軌道空域編⑦早朝
たったった。
足取りを軽く、弾むように走る。
両膝のクッションと足首の柔軟性、腰の可動域を最適化させる。「ふっ、ふっ、ふっ。」全身を巡った酸素がその役割を終え、肺から出る。
ぶつ、
サイレンの電源が入る。
てんてれ、れんれ、てんれれれれれん♪
起床ラッパが鳴る。
グラウンドの利用申請を行なった時に、朝食後まで、と許可を得た。今のラッパは0600のものなので、0730までは使えるだろう。
ペースを落とし、ゆっくりと歩く。次は幅跳びだ。
「おはようございます。」
正規の隊員達が体力錬成のために出て来た。
ばしっ。
両脚かかとを揃えて姿勢を正し、左肘を肩の高さまで上げ、手を軽く握り、甲を相手へ向け、左胸に当てる。命球での騎士過程で身に付けた軍礼と、「おはようございます。」と返す。「異星の騎士と聞きましたが、軍人としての動きの中に美しさもありますね。」
隊員達は軽く微笑み、白い歯を見せたので「あなた」も微笑む。形式としての挨拶は終わり、ここからは対等に話をしよう、と言う合図なのだろう。
彼は軽く頷いて、
「私達の隊より先に使用申請を行なった人物がいる、と聞いたのでもしや、と思いましたが。」
そう切り出した。やはり、場所と組織は違っても、中の人は同じ人間なのだ。息の抜き方も似てくるのだろう。「あなた」は「そうですね、同僚と言うか、妻が鍛錬の鬼ですので。」と返す。
「奥さんって、あのガルデニアさんでは?」
「あなた」は肩をすくめて苦笑いをする。
命球では当人同士が認めれば、パートナーの数、性別また種族に制限は無い。これは星間絶滅戦争でほんの20数人まで人口が激減したため、口付けで子を発生可能とし、更に時間圧縮で養育にかかる時間的、金銭的コストがほぼゼロになった事に関係する。どう簡潔に説明しようかと「あなた」が口を開こうとした所─。
ぽん、
「ナインはやっかいな女どもに執着されやすくてですなー、ナインだけのお嫁さんがわたし合わせて9人いて、他のも合わせたら星の数ほどいますなー。」
軽く浮いたガルデニアが、「あなた」の背後から両肩に手を置いて声を出した。
うおお、とざわつく隊員達に対して、
「それじゃーナインは借りてきますぞー。」
ふわ、
身体が持ち上がる。「待って友達が出来そうだったのにー!」声を上げるも「あなた」は運ばれる!
しゅぱ。
目まぐるしく施設の中を「あなた」の身体は運ばれる。すれ違う隊員達は面白いものを見る目で「あなた」を見る。「ヨメさんに内緒で鍛錬してたそうだ。」「奥さんが寝てる間しか自由になれないのか。」「自由になってやる事が体力作りかー。」「私もナインさんを見かけなかったか聞かれた。」「愛されてる。」さまざまな声が聞こえる。「うう、ここにいる間くらいは普通の人として生きたかった。」食堂の椅子に置かれた「あなた」はさめざめと泣く。
「ナイン様またグラウンドに行ってたの?」
「昨日はロミネンシアのハンガーでグリスまみれでしたー。」
「ナインはズレとるけど普通の人は日の昇る前から走り込みやらへんねん。」
かちゃ、かちゃ。
みんなにさんざんに言われながら、「あなた」はトレーに盛られた豆の山にスプーンを差し込む。
「以前から観察していたけど、やはり君からは目が離せないね。」
テーブルの端には、
A、「何でクズノハさんいるのー!?」




