10 矛盾
休みの日に、ひとりでショッピングビルに買い物に来ていた。凛はもちろん仕事だ。
平日だったけど、それなりに人で賑わっていた。
私みたいにひとりで買い物をしている人や、抱っこ紐やベビーカーで、小さいお子さんを連れている人が多かった。あとは……大学生くらいの年齢の子。
色々と服を見て回っていると……
あ……あれ、凛に似合いそう。
1着の服が目に止まり、それを手に取り見てみた。いいじゃんこれ。値段もそんなに高くないし。
私はその服を腕にかけ、今度は自分の服を選び始めた。あれこれと色々と見ていると、店員さんがお買い物バッグを手渡してくれ、私はその中に数着の服を放り込んだ。
よし、こんなもんでいっか。
バッグをレジに持って行くと、店員さんが次々にバーコードを読み取っていた。
私なんで……凛の服を2着も買ってるんだろう……。
……ま、いっか。
その他にも日用雑貨などを買ってから、家に帰った。
ある日、ベッドを背もたれにし、2人でテレビを見ていると……
「モモは彼氏いたことある?」
凛がいきなりそう聞いてきた。
「なんでそんなことを知りたいの?」
「知りたいから」
「あるよ」
私がそう答えると、凛は私の手を握り、鬼になった。ツノが出ていた。
なんで……
凛はすごく怒った顔をしていた。
なんでよ……。
別に私のことを好きじゃないんでしょ?ならなんでそんなに怒るの?
さっきまで楽しそうにテレビ見てたじゃん……。
それにしても……すごい力……。
「痛い……」
「……」
「手、痛い……」
それでも凛は、私の手を握る力を緩めなかった。
テレビからは賑やかな音が聞こえてくるのに、この狭い部屋の空気は、ピーンと張り詰めていた。
エアコンを稼働させているのに、背中に汗がツーッと流れるのを感じた。
それは……
逃げられない──
そう感じたからだ。
今、凛に押し倒されたりでもしたら、私はきっと凛から逃げられない。それほど凛の力は強かった。
「凛、怖いよ」
「僕が怖いの?」
「……怖い……」
私がそう言うと、凛のツノが引っ込んだ。それから悲しそうな顔をした。
「僕が……鬼だから……?」
違う。
違うよ凛。
鬼とかそんなの関係ない。今の凛がただ怖いだけ。すごく……怒った顔をして、私の手を強く握ってるから……。
「僕が鬼だから怖い?」
「そうじゃない」
私はちゃんと説明をした。
「……鬼が怖いわけじゃないんだね?」
「うん」
「……ごめん」
凛はここでやっと普通に戻り、私の手を握る力を緩めた。
「ごめん……」
凛はまだ悲しそうな顔をしていた。そんな顔を見るのは初めてだった。
私は凛のそんな顔を見るのが嫌だった。
なんで……そんな顔をするの……?
私は手を伸ばし、凛の頬に触れた。凛はそんな私の手に、そっと自分の手を重ねた。
「服、脱がせてもいい?」
だからそれ何なの?
「いいわけないでしょ?」
「……おへそ見せて?」
は?
へそ?
へそフェチ?
「なんで?」
「見たいから」
「キモ……」
凛はがっかりとしていた。
凛が何を考えてるのかがわからない。
凛が言うこと、凛の行動、全部全部わからない。
私のことが好きそうな態度をとるくせに、私を好きじゃないと言う。嫉妬するくせに、私のことなんか好きじゃないと言う。
もうなんなの……?
わけがわからない。
それになに?おへそ?
見たけりゃプールにでも行けばいい。
凛は毎日のように子守唄を歌い、私を寝かしつけていた。私はいつの間にかそれで眠ることが当たり前になっていた。
本当に凛の子守唄は心地いい。私はそれを聞くとすぐに眠くなるようになっていた。
まるで催眠術にでもかかったかのように、本当にスッと眠りにつくことができた。
「モモは子どもだね」
は?子どもはお前だろ。
ベッドに2人で寝転ぶと、凛はそんなことを言ってきた。
「僕が子守唄を歌うとすぐに寝る」
……そういう意味か……。
でもなんだか悔しくなった。
こんなに何も知らない凛に言われると、腹が立った。
「凛の方がよっぽど子どもだよ」
「僕はもう大人だよ?下の毛もちゃんと生えてるもん」
みんな生えるんだよ。
「明日も早いでしょ?もう寝よう?」
私がそう言うと、凛は私を寝かしつけた。
でも……
こんなのおかしい。
わかってる。
次の日、私は少し大きめのロングクッションを買って帰った。
寝る時間になると、私はそのロングクッションの上に寝転んだ。
「何してんの?」
「寝るの」
「ベッドで寝ないの?」
「うん」
「じゃあ僕も床で寝る」
凛はそう言うと私の隣に寝転んだ。
「体が痛くなるんでしょ?ベッド使いなよ」
「僕は鬼だから、そんなんで体痛くなんないよ?」
は?
前言ってたことと違うじゃん。
「じゃあ私がベッド使う」
私はベッドに寝転んだ。すると凛も隣に寝転んだ。
……。
「床で寝てよ」
「やだ。床で寝ると体痛くなるんだもん」
なんだこいつ。
凛は後ろから私を抱きしめた。
「あんた私のこと好きなんでしょ」
「モモのことなんか好きじゃない。モモが僕のことを好きなんだ」
なんでそうなるの。
「違う。それはあんたの勘違い」
「わからずや」
「本当のことだよ。凛のこと、別に好きじゃない」
「モモのばか」
「凛のあほ」
「ばーかばーか。モモのばーか」
「はいはい。わかったからもう離れて。暑い」
「やだ」
凛は私の体の向きを変えさせると、いつものように私の背中をトントンとしながら子守唄を歌った。
こうならないように、クッション買ってきたのに……。




