軌道空域編⑧-2 陸戦演習
「ふふ、」
イヴ機は左脚から膝部、踵を上げ、ハンガーの外へ後退をする。
A、─「イヴ、バランサーを切っているな?」クズノハさんの指摘通りなのだろう。「あなた」は左足でクラッチペダルを踏み、右足の親指付け根の膨らんだ部位で軽くアクセルを踏む。
しゅるりらら、
ピュモッソの内燃機関から送られた動力は腰部から股関節、脚部へと送られてギアを高速で回転させる。それでいて、ゆっくりとイヴ機に合わせて歩行する。
「えらいすっとろいんちゃうの?」
レシーバーの感度が高過ぎて、集音マイクがマチコの声を、まるで隣にいるかのようにコックピットへ響かせる。
かちち、
ダイアルを回して音量を調節する。
「いいや、ロミネンシアは本来高速機動で作戦を行う。コックピットはアナログで操作するが入力自体はデジタルの電気信号だ。2人ともが、それを理解した上で精密な動作を行なっている。」
クズノハさんが話をしているので、音量の調整は難なく終わった。
ぱあ、あ。
ハンガーの外に出ると、秋の空が、コックピット前面の、6枚のパネルがはめ合わさったモニターへ表示される。
ぎゅるりりぃ、ずぅん。
連日跳ね回った影響で、小隊用演習場はすでにでこぼこだ。
「ナイン様、要救助者はいかかいたしましょう。」
A、「御随意に。」
その言葉に合わせて、
ふぉ、ん。
遠くのイヴ機から衝撃波があり、
ぱしいぃぃ。
でこぼこの土が崩れ、高さ2メートルほどの、無数の立方体となる。
A、─「それでは─。」
しゃこおお。
イヴ機が、ギター状の弦楽器を構え、背面サブアームとそれの握る─、
バヂィィィイ!
大型アンプが、接続される!
「ケツを振りな、ベイベー!」
ジャジャじゃ、ギュイーン!
イヴ機を中心として、そのギター弦を弾く振動が増幅器であるアンプを通じて衝撃波となる!
ガキュウ、ン!
「あなた」はイヴの叫びに合わせてピュモッソを駆けさせる!
しゃき、あ、かしゃ、かしゃ!
一対の前腕それぞれで要救助者に見立てた土人形を手に取り、背面サブアームで抱えてゆく!
爆心地となるイヴ機とその向きから衝撃波の方向、アンプで指向性を持たされた音の範囲を予測し、要救助者の群れを庇うようにピュモッソの側面で受ける!
ギャチ、ぺーぺーぺーぴー。
コックピットに被弾アラームが鳴り、モニター左下のインジケーターには機体左腕の耐久性が低下した事を示す文字が映る!
ジャコッ!
クラッチとアクセルを小刻みに踏み、連動してピュモッソはステップを踏み、イヴ機の衝撃波から土人形を庇い、前腕で救助する!
シュキャアア!
サブアームに抱えた土人形は、人体と同じように脆い!
ピュモッソの起こす振動には耐えられない!
しゃきゃ、キ!
救う!
左右の操縦桿上部カバーを押しサブアームもマニュアル操作!
機体の起こす衝撃と高速機動からの遠心力を感覚で計算し、柔らかな動きとなるように移動させる!
まるで自由落下を起こし回転するジェットコースターを、メリーゴーランドのような、軽い浮遊感のある乗り心地にする!
ぎゅおおーん!
イヴが演奏を終え、機体左腕とその指先が、天を指す。
しゃきゃああ。
「あなた」は、ピュモッソを跪かせて背面サブアームと土人形を下ろす。
「おー、だーいたい無傷ですなー。」
ふよふよと浮いたガルデニアが、背面サブアームに抱えた土人形を見ている。
「やっぱりナインはやりまーすねー。」
「相変わらず無茶苦茶やなー。」
「ピュモッソとの同調も良い仕上がりですね。」
マチコとクズノハさんを抱えたヒュネアが浮いている。
日常に、のどか、になってしまった、訓練風景。
ジジー、ザ。
広域戦場通信が入る。
「我々は─、」
聞き慣れない声だ。
カチ。
「あなた」は機体の外部スピーカーをオンにして、手前に映るヒュネアたちにも聞こえるようにする。
「現時刻を以て、AAoEの圧政に叛旗を翻す─。」
きゅお、
背後で、煌めきがあった。
「あなた」とピュモッソのカメラが振り向く前に、楠木駐屯地が、爆発した。
「新全球統治機構、NAoEである。」




