなのしないよ。付き合ってもないのに」
「この前まではしてただろっ?」
凛はすぐ怒る。
ホント子どもっぽい。
「そうやってすぐ怒らないでよっ」
「だってモモが……」
「……」
「おへそ見せてくれないんだもんっ」
だからなんで“おへそ”なんだよ。
凛は目に涙を溜めていた。
泣くほどおへそが見たいのか……?
私はスマホを手に取ると、適当なヌード画像を探し、それを凛に見せた。
「ほら、あんたの好きな“おへそ”だよ」
凛はスマホの画面を見るとまた怒りだした。
「モモのおへそが見たいんだよっ。こんなどうでもいいヤツの裸なんか、どうでもいいんだよっ」
凛は鬼になっていた。
……鬼になるほど怒ってるのか。
なんだか、こんなに怒ってる凛の姿を見て、逆に冷静になってきてしまった。
もういいや。
面倒くさい。
ケンカって疲れる。
凛は、何をしてもどうせこの家を出ていかないし、こんな凛のことをやっぱり私は好きだし……
もういいや。
凛が何を考えてるのかはわからないけど、このまま過ごしていたら、凛はいつか私のことを好きになってくれるかもしれない……。
長期戦覚悟で頑張るか……。
「凛。もう怒らないで」
凛はまだ怒った顔をして泣いていた。
「仲直りのキスしよう?」
私はそう言って凛に近づくと、凛はすぐに私を抱き寄せ唇を重ねた。
「ごめんなさいは?」
凛はそう言った。
は?
こいつ……調子に乗りやがって……。
私は凛の両方のほっぺをつねった。
「生意気。あんた強引だしわがままだよ?」
「いたい……」
「あんたわがまま」
「……」
「わがままで頑固者で自分勝手」
凛は静かに涙を流していた。
「自分の思い通りにならないとすぐに怒るし。この癇癪ヤローが」
私はそこまで言うと手を離した。
「……ごめんなさい」
凛は素直に謝った。
「母さんにも僕はわがままだって、言われてた」
「うん。あんたわがまま」
凛は私を抱きしめた。
「捨てないで」
「捨てないよ」
「ここにいていいの?」
「だって出ていかないんでしょ?」
「うん。絶対出ていかない」
「いいよ、ここにいて」
私はとうとう、凛の強引さに負けてしまった。




